教育/普及

青葉山の自然

日本の植生

  地球上の植生分布については二つの見方があります。一つは南北両極に向かって、熱帯・亜熱帯・暖温帯・冷温帯・亜寒帯・寒帯の各気候帯に対応して帯状に成立する水平分布です。もう一つは海抜0mから世界最高峰のエベレスト山頂に至る、海抜高度に対応した垂直分布です。植物の分布は基本的に気温と降水量に対応しているため、水平分布と垂直分布はよく似た変化を示します。
  日本列島はユーラシア大陸の東端に位置し、南北およそ3,000kmにわたって弓状に連なっています。その大地のほとんどは、かつて緑なす樹海におおわれていました。果してそれはどんな森林だったのでしょうか?
  残念ながら、その答えを出すのは難しいことです。亜熱帯から亜寒帯に至る気候の著しい変化、海岸平野から山地に至る地形の複雑さ、日本海側と太平洋側の積雪量の相違が、森の様相を変化に富んだものにしているからです。その上、人間の活動によって原生的自然のほとんどが失われてしまいました。このため、研究者の間でも、いまだに見解の統一が得られません。

【日本の植生】ここに掲げた植生図は、吉岡邦二(1973)から描いたものです。
ここに掲げた植生図は、吉岡邦二(1973)から描いたものです。

高山植生

  低温・強風・紫外線・土壌の凍結融解・生育期間の短さなど、環境条件の厳しい場所に成育します。植物の生長は極めて遅く、植生は多くの場合モザイク状に分布します。冬の北西風がもたらす積雪のため尾根筋の西側には風衝草原やハイマツ低木林が、東側には雪田植生といわれる湿生のお花畑が見られます。砂礫が激しく移動する場所は高山荒原と呼ばれます。

栗駒山山頂(1996.9.28)

栗駒山山頂(1996.9.28)

常緑針葉樹林(亜寒帯・亜高山帯)

  北海道の東半分には、常緑の針葉樹であるエゾマツ・トドマツ・アカエゾマツなどからなる針葉樹林が分布しています。また、本州の亜高山帯にはシラベ・アオモリトドマツ・シコクシラベなどからなる森林が分布しています。

八甲田山大岳下部(1995.9.30)

八甲田山大岳下部(1995.9.30)

北方針・広混交林

  落葉広葉樹林帯と常緑針葉樹林帯の境界域に存在する移行的森林です。

富良野山樹海峠(1989.8.21)

富良野山樹海峠(1989.8.21)

落葉広葉樹林

  寒く乾燥する冬の間は落葉・休眠している広葉樹からなる森林。水平分布においては冷温帯の、垂直分布においては山地帯の気候的極相林として分布します。しかし、北に行くにつれて分布する海抜高度は下がり、東北地方北部や北海道では平地に分布します。熱帯などで乾期に落葉する雨緑樹林と区別するために夏緑樹林とも呼ばれます。ブナ・ミズナラ・シナノキ・ウダイカンバ・カエデ類などが主な構成種です。

鳴子早沢(1994.9.4)

鳴子早沢(1994.9.4)

モミ・ツガ林

  常緑針葉樹であるモミやツガが高木層に混交する森林が、常緑広葉樹林帯(暖温帯)と落葉広葉樹林帯(冷温帯)の間に存在します。この「中間温帯」とも呼ばれる境界領域の森林については、まだ不明な点が数多くあります。青葉山のモミ林はカシ類を混交する巨木の森としてはもっとも北に位置し、この中間温帯成立のなぞを解き明かす貴重な森です。

丹沢札掛(1989.12.20)

丹沢札掛(1989.12.20)

常緑広葉樹林

  冬期の気温があまり下がらないので植物の生育に障害とならず、一年中緑の葉をつけている広葉樹林。水平分布では雨の多い亜熱帯や暖温帯の気候的極相樹林です。垂直分布では平地帯から丘陵帯に分布します。初夏に新しい葉が展開してから古い葉が落葉します。葉の表面にクチクラ層が発達して光沢があるので、照葉樹林とも呼ばれています。

沖縄与那→照首山

沖縄与那→照首山

青葉山の森林構造-モミの巨木-

青葉山のモミ林

  ここ青葉山のモミ林は、かつてこの大地をおおっていた巨木の森の面影をいまだに色濃く残しています。当地でもっとも原生的な森林の一つとして「森全体」が国の天然記念物に指定され厳重に保護されています。
この森は、湿潤な東アジアを南北につらぬく常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹林帯の「境界領域」北東端に位置しています。はるかヒマラヤから中国南部を経て日本へと連なるこの領域には、生物学的多様性のきわめて高い森林があることから、いま多くの研究者の注目が集まっています。

