研究論文1におけるべからず集2です。論文の書き方そのものについてはこちら。
全体について
説明の流れが行って戻ってとならないこと。
Aについて説明した後Bについて説明し、その後またAについての説明に戻る、というのは駄目です。説明の流れは常に一方向のみとしてください。
略語を多用しないこと。
基本的に、その業界で普通に使われているものでないのならば、略語の使用は避けるべきです3。略語の多用は基本読者をいらつかせるだけものだと思ってください4。何度もその語句が論文中で使われているからといって、自分で(ほかの論文でも見たことが無いような)略語を定義するなんてことはしてはいけません。
定義せずに記号を使用しないこと。
記号はちゃんと定義してから使ってください。これに関しては教科書レベルのものであっても5ちゃんと明示しなければなりません6。
同一対象に対して複数の名詞を使用しないこと。
同一対象に対して使う名詞は常に同じにしてください。あるものをあるところではAと呼び、あるところではBと呼ぶ7のは混乱を生じさせるだけです。色々な動詞を使う8のは悪くありませんが、名詞については、同じものは同じ名詞、違うものは違う名詞というのを心がけてください。
教科書に書かれているような事柄をつらつらと書かないこと。
教科書の内容が重要ではない、という意味ではありません。読者が当然知っている事柄は論文に書く必要はないですし、またほかで十分に説明されているならばそれを引用すればよい、ということです。この論文を読んでしかわからないこと(≒著者らが何をどうやったのか)をまずはしっかりと書いてください。
一般論的な表現を避けること。
「この関数は再急降下法や共益勾配法によって最小化できる」ではなく、「この関数を再急降下法によって最小化した」のように、具体的に何をどうやったかがわかるようにしてください。
なめてかからないこと
はじめての英語論文の場合、初稿ができてから投稿まで1か月くらいかかる(もちろん修正、修正で、ということでです)のが普通です9。脅かすつもりは全くありませんが、すぐに書けるだろうとは考えないでください。
Titleについて
Study on...やResearch on...としないこと。
論文10のタイトルをStudy on...やResearch on...としてはいけません11。研究なのだから当たり前で、単にタイトルを長くするだけの意味しかありません。
以前の研究発表と同じタイトルにしないこと。
研究発表は新規性を持っていることが絶対条件です。当然内容はそうなっているはずですが、同じタイトル=同じ内容とみなされますので、以前の研究発表とタイトルが同じになっていないかは確認しておいてください。
Abstractについて
Short introductionなAbstractとしないこと。
ありがちなのが、Abstractで背景をつらつらと書き連ねて、最後の1文で何をやったかを書く12、というものです。Abstractは本来研究全体を端的にまとめるものです。何故この研究をやったのか的なことの説明は最低限にして13、何を目的として14何をどうやった、そしてこんな結果が得られた、ということを簡潔にまとめてください。
Abstract中で文献を引用しないこと。
文献引用してもよい、と規定に明示されている場合を除いては、Abstractでは文献を引用してはいけません。図表についても同様15。
Keywordsについて
論文タイトルに含まれる語ばかりにしないこと。
論文のキーワードはもともとはその論文の分類や検索のためのものです16。通常キーワードは論文タイトル(+Abstract)と一緒に用いられるものですので、キーワードが論文タイトルに含まれる単語ばかりということは、何も情報を追加していないということにもなります。論文タイトルに含まれる単語を全く使わないとするとそれはそれで変なことになるかもしれませんが、なるべく論文タイトルにある単語を言い換えた単語か、より一般的もしくは具体的な事柄をあらわす単語等にして、検索などに引っ掛かりやすくするべきです17。
Resultsについて
有効数字を無視しないこと。
工学的には0.1と0.10は意味が違います。例えば数値解析の結果をそのままコピペして、L=1.025950195000210578mのようなことを書かないこと18。どれくらいの精度でその解析なり測定ができているの、というのは常に注意しなければなりません。
図について
複雑な図をつくらないこと。
