学術論文誌に論文を投稿した場合、まずはEditor-in-Chiefが論文を確認し、論文の内容に応じて当該論文を取り扱うEditorもしくはAssociate Editorをアサイン1、アサインされたEditorもしくはAssociate Editorは当該論文の評価と査読者選定などを行うことになります。 というのはここに書いた通りなのですが、実際に経験してみないとわからないもうちょっと具体的なところについてまとめてみます2。尚、一般的な査読な流れについてはいろんなところに情報がありますのでわざわざここでは書きません。
基本的にボランティア
なにはともあれ、まずはこれです。一部の超一流誌は専属のEditorを雇用してそれなりの給与を払っているようですが、普通はそうではありません。大半は完全ボランティア(無報酬)で、報酬が払われるとしても労力には到底見合わない程度のものです3。投稿した側とするといつまでWith EditorやUnder Reviewなんだよと思うのはよくわかるのですが、Editor側にも言い分はあるのです。
査読にまわせない論文が多すぎるという問題
実のところ、投稿されてきた論文の全てが査読に回されるわけではありません。私の場合こんなのに引っかかる論文は査読に回すことなく著者に返却するようにしているのですが、多分7割くらいははじかざるをえない4 という状態です。7割をEditor Kickというと厳しすぎるように思えるのですが、大半はWith Option to Submit a new paper5 という形ですので6、ほとんどは指摘事項を修正して再投稿されてくる、ということになります7。ただ正直、論文の書き方もうちょっと勉強してから出してよ/指導教員見てないだろ、という投稿が最近多すぎるように感じています。
査読者探しは大変なのです
査読にまわしていいクオリティのものだと判断8したら、査読者探しに入ります。幸いにも最近はEditorには自動で査読者となりそうな研究者をリストアップするシステム9が提供されており、基本的にはその中から選ぶということになります。が、引き受けてくれない/そもそも返事してもらえないということが非常に多く10、非常に大変というのが実情です。私は大体以下のような感じで選んでいます。
- システムでリストアップされた人
まずはシステムがリストアップしてきた人から選びます。私は概ね以下を満たす人を選ぶようにしています。 - 著者から推薦された人
通常投稿時に査読者になりうる人を複数名挙げることが求められます。当然その情報はEditorにも来るので、場合によっては著者が推薦した人に査読依頼を出します。が、著者が推薦したということは否定的なことは言わなそうな人と思われますので、実際に査読を依頼するのは推薦された人のうちせいぜい一人です。 - 引用されている文献の著者
1, 2でも十分な数14の査読者が見つからなかった場合が大変です。そのような場合15、私は当該論文で引用されている文献の著者にまずあたるようにしています。ただ、引用文献のCorresponding Authorがそのグループでそれなりに経験のある人とは限らないので16、各著者の職位や経歴、文献数なども調べた上で、としています。なので結構大変です1718。 - 類似論文の著者
3でもまだ不足する場合、ScopusやGoogle Scholarなどの学術論文データベースを使い、比較的似た内容かつ最近の論文を探し、その論文の著者に査読依頼を送ります。検索に引っかかった論文があればOKというわけではなく、その論文の各著者の詳細を調べたうえでとする必要があるので、これまた結構大変です。
査読者へのお願い
査読依頼メール無視しないでください
何よりもこれです。通常査読依頼はシステムからのメールで、メール本文には論文のタイトルとアブストラクト、そして査読してもらえるか否かを答えるためのリンクが書かれています。なので、査読難しいようであればメールにある査読困難のリンクをクリックしてもらえればいいのですが、これもしてくれない方が非常に多いのが実情です19。断られたら次の人に依頼をとなるのですが、そもそも返答がもらえないと次の人に依頼20を出していいのかどうかも判断できず、時間だけが過ぎていってしまうことになります21。引き受けてくださいとまでは言いませんが、せめて引き受けられないようであればその旨教えてほしいというのが切実な願いです。
やっぱり査読できなくなったらその旨伝えてください
一番困るのが、査読引き受けたにもかかわらずその後全く連絡がないというパターンです22。査読依頼メールには論文のタイトルと概要しか書かれていないので、実際に本文を読んだらやっぱり査読難しかったということはあると思います。また、その後忙しくなり査読のための時間が取れなくなるということも十分にありうると思います。が、であれば「やっぱり査読できなくなった」と連絡してもらいたいのです23。通常締め切りを**日過ぎた時点で自動的に査読依頼が取り下げられるのですが、**は数週間とかなので、査読を引き受けたけど音沙汰無しは結構な時間のロスになるのです。