1. モミ林を構成する多彩な樹木

  この森では、高木の常緑針葉樹、高木・つる・低木・矮生低木の常緑広葉樹および落葉広葉樹、そしてササ植物という、さまざまなタイプの植物が見られます。とりわけ高木層(林冠)の様相は、他の森林帯には見られないほど変化に富んだ複雑なものとなっています。特に注目されるのは次の2点です。

  1. アカガシ・シラカシ・ウラジロガシ・アラカシ・シロダモ・イイギリ・アカメガシワといった常緑広葉樹林帯の主な樹種の分布が、当地を北限としてそろって途切れる。
  2. 常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹林帯との「境界領域」で優勢となるモミ・スギ・アカマツ・イヌブナ・コナラなどが巨木*となって生育している。
    この森で、多彩な樹木がどんな生活を営んでいるのかを明らかにすることは、日本の植生帯の成立を考える上でたいへん重要なことです。

*胸高(地上1.3m)直径60cm以上・樹高20m以上

2. パッチ構造が生み出す種多様性

  植物園には尾根に沿った傾斜のゆるやかな場所が多く、そこに広がる森が「青葉山のモミ林」の中核を形成しています。この森の特徴は、右図のような「パッチ構造」が見られることにあります。

  1. 林冠では、モミにスギを加えた常緑針葉樹の樹冠が集中する「モミ林冠パッチ」とコナラ・アカシデ・カスミザクラなどの多数の落葉広葉樹の樹冠が集中する「落葉広葉樹林冠パッチ」とがモザイク状に配列します。
  2. 「モミ林冠パッチ」の下には4種のカシ類などの常緑広葉樹が生育します。「落葉広葉樹林冠パッチ」の下にはモミ稚樹とマンサク・ウメモドキ・オトコヨウゾメ・ガマズミなどの落葉広葉樹が生育します。両者はほぼすみわけた状態で暮らしています。
  3. 林床に暮らす落葉多年草(カタクリ・チゴユリ・コバキボウシ・ヒメシャガなど)は「落葉広葉樹林パッチ」の下を中心に分布し、そこで多くが花をつくります。

  常緑と落葉、針葉と広葉という林冠の違いは、林冠パッチの下に異なる光環境や土壌条件を生み出しています。それが生育形の異なる多彩な種の共存(すみわけ)を可能にし、まれに見る多様な森を成立させているのです。

植物園記念館近くのモミ林断面図

  モミ林冠パッチにあたります。低木層の一部と草本層は省略しています。モミは大きな枝を張ります。この傘の下は暗いのですが、冷気は降りて来なくて、少し暖かいと言われています。南の地方から北上して来た樹種で、暗くても耐えられるものが、モミの下で生きています(例えばヤツデなど)。

植物園記念館近くのモミ林断面図

植物園記念館近くのモミ林断面図

3. 巨大な温帯性針葉樹、モミ

  モミは秋田・岩手県~九州・屋久島までの主に太平洋側に分布しています。日本特産の常緑の大高木。幹はまっすぐで美しい樹形をしています。湿潤な東アジア温帯林の一部だけに生育し、古い時代に栄えた植物(温帯性針葉樹)とされています。耐陰性にすぐれ、300年にもわたって生きるモミは、この植物園の森で最も優勢な樹木です。

4. モミの一生

秋(10~11月)に種子が風にのって散布される(種子の時期)。

  • 翌年5~6月に発芽。落ち葉の少ない裸地・攪乱跡地における一過性の定着(実生の時期)
  • 成長の早い先駆種や陽樹の樹冠下でゆっくりと成長・待機(稚樹の時期)
  • 上層木の枯死にともなう光環境の好転。それに乗じた急激な樹高伸長(若木の時期)
  • 林冠における占有空間の拡大と種子生産(成木の時期)

  成木まで生き延びる個体は、散布された種子のごくわずかにすぎません。暗い森の中に暮らす稚樹は葉が少なく、年輪幅が狭くなっています。樹齢が50年に達しているのに高さが数十cmしかないというように、成長が著しく抑えられています。しかし一方で、こうした稚樹は葉を薄くしつつ表面積を広げ(陰葉)、互いに葉が重ならないように水平に並べ、上伸成長よりも側方成長を優先させて傘形の樹冠をつくっています。少ない光を上手に利用する工夫です。他の多くの針葉樹と同様、まっすぐな主幹から枝を4本以上輪生し、1年に1段ずつ成長していきます*。光の少ない所でも成長でき、寿命が長いため、成長の早い先駆種や陽樹が先に森林を形成していても、やがてこれらを追い越します。こうして陰樹のモミが長期にわたって林冠を占有し、極相林をつくりあげていきます。