一目でわかる図である必要は必ずしもありません。が、線がごちゃごちゃしてどれがどれだかわからないような複雑な図は避けてください。1つの図に線が7本も8本もあるようでしたらちょっとやりすぎです。
不適切なグラフ(形式)を使用しないこと。
どのようなデータに対してどのようなグラフを使うべきかということは概ね決まっています。例えば折れ線グラフはデータとデータの間を線でつなぐわけですから、縦軸と横軸の値は共に連続的にとれる数値であることを前提としているわけです。一方で棒グラフ19では横軸の値は基本的にはカテゴリー(つまり条件Aとか条件Bとか)です。見た目がいいからというだけの理由でグラフを選んではいけません。
白黒印刷だとわからない図を作らないこと。
カラーが許可されている場合でも、基本的には白黒印刷しても問題がないような図20としてください21。
Referencesについて
自分たちのグループの論文ばかりを引用しないこと。
初学者がやりがちなのが、自分たちのグループからの研究ばかりを引用してしまう22 ことです。一般論として、自分たちのグループからしか関連研究が無いのであれば、それは誰の興味も引いていない研究とも捉えられかねません23し、最悪いわゆる被引用数稼ぎの論文ともみなされかねません24。日本からの論文の自己引用率は2割を下回るくらいだそうですので、まあ3割くらいまでにとどめておくべきではないでしょうか。
読者が入手しづらい文献を引用しないこと。
どうしてもそこにしか情報が無いという場合を除いて、引用する文献は広く公開されているもののみとするべきです25。なので、基本的にはdoiがついている論文、せめて学会プロシーディングか博士論文で、修士論文や卒業論文を引用するのは避けるようにしてください。
- いわゆる学位論文ではなく、投稿論文を想定しています。
- 例によってここら辺はちゃんと抑えた上での初稿を持ってきてね、という意図です。
- 例えばNon-destructive testingをNDTとするのは普通のことですし、またむしろNDTとしてもらったほうがわかりやすいので、全く問題ありません。
- 略語ばかりの論文の査読は本当に嫌になるものです。
- Eが電場なんてことは、その下にあるMaxwell方程式みればわかるだろう、という気持ちは十分に理解するのですが、、、それでもだめです。
- たまにですが、普段我々が+何とかとしているものをーなんとかと定義している論文があったりします。記号はあくまで記号、その記号が何を意味するかはまた別の話です。かといって一般的なものとは全く異なる記号を使うのもどうかと思いますが。
- かなり極端な例ですが、これに近いことは結構やってしまうものなのです。
- 常にFigure X shows...ではなく、Figure X presentsやFigure X illustratesとする、とか
- 半永久的に残るものですので、ベストを尽くしましょう。
- 学位論文であれば問題ありません。
- Numerical study on...であればいいかもしれませんが。
- 場合によってはどんな結果が得られたかも書かずに。
- 背景は書くな、といわれていたこともありましたが最近はちょっと違ってきているようにも感じます。
- はせいぜい1文で。
- いわゆるShort paperをAbstractと称することもあるので、その場合はまた別です。
- 私も完全に理解しているわけではないですが、電子版のデータベースが無かったころの名残ではないかとも思います。
- 全文検索が容易にできるようになってきている今あんまり気にしなくてもいいのかもしれませんが。
- 原子単位での測定を行ったんですか?ということです。
- ヒストグラムは違います。
- グラフの線が判別できる、真っ黒になってしまわない、など。
- 現在論文のほとんどは電子化(=カラー無料)されているのでかつてほど気にする必要は無いのもまた事実ですが。一応の作法として。
- 下のリンク先にあるNatureの記事でもこの傾向が明瞭に示されています。
- もちろん全くのオリジナルで先行研究が全くないという場合もあるのでしょうが、その場合でも問題の提起においては関連研究があるはずです。
- 普通のジャーナルであれば自分たちのグループからの論文しか引用していない論文は査読に回すことなく却下します。
- かつてはPrivate communicationを参考文献扱いするということもあったのですが、(おそらく)インターネットの発展により情報や各種コミュニケーションが容易になった今ではほとんど見かけなくなりました。