Major revision/Minor revisionはあんまり気にしないでください
通常査読者は具体的な指摘と共に当該論文がAccept/Minor revision/Major revision/Rejectのどれに24ふさわしいかの意見を述べることになります。が、実のところ査読者の意見がそのまま採用されるわけではなく、最終的にどうするかはEditorが各査読者の指摘事項と当該雑誌のポリシーを踏まえて判断することになります。なので、あんまりMinor revisionとMajor revisionとで悩まなくて結構です。
けど初稿に対するAccep as isは勘弁してください
Accept as isは「全く問題なし。このままで掲載してよい」という意見で、初稿に対しては25通常はない意見とされています26。が、最近途中で嫌になったということなのか、初稿に対してもコメントもなくAccept as isとしてくる査読者が少なからずおり、ちょっと問題となってきています27。
出来れば査読してくれそうな人を挙げてください
これは多少高望みですが、査読を断る際に、「この論文だったら***なら査読者として適任だと思う」という情報をもらえると、とても嬉しかったりします。
再投稿に対する対応
初稿に対するものと比べると再投稿に対するものはかなり機械的になります。私は以下のように対応しています28。
修正稿をチェック
まず、提出された修正稿が適切なものかをチェックします29。修正箇所が明示されていない30、もしくは削除された部分が明示されていない31場合、適切な修正稿を提出するようにとコメントして返却するようにしています32。
Response Letterをチェック
続いてResponse Letterをチェックします。査読者の指摘に対して全て何らかの対応がされている(と述べられている)ならOK、そうでない場合は**番目の査読者の**番目のコメントに対して対応がなされていないと指摘して返却するようにしています33。
前回査読者に送付
以上問題ないことが確認出来たら、前回の査読者でAccept as is以外だった査読者に再査読を依頼します34。また、ここで新たな査読者に依頼することも無いわけではないのですが35、基本的にはそれは避けるようにしています。
査読というシステムについて思うこと
正直なところ、この査読というシステムは崩壊しつつあるのを痛感しています。近年の論文数の激増36により、しっかりとした査読を行ってくれる人を探すのは非常に難しくなってしまっています37。また、この査読というシステムは基本的にボランティア、かつ自分の論文も査読してもらったのだから他人のもしましょうという性善説的な考え方に基づいているのですが、論文は投稿する、けれども査読は受けないという人38も結構いたりします。自分の成果という意味では査読をすることにほとんど39メリットは無いわけで40、MDPIのように査読すると投稿料が値引きになるといった直接的なメリットがあるような形態のほうがむしろ健全なのではないか、とも思ってしまうのです。
- 多分投稿される論文がかなり多いのであればEditor-in-Chief, Editor, Associate Editorという3レベル、それほどでなければEditor-in-Chier, Associate Editorという2レベルなんだと思います。Editor-in-Chief, Editor, Associate Editorの役割については多分雑誌によりけりですが、Associate Editorは直接著者とやり取りすることは無い(EditorもしくはAssociate Editor経由で)ようにおもいます。
- 超一流誌というわけではないが、Impact Factorはついておりその業界ではそれなりに認められている国際誌についてと理解ください。
- 参考までに、週(月ではありません)に数十報程度ハンドリングするEditorに対して年額(月額ではありません)1,000ドル程度でした。
- これは私が厳しいとかそういうことではなく、この状態の原稿を査読にまわしても(まともな査読者なら)まずそのような指摘があるだろうなという意図からです。私自身査読をそれなりにしていますが、「こんな原稿査読にまわすな」という原稿が送られてくることは少なくありません。そのような場合、正直著者もそうですがそれ以上に、当該雑誌そのものに非常に悪い印象を持ってしまいます。
- Natureなどになるとこの段階で完全拒絶(再投稿不可)になるそうですが
