当研究室において学生1が論文2を書く際に指摘している一般的事項のまとめです3。研修II要旨の書き方とダブる面は多々ありますが、改めて。尚、研究室としての論文発表に関する事柄はこちら。論文を書くに際してのべからず集はこちら。
全体について
まずは全体構成を決めましょう。
まずはどのような構成で論文を書くのかを確定させましょう。まず基本を身に着けるべきですので、最初のうちはIMRADで書くことを推奨しています4が、論文の内容によっては他の構成が適切である場合もあろうかと思います。論文は言いたいことをすべていえばいいわけではなく、適切な情報を、適切な順番で提示していくことが重要です。ここが変わると全体が大きく変わる可能性もありますので、まずは指導教員としっかり議論し、 どのような構成にするのかを明確にしてください。
なるべく短く。
論文の長さは論文の価値とは全く無関係です5。むしろ長くなるほど価値は落ちると思っていいかもしれません6。なるべく短く、重要な点を簡潔7に述べるようにしてください。
読んでもらえて当然、と思ってはいけません。
高校までは難解な文章を読みとける能力が評価されるのですが、実のところ「わかりやすい文章を書く」能力の方が「わかりにくい文章を理解できる」能力よりもはるかに重要になります。また、はっきり言って読者にはわかりにくい文章をわざわざ理解しなければならない義務はありません。わかりにくい=ダメ、ということで相手にもされないのが実情です。読んでもらえないならスタートラインにも立てません。 なので、読んでもらえるようにわかりやすく書く89 ことを怠ってはいけません。
読者が知りたいことを、知りたい順で書いてください。
上とも関連する事柄ですが、本来論文は自分のためではなく、他者のために書くものです10。なので、読者にとって有益であることを、適切な形で述べるというのが大原則です。著者は全部を知ったうえで文章を書いていますが、読者は読んだところまでに書かれていた内容(+一般的知識)しか知りようがありません。なので、常に読者の立場になって11論文を書いてください。
段落を意識しましょう。
段落とは、ある1つのことを主張するために集められた文の集合です。長いから段落を分けるというのは明らかな過ちです。また、その段落の各文はその段落で言いたいことを言うために本当に必要なのかを吟味してください。
まずは結果の図を作りましょう。
文章を書き始める前に、まずは載せる結果の図を作ることを強く勧めています12。論文においては、言いたいことが読者に明瞭に伝わるように、うまく13データを図表としてまとめなければなりません。また、その際取ったデータ全てはのっけられないのが普通です14。最初のうちはデータを取ることに必死でどのようにまとめるかまで考えられていないのが普通ですので、一度落ち着いて図を作ってみると、色々と頭の中が整理されてくる15ものです。
テクニカルライティングを勉強しましょう。
最初のころは自分の書いた文章が全くなくなるくらいに赤が入ることになると思います。が、一方で、先輩や教員が常に正しいわけでもありません。直してもらえるんだからいいやということではなく、何故そう直されるのか、何故そうしたほうが良い文章になるのかということを考えていかないと、論文執筆を通じて得られるものが極めて少なくなってしまうと思います16。世の中にはテクニカルライティングの本17がたくさんありますので(当研究室にも大量にあります)、自分なりに勉強してみてください18。
英語の問題ではありません。
どう書くかは言語に依存しますが、何を書くかは本来言語に依存しないはずです。まずは何をどこに書くかを明確にしてください。そこが明確になっていないのであれば、言語以前の問題です19 。
Abstractについて
何をどうやってどんな結果が得られたか、ということを簡潔にまとめてください。背景をつらつらと書く必要はありません20。一通り論文の本文が書けてから書くべきものなので、基本的には最後に。
Introductionについて
基本Introductionはあとまわし。
Introductionにおいては、これまでの研究を踏まえて今回の研究の重要性を述べる必要があります。が、これは初学者にとってはかなり難しい事柄です21。一方で自身がやったことというのはそれなりに書けるはずですので、最初のうちはMethods→ Results and discussion→ Conclusion→ Abstract→ Introductionという順序で書くよう22に勧めています23。
4段落構成を基本にしてください。
上に書いた「段落の意識」が非常に重要になるのがIntroductionです。基本以下のように書いてください24。
- 第1段落:読者25が当然同意してもらえるような重要な課題について述べる。
