学術論文誌に論文を投稿した場合、まずはEditor-in-Chiefが論文を確認し、論文の内容に応じて当該論文を取り扱うEditorもしくはAssociate Editorを決定し1 、割り当てられたEditor/Associate Editorが当該論文の評価と査読者選定などを行うことになります。一方で近年の投稿論文の激増に伴い、これはちょっと査読に回せないという論文の投稿が増えているのも確かです。 査読に回されることなく拒絶されることはEditor Kick2とも呼ばれますが、私自身がどのように投稿されてきた論文を査読に回すかどうかを判断しているか3まとめておきます456。
Contents
まずはCover letterをざっと読む
当然ながらまずはCover letterにざっと目を通します。明確な基準があるというわけではありませんが、以下のようなものは流石に査読に回せませんでした。
投稿先雑誌名が違っている
「この原稿を***誌に投稿させていただきます」的なことが通常書かれているのですが、信じがたいことにこの***誌が他の雑誌のものという場合が少なからずあります7。他の雑誌からリジェクトされたものをそのまま投稿してきたということはある意味明白ですが、実のところ雑誌が異なっていても同じ査読者に回る可能性は結構高い8ので、これは流石に査読に回せません9。
Scope of Journalであることが述べられていない
これはちょっと難しいのですが、ある程度Scopeが広い雑誌となると、タイトルだけでは雑誌の範囲内なのか判断がつかないことが多々あります。なので、このような理由で**誌の読者に有益であるという情報が無い場合、査読に回しづらかったりもするのです10。
続いて図を確認
本文を確認する前に、まずは図を確認します。で、以下のような場合11は査読に回すことなく修正を求めます。
結果が商用ソフトウェアのスクリーンショット
信じがたいかもしれませんが、解析に関して、商用ソフトウェアのスクリーンショットをそのまま使っている論文が非常に多いのが事実です。もちろんスクリーンショットを利用することはいいのですが、利用するのではなく全くそのままで、どこが何かわからないのみならず寸法も全く書かれていない解析モデルに関する図や、色が何を示すのか全く分からないきれいなカラー画像12、というのが普通に示されていたりもします13。
あまりに低解像度
これまた信じがたいのですが、非常に低解像度で、軸の説明が読めないという場合も多々あります14。残念ですが、そのような論文を査読に回すわけにいかず、もっと高解像度の図にするようにとコメントして著者に返却せざるを得ません15。
わけわからない
実のところ取り扱う論文の大半は私の専門分野とはいえないものです16。が、それを差し引いてもこの図はわけわからないだろうというものが少なからずあったりします。例えば3次元空間に線が描かれている17とか、線やマーカーが重なり合っていて全く判別できないとか。ぐちゃぐちゃな図を見せてだからこうだといわれても、さすがに同意はできません。
デフォルトのExcelの図
これは即返送となるわけではないのですが、やはりデフォルトのExcelの図をのっけている論文は、いろんな意味でクオリティが低いのが事実です18 。図がExcelの、というだけで、ちょっとその後の評価にバイアスがかかってしまうのは否めないところです。
pptのコピー(?)
最近非常に多いのがこれです。まさか学会発表時のスライドをそのままというわけではないのでしょうが、そうとしか思えない図(色々な写真とかグラフとかが1つになっているような)を使っている論文がかなりの割合であります。で、往々にしてそういった図はぱっと見で何となくはわかるものの、図中のものについての説明が無かったり場合によってはグラフの数値もよく見えなかっただったりします。これも即返送というわけではありませんが、基本的にはイメージ優先の図というのはNGです。
Copyrightは大丈夫か?
写真やきれいなイラストが使われている場合、「著作権上の問題を避けるため、適切なCopyright Permissionをもってるか(Permissionを取っているか、もしくは自身で作成したものかを)Cover Letterに述べるように」と返すようにしています19。
既存論文との過剰な重複のチェック
図に明らかな問題がないことが確認できれば、次に新規性のチェックに入ります。とはいっても、取り扱う論文が自身の専門分野と一致していないことが大半なので、詳細までは立ち入ることができません。私は大体以下のように対応しています。
重複スコアの確認
多くの出版社において、投稿された論文が本当にオリジナルかどうかということを機械的にチェックする機能がEditor/Associate Editorには提供されています20。あまり詳細は書けませんが、このチェックの数値が***以上の場合は基本的にはNGですよ、ということになっています。
既報論文との類似性チェック①
上の機械的チェックでは、どのソースとどれくらい似ているのかというリストが出てきます21チェックの結果***と似ているとなった場合、実際に***と投稿されてきた原稿を見比べて、明らかに同じだよね/ほとんど同じだよね、となると、No originalityもしくはToo similiar to となり、拒絶とならざるを得ません。かつては学会発表の結果を膨らませて投稿論文というのは普通だったのでしょうが、学会発表における発表論文もWeb上で掲載されることが多くなってきたため、結構これで引っかかってしまう論文が多かったりします。
既報論文との類似性チェック②
次に、著者らのグループからの最近の論文のチェックを行います22。で、明らかに同一トピックの研究発表がなされていた場合、その発表内容と投稿されてきた論文の内容の類似性、および当該研究発表を引用したうえで新規性の主張がなされているかをチェックします。往々にして当該研究発表が引用されておらず23、結果として「著者らのグループから発表されている***からの新規性を明瞭にせよ。」とコメントして返却することになります。
論文内容のチェック