- 明らかにScope外とかクオリティが低すぎるものはWith NO Option to...とせざるを得ませんが。
- とはいいつつ、指摘したところをほとんど修正せずに再投稿してくる輩もそれなりにいるのが現実です。その場合はもうWith NO Optionで完全拒絶、他の雑誌に出してね、という形になります。
- 正確には査読にまわしちゃだめだろう、ということはなさそうだと思ったら、なのですが。
- もちろんアルゴリズムまではわかりませんが、基本的には近年類似の論文を発表している人ということのようです。
- 気のせいかもしれませんが、Research on...とかStudy on...というタイトルの論文は査読を引き受けてもらえない傾向があるように感じます。こういったタイトルをつける時点で論文の書き方を分かっていないといわざるを得ないので、正直気持ちはよくわかります。
- もちろん詳細な中身まではわかりませんので、タイトルから推察するに、とならざるを得ないのですが。
- これまでにそれなりの数の論文を発表しているとか、h-indexが10以上とかそんなところでしょうか(Elsevier社のシステムであれば当人のh-indexまで出てくるのです。すごい(こわい?)ですね)。
- これは当然かもしれませんが、同じ国の人もなるべくなら避けるようにしています。
- 2人のことが多いですが、3人以上が要求されている雑誌もあります。
- 結構多い。
- 研究室のポリシー次第とは思いますが、学生であることが少なからずあるので。
- Corresponging Author以外は詳細情報が無いことが大半なので、著者名&所属で検索をかけて・・・などして情報を探すのです。
- 最近Elsevierの査読者提案システムは「引用されている論文の著者」でフィルターがかけられるようになり、この点は非常に楽になりました。
- 「メールなんて読むわけないだろう」とか言ってはいけません。人として。
- 同時に何人にも査読依頼おくるわけにもいきませんので。
- 通常システムでは**日以内に返答がない場合は査読依頼を取り下げ、次の査読者に自動で依頼がおくられはするのですが。
- 結構な割合であります。
- メールでもいいですし、その旨だけを書いた査読報告書を出してもらっても結構です。
- 論文によっては、Minor revisionにも再査読が必要なものと不要なものとか、Rejectにも再投稿可能なものと再投稿不可能なものがあるとか、あったりします。尚、普通はRejectであれば再投稿不可能なのですが、あえて再投稿可能なRejectというものを設けているのは、投稿から受理までの期間が見た目短くなるから(論文にはいつ投稿、いつ修正稿投稿、いつ受理、という日付が明記されるのです)という理由が大きいと思われます。最近はこの雑誌は平均的に投稿から受理までの期間が**日、なんて言うことをまとめたサイトもあるのですが、こういったトリックもあるので鵜呑みにしてはいけません。
- 再査読に対しては「指摘通りに修正されたことを確認した。」のであれば当然Accept as isでいいのですが。
- 慣例といいますか、しきたり的なのかもしれませんが。
- 先日出席したとある雑誌のBoard meetingでは、3割近くそのような査読結果があるということで、ちょっと問題となっていました。
- 査読者も基本ボランティアなので、何でも素通りさせて査読者に無用な負担をかけるわけにもいかないのです。
- Response Letterではなく修正稿からチェックするのはこの時点ではねざるを得ないものがかなり多いからです。
- 赤文字やハイライトで修正箇所がわかるようにと指示されているはずなのです。
- 結構多いです。追加部分だけではなく、どの部分がどのように変更されたのかがわかるようにしなければなりません。
- 流石にこの時点でReject扱いにはしません。
- ので、ちゃんと対応してください。
- Minor revision扱いかつ指摘が軽微だった場合はこちらで判断してしまうこともあります。
- 前回査読者が引き受けてくれなかったとか。
- 加えて特に大学関係者は時間に余裕がなくなってきているのも確かだと思います。
- 正確には、しっかりとした査読をしてくれる人でも査読できる論文の数には限界がありますので、必然的に、ということかと思います。
- システムでは査読依頼が何回いっており、うち何回を引き受けた、平均して何日くらいで結果が送られてきた、ということも確認できるのです。論文でよく名前を見るにもかかわらず全然査読引き受けていないのを知ったりすると、なんだかなとは思います。
- 査読をするのも勉強だ、と言われた時代もありましたが。
- 学会誌であればまた別かもしれませんが、国際誌となると正直お互い知らない&将来的にも利害関係は多分発生しない関係なので。