- 第2段落:第1段落で述べた重要な課題を解決するためにカギとなる(かもしれない、でももちろんOK)事柄について述べる。この事柄はこの研究が取り組む課題であること。第1段落での課題が非常に大きい場合、細分化→さらに細分化的ということで226段落に渡るのもあり。
- 第3段落:上で述べた事項(この研究が取り組む課題)に対してこれまでどのような試みが行われてきたか、また何故それらでは不十分なのかを述べる。関連研究はしっかり引用すること。上と同様場合によってはさらに2段落にということもあり。
- 第4段落:第3段落で述べたこれまでの試みの問題を受け、この研究ではどのようなアプローチで何を行うのかを明確に述べる。
この研究をやることの重要性、必要性をアピールしてください。
やられていないからやる、はよろしくありません。重要性、必要性を主張してください27。
Methodsについて
結果を再現するのに必要な情報を書いてください。
綺麗ごとかもしれませんが、論文とは知識の共有のために書くものです。なので、こうやればこうなる、ということが重要で、結果を再現するために必要な情報はすべて示さなければなりません28。実験ならば実験条件ならず使用機材29、解析ならば支配方程式や境界条件、物性値などをしっかりと。
教科書にもあるようなことは最低限にしてください。
その分野の人であればだれでも知っているような教科書レベルの事柄はいちいち論文に書く必要はありません。大したことの無い式変形も同様。かなり高度な内容であればその限りではありませんが、その場合も論文に書くのは重要なものだけにとどめ、参考文献として***の何ページ、とするべきです。これは特に最初のうちにやりがちなので注意のこと。
どこに新規性があるのかを明確にしてください。
上とも関連しますが、手法のどこに新規性があるのかを明確にしてください30。よくある一例は、数値解析手法についてかなり細かいところまで書くというものです。その式が一般的なものであれば、詳細な式変形などを書く必要は無く、この式に基づいて解析を行った、で結構です。
Results and discussionについて
基本的には図で。表はなるべく避けてください。
もちろん結果を一番定量的に表すのは数値データです。が、相手に伝えるという意味では、数値を並べて、だからこうだろ、というのは不適切です。またそもそもデータはその数値そのものよりも、それが何を意味するのかが重要なことが大半です。なので、値の大小関係や、あるパラメータに対する依存性など、意図したことが一目でわかるように図としてまとめたうえで結果を出すようにしてください。
似たような図を大量に、は無し。
データは結構たくさんとるのが普通ですので、それをそのまま図にすると同じような図がたくさん31になってしまうと思います。が、論文は技術報告書ではないので、結果をすべて示す必要はそもそもありません32。主張したいことのポイントにあった図を、必要最小限出すようにしてください。
図は見栄えではなく定量性を心がけてください。
正確には、「見た目がいい図ではなくちゃんと必要な情報が含まれている図を作ってください」ということです。プレゼン資料であれば細かいところの寸法までは説明できないので、ぱっと見で概要がわかることが何よりも重要と思います。が、論文の図はそうではありません。製図のルールに沿ったものである必要はありませんけれども、見栄えは二の次で、必要な寸法やどこに何があるということが正確にわかる図にしてください33。
議論には必ず根拠を示してください。
基本的には図表で示した結果の説明と、だから何は同だといえるのか、ということを書くになります。「その結果からはそうは言えないだろう」という突込みがされないよう34、論理的に、かつその根拠だということが明確であるような説明を行ってください。もちろん推測を書く必要があることも多々ありますが、その場合は推測であることが(この結果は***ということを示していると考えられる、などで)ちゃんとわかるようにしてください。
Conclusionについて
Conclusionでは何が分かったのかを明確に述べる必要があります。まずはこの研究により得られた事実をしっかりまとめてください。そこから推測されることを書いてもいいですが、どこまでが事実でどこからが推測なのかは明確である必要があります35。
著者について
誰が著者になるかは重要です。著者となることは当人の実績となるのみならず、内容に責任を持つということも意味します36。勝手に他人の名前を使って外部文章を書いてはいけません37。著者をだれにするか、どのような順番とするかは必ず指導教員と相談し、また全共著者には最終稿を確認してもらったうえで外部に出すようにしてください。
- 論文を書いた経験が無い~乏しい学生を想定しています。