以上問題ないことを確認したうえで、本文に目を通します。もちろん技術的なところは査読者の意見を求めることになるのですが、それ以前の段階として、以下をチェックし、査読者にまわすべきかどうかを検討します。
明らかな英文ミスの山
これまた信じがたいかもしれませんが、Abstractの1文目から英語として成立していない原稿が結構投稿されてきます24。申し訳ないですが、そういった論文は内容以前の段階でRejectせざるを得ません25。
参考論文が自分たちのグループからのものだけ/特定のグループからのものだけ
研究室会資料でいいでしょ、ということです。論文とは世間一般に自身らの知見を提供するためのものですので、参考論文が自分たちのグループからのものだけ=自分たちのグループ以外に興味を持つ人がいないんでしょ、ということになってしまいます26
細切れ段落
テクニカルライティングを勉強してから論文を投稿してください、と返しています27。
再現性を確認する十分な情報がない
多分Editor Kickする一番大きな理由がこれです。色々とすごい結果が得られたようなことが書いてあっても、その結果を再現するために十分な情報が書かれていないのであれば、リジェクトせざるをえません。私は「結果を再現するか、少なくとも結果の妥当性を判断できるだけの、手法に関する詳細な情報を述べてください」との定型文と共に返却するようにしています。
厳しすぎると思うかもしれませんが、対応しなければいけない論文が週に数十となると相当程度機械的にスクリーニングしていかないと対応できないのです28。
ただ、実のところ普通に教員が見ていればあり得ないものが大半だったりします。世の中色々と余裕がなくなって、効率を追求した結果かえって非効率になっているんじゃないかと感じてもしまうわけです29。
本ページのアイキャッチ画像はImage Creator from Designerを使って生成しました。
- 場合によってはEditorがさらにAssociate Editorということもあります。
- 俗語。多分正確にはデスクリジェクション/デスクリジェクト。
- 複数の国際論文誌のEditor/Associate Editorとしての。スーパートップレベルというわけではありませんが、雑誌自体の評価はそんなに低くないはずです。
- もちろん世の中に対する自身の不平不満をまき散らすことが目的ではなく、こういう論文をというこうしてはいけませんよ、という意図です。
- こういう論文はリジェクトされますよ、といった情報は色々なところで入手できると思います。が、正直なところ、それ以前というのが非常に多いのです。
- 私が学生の頃(四半世紀以上前)は「査読をやるのも勉強だ」と言われておりましたが、正直今は反面教師にもならない論文がそれなりのレベルの雑誌にも大量に来る状態なのです。
- 体感で20分の1くらい。
- 実際に、査読者から「これは以前に査読した。その時と全く変わっていない。」とのコメントが来ることが結構あります。
- 私がEditorをやっている雑誌では、「他誌に投稿して掲載拒絶となった場合は、どの様な理由で拒絶されたのか、また指摘に基づいてどのように原稿を改善したのか」を述べるように求めており、その点でもこれはNGと言わざるを得ません。
- とだけ書くとどうかと思われるのかもしれませんが、実際には「この論文を**誌に投稿する。Thank you!」だけのCover letterとか、内容説明としてAbstractを張り付けただけのものとかが、かなりの比率であります。こっちもちゃんとやっているんだからお前もちゃんとやれよ、という話ですね。
- 実のところ非常に多かったりします(私がEditorをやっているQ1の雑誌で5割くらい)。
- プレゼンでは悪くないのですが、論文では明らかにNGです。
- 実験結果でも、オシロスコープのスクリーンショットをそのまま掲載、なんてのが結構あります。
- 投稿システムでpdf化された際の問題なのかもしれません。が、投稿pdf自体も著者が確認しているはずなので、システムのせいにしてしまうのはどうかと思います。
- 査読者としても図中の文字が読めないのであれば評価できませんし。
- もちろん査読者という立場では専門分野のものだけを引き受けるようにしています。
- 普通に2次元のグラフでいいはずなのですが・・・数値が全く分からなくなるだけだと思うのですが・・・
- そんなにレベルの低い雑誌ではないはずなのですが・・・
- その場限りの会議プレゼンであればどこからとったという情報を載せるくらいでいいと思うのですが、流石に論文となるとそうはいきません。
- 例えばElsevierであれば、投稿された原稿に対するiThenticateという剽窃チェックツールのチェック結果が自動的に表示されるようになっています(全部のElsevierの雑誌ではないかもしれませんが、少なくとも私がAssociate Editorをやっている雑誌では)。
- ツールによっては出てこないのかもしれませんが。
- これも簡単に行えるのです。
- 意図的に・・・と思いたくはないのですが、思わざるを得ません。
- 英語が学術発表におけるデファクトスタンダードとなっていることに対してはNon-native English spearkerとしては思うところはないわけでないのですが。
- 当研究室においては、投稿論文は全て英文校正をかけたうえで投稿しています。
- かつてはそれでも発表しないよりは発表したほうが良かったのかもしませんが、今であれば「それは自分らのウェブサイトで公開すればいいでしょ」とならざるを得ません。
- どんな文章でも読んでもらえる/わからないのは読み手が悪い、というのは明らかな間違いです。読んでもらいたいのであれば、読んでもらうための勉強をするべきです(いや、読まないほうが悪いでしょ的なものであれば別ですが)。
- 1つ1つにしっかり目を通するには時間が到底時間が足りません。
- 指導教員がちゃんと見てもいない論文をとりあえずトップジャーナルに送って、万が一通ればラッキー、ダメなら査読者の指摘対応して他のジャーナルに、といった感じのことをやっているように思えてなりません。指導教員の労力という意味では悪くない方法なのかもしれませんが・・・・いいんですかね、それで。