自然科学総合実験「科学と文化」弦の振動と音楽

自然科学総合実験について、詳しくは東北大学自然科学総合実験のページにてご確認ください。

科学と文化

弦の振動と音楽

この実験では、弦楽器であるギターを用い、音楽と自然法則の関係について学ぶ。
具体的な実験と解析を通して、私たちの日常生活に潜む自然科学の普遍性を直感的に理解することを試みる。

科学的な視点を持つことで、特別な実験装置がなくとも、身近な対象から自然法則への理解を深められる。むしろ、日常の何気ない現象から、その背後にある自然法則を見いだすことに、オリジナルな科学的想像力が見出されるだろう。

また、科学的な議論は、比較文化論など通常「文科系」に分類される学問にも結びつく。文化と自然科学の関係や、社会の中での自然科学の役割を考えるには、科学の普遍性と同時に、科学の適用限界の把握が不可欠になる(科学哲学の視点)。

この実験は、楽器演奏の経験や、絶対音感の有無に関係なく行えます。

  これは何でしょう。 人工的な音階と自然音楽について

トロンボーン、バイオリン、琴など様々な楽器から検証。音階の普遍性とは・・?

  演奏会ではありません。ギターの弦の振動実験中。
音の高さ(周波数)と弦の張力・振動・長さの関係などを調べたりもします。   これは何でしょう。

観察や計算、意見交換を通して、考察していきます。

  おまけ:となりの部屋では関根勉先生の授業で「環境放射線」を観察中でした。(テーマ「地球・環境」2014年)

 

「音楽の普遍性と多様性」から、「科学の普遍性」と「文化の多様性」の関係を考察し、音楽を単に「物理」または「理科」という一教科の素材として見るのではなく、むしろ総合科学の格好の対象(現象)と捉え、想像力をフルに活用して取り組むことが望ましい。

実験は複数人で行うため、周囲のメンバーと協力し、会話を通じて学び合うコミュニケーションの機会にもしてほしい。

関連テーマ例

音階,弦の振動,量子化(物理),音程の生物学的分解能(生物),フーリエ解析(数学),自然音階と平均律音階(数学,比較文化論),音の知覚(生理学,心理学,脳科学).

東北大学自然科学総合実験全体についてのサイト

http://jikken.he.tohoku.ac.jp/ri/modules/tinyd7/

本堂担当日時

2012年度

2013年度

2014年度

場所

川内キャンパス実験棟1階

参考文献
1.「音楽の科学:音楽の物理学・精神物理学入門」ローダラー著,高野光司,安藤四一訳,音楽之友社.
原著: The Physics and Psychophysics of Music: An Introduction by Juan G. Roederer Springer Verlag; 3rd edition (1995)
アメリカの高名な地球物理学者による,洞察力あふれた名書.
2.「絶対音感」 最相葉月,(小学館文庫)小学館 (2002).
世の中には,絶対音感を持った人たちがいる.なぜ彼ら(彼女ら)が絶対音感を持っているの か? 絶対音感は教育で身に付くのか? 絶対音感を持っている人たちに聞こえる音は,普通の(絶 対音感を持たない)人とどのように違うのか? 絶対音感を持つことは幸福なのか? 絶対音感を持つ音楽家へのインタビューなどを元に,著者の綿密な取材によって書かれた,知的 好奇心溢れるノンフィクション作品(ベストセラー).
3.「音楽の基礎」 芥川也寸志,(岩波新書)岩波書店 (1971).
この本には,いわゆる「楽典」の域を超え,音楽の生じてきた自然科学的背景についての考察 を見ることが出来る.作者は,仙台フィルの音楽総監督も務めた,20世紀の代表的作曲家.
4.「響きの考古学−音律の世界史」 藤枝守,(音楽之友社) (1998).
自然音階(純正調)と平均率の比較等,世界の音楽に亘った詳しい議論がある.
5.「フーリエの冒険」トランスナショナルカレッジオブレックス編,ヒッポファミリークラブ(1988).
「波(音)は複数の単純な波(振動モード)の重ね合わせである・・・」.フーリエが発見したこ の普遍的性質を理解し,言語音声を解析しようとした文系の大学生たちが,いつしか「フーリエ」 の魅力溢れる世界に引きずり込まれた記録.限りなく「直感的」に科学を理解しようとした奮闘 記.本テキストの補足「倍音と音色」も参照されたい.
6.「楽典」(3 訂版) 黒沢隆朝,音楽之友社(1987).
いわゆる「楽典」ではあるが,音階成立の起源についての,音楽学者からの興味深い議論がある.すぐれた教科書であるが,現在版元品切れである(著名な教科書なので,古書の入手は比較 的容易).
7.「音楽と認知」(認知科学選書12) 波多野誼余夫(編集),東京大学出版会(1987).
認知科学の立場から,音楽が人間に理解されるメカニズム(認知プロセス)を論じた書.
8.The Physics of Musical Instruments (2nd ed.) N. H. Fletcher and T. D. Rossing, Springer (1998). 邦訳「楽器の物理学」シュプリンガー・フェアラーク東京(2002).
9.The Science of Sound (3rd ed.) T. D. Rossing, F. R. Moore and P. A. Wheeler, Addison Wesley (2002).
10.「振動と波動」吉岡大二郎, 東京大学出版会(2005).
 
物理学の立場から音響の基礎となる振動と波動の数理をまとめた書.数理的基礎に興味がある 時,ローダラー氏の著書の次に読むと,深い理解が得られるだろう.
11.「患者は何でも知っている:EBM 時代の医師と患者」J.A. ミュア・グレイ(著) 斉尾 武郎 (翻訳)(EBM ライブラリー)中山書店(2004).
科学の普遍性と価値判断の多様性について,最も真剣に直面せざるを得なくなるのは,病気に なったときであろう.この書は,EBD(Evidence-Based Decision) の中で最も議論が進んでいる, EBM(Evidence-Based Medicine =科学的根拠に基づく医学)について,その第一人者によって 書かれた書.一般読者向けの書なので,とても分かりやすく,科学と社会の関係について絶好の 入門書ともなっている.
12.「ビューティフル・サイエンス・ワールド」ナタリー・アンジェ 近代科学社 (2009).
第一章「科学的に考える」の中に,科学という営みが生き生きと描写されている.
13.「科学の哲学」野家啓一 放送大学教育振興会 (2004).
科学と社会の関係について,哲学の立場から考察した書.科学という営みを知ること(knowledge about science)は,科学の専門知識(knowledge of science)を社会で生かす上でも,専門研究で 行き詰まった際に違った視点から解決口を見出すためにも,欠かせないものであろう.
14.「科学技術社会論の技法」藤垣裕子(編) 東京大学出版会(2005).
「科学技術社会論」(STS) は科学・技術と社会の関係を正面から議論する新しい学問分野である. 市民社会での科学のあり方,用い方について,多くの視点を提供してくれる.具体例(ケースス タディ)に多くの紙数を割いているので,初学者にも分かりやすい.
15.”Science and trans-science”, Alvin Weinberg 著, Minerva, 10, 209-222, (1972).
科学の適用限界について,科学者の手で明確に指摘した論文.Weinberg は,米国の著名な核物 理学者.この論文は,その後の科学論,特に科学技術社会論(STS) の研究に大きな影響を与えている.