- 学会のフルペーパーもしくは投稿論文等のそれなりに長いものを想定しています。学位論文はまた別。
- つまりは、ここらへんはおさえたものを初稿として持ってきてください、ということです。
- 守破離ってやつですね。
- 20世紀最大の発見の一つともいわれるワトソンとクリックのDNA構造に関する論文は1ページちょいですし。というのは参考になりませんが、「長い論文は読む気がしない」というのは全くその通りと同意してもらえると思います。
- もちろん内容が同じなら、ということです。
- 口頭発表と同様ついつい色々と書きたくなるのですが、説明すればするほど理解してもらえなくなるというのは事実ですので。
- どこに何が書いてあるのか一目でわかる、ということも重要です。
- 日本人にとって鬼門の一つ、aとthe。日本語にはこのような概念がないので、基本的に完全に理解するのは無理なんだろうと思いますが、これはa(=読者にとって未知)なんだろうか、それともthe(=読者にとって既知)なんだろうか、ということを考えて文章を書くこと重要だと思います。
- 忘備録や自己主張という面があることは否定しませんが。
- 例えば読者の頭の中に何があるかを想像しつつ、等。非常に難しいことは理解しています。
- これは私の卒論を指導してくださった偉大な先輩の教えでもあります。
- 取捨選択するという意味ではもちろんありません。
- これまたもちろん取捨選択するという意味ではありません。
- データがやっぱり足りなかった(とるべきデータを取っていなかった)ということがわかる、ということも多々あると思います。
- 別に研究者としての業績を積むために学生に論文を書かせているわけではありません。詳細はこちら。
- 論文の書き方の本に限定したは無しではありません。
- 文章としての大原則はこう、ということを踏まえた上で、2つの文(文章)があったときに、どのような理由でどちらが良いかということを説明できるのかどうか、ということが重要なんだと思います。俺はこう思う、だから従え、は無し。
- 英語論文はいきなり英語で書くべきかそれともまず日本語で書いてそれから英語に訳すべきか、という論争(?)が昔からありますが、個人的にはどっちでもいいように思います。私は英語論文を書くときは基本的にはいきなり英語ですが、うまく英語で書けない部分についてはとりあえず日本語で書いておき、後から再検討するようにしています。
- つらつらと書いてはいけません。
- つまり、論文としてまとめようとすると、自分のやっていたことの意味や位置づけに対する理解が不十分だったということを痛感するということが多々あるわけです。
- 白紙の前で苦しみ続けるのは精神的にもよくありませんので。
- 尚、当然ながらいつまでもこれではいけません。やることの背景と意義、目的が十分に理解できているのであれば、まだ実験や解析を行っていない段階でもIntroductionは書けるはずです。
- もちろん4段落構成にするのが難しい場合もありますし、またそれなりに経験を積んだ後はこの限りではありません。
- 色々な思想・背景の人がいるのは当然ですが、その論文を読むような人/その学会に参加するような人、という前提で。
- 場合によってはそれ以上とならざるを得ないが、その場合本当にこの研究が第1段落で述べた課題の解決のために必要/重要なの?という疑念を抱かせる可能性が生じます。
- よく言われるのが、「ここには穴がない。だから穴を掘るのだ」と「ここを掘ると石油が出る可能性が高い。だから穴を掘るのだ」の違いというやつです。
- ただこんな素晴らしい結果がでました、というのならばそれは論文ではなく商品カタログ。
- 汎用機器であれば別にいいですが。
- もちろん手法自体には新規性はないということもあります。
- もしくは一つの図に線がたくさん。
- くどいですが意図的に隠すのはなし。
- 等角投影図などで3次元的情報を1枚の図にする際には特に注意。
- できないよう
- 最近はFuture studyを述べる論文が多く、また査読でFuture studyを書けという指摘が入ることも多々あります。が、個人的には論文は10年後もそれなりの価値があるものであるべきと思うので、あまりこまごまとしたことをFuture studyとして書くことは好きではありません(それならそいつらもやってから論文としてまとめろよ、と感じてしまいます)。
- 学生の書いた論文には普通指導教員が共著者として入ります。学生としてはお前実験も解析もやってないくせにと感じるかもしれませんが、これは内容について最終的な責任を取るという面が多々あります(無論指導教員は責任を取れるくらいに内容を理解していることが大前提ですが)。
- 通常請求書を実際に出すのは担当者だとしても、請求書には代表者印があるものです。