5. 年輪を見れば森の歴史がわかる

  毎年つくられる年輪の幅をくらべてみると、過去の成長の様子がわかります。園内のモミには、成長量の少ない年が長く続いた後、1870年頃から急に成長量の増えるものがあります(図のA、B)。また、この時期に発芽したらしいモミ(図のC、D)とアカマツ(図のE)があり、それらの初期成長量は大きくなっています。陽光下に限って生育するアカマツが定着を始めていることからも、この時に広範囲で林床が明るくなったことがわかります。明治維新(1867年)前後の混乱期に、伐採が行われたのかもしれません。こうして定着し、生き残ってきたモミたちが現在の森の景観をつくっているのです。

年輪の幅
年輪の幅

6. 二次林と遷移

  植物園内にはコナラ林とアカマツ林という二つのタイプの二次林があります。二次林とは、長い年月にわたってゆるやかに人の手が入ってきた、植林に由来しない森のことをいいます。これらは、私たちが石油に依存するようになる以前の暮らしを支えてきた雑木林*と同質の森であり、里山を代表する森です。
コナラ林は土壌の発達した適潤な場所に、アカマツ林は土壌の浅い乾燥した尾根沿いに分布しています。ともにコナラ・アカマツ・コシアブラ・ウリハダカエデといった陽地性の高木が優勢で、その下層にはヤマツツジ・バイカツツジ・ミヤギザサなどが生育しています。早春の明るい林床はカタクリ・シュンラン・イカリソウ・マキノスミレなど色とりどりの花でおおわれます。これらの林内ではモミの稚樹や若木もしばしば見られることから、将来、モミを主体とした森へ移り変わってゆくと考えられます。遷移という200年もの歳月をかけた長い森のドラマが、いまも静かに進行しています。

*雑木林は、柴や薪炭を採取する場としてほぼ20年ごとに皆伐されてきました

植物園には、ほかに次のような林も見られます。

アカシデ林

  アカシデとアカマツが高さ20mほどの高木層を形成していますが、アカシデが優占し、コナラ・ヤマモミジなどを混生しています。亜高木層はアカシデ・ヤマモミジ・タカノツメ・ヤマウルシなどからなっています。低木層はスズタケが優占し、ヤマツツジ・バイカツツジ・トウゴクミツバツツジ・ホツツジなどツツジ科の植物が比較的高頻度で出現します。草本層はウスノキ・ヒメヤブランなどが出現しますが、植被率は低くなっています。この群落は岩壁など、急な崖と斜面との変換点付近および急な露岩地などに成立しています。

スギ林

  スギ植林は高木層が樹高28mに達し、胸高直径は約60cmであるスギが優占し、イイギリがわずかに混生しています。亜高木層はシロダモ、アワブキ・イタヤカエデなどが現れますが、優占度は小さめです。草本層はヤブコウジ・ミゾシダ・アオキ・サカゲイノデ・テンニンソウ・キバナアキギリ・ジュウモンジシダ・ウワバミソウなど陰地で湿った場所を好む植物が多く出現します。この群落にはモミ・コナラ・アカマツなどを含むスギの成育の悪い林分もみられます。

生物多様性の森

植物園の食物連鎖

  一部、推測を含みます。各ボックス内では便宜上、種名・一般名・総称を使い分けています。

植物園の食物連鎖
植物園の食物連鎖

森林生態系と食物連鎖

  多くの樹種をはぐくみ、高木層から草本層まで立体的な階層構造をもつ森には、多くの動植物が住み込めます。「衣食住」*が確保できれば、住人たちの顔ぶれはにぎやかになります。植物が太陽エネルギーを緑の葉でとらえ、その葉をチョウやガの幼虫が食べます。これをムクドリなどの小鳥たちが食ベ、小鳥をハヤブサやオオタカなどの猛禽類がとらえます。あるいは木の実を食べるリスやアカネズミなどの小動物を、キツネやイタチなどの肉食動物がとらえます。このような植物からはじまる生食食物連鎖と並んで、動物の死がい・落ち葉などを分解する微生物や昆虫類から始まる腐食食物連鎖も重要です。食う食われる関係で結び付いた生物どうしのつながりは網の目のように入り組んでおり、食物網と呼ばれています。このネットワークを通してエネルギーや物質が循環し、非生物的要素も含めたまとまりのあるシステムを構成する場合、これを「生態系」とよびます。
植物園は全体でひとつの森林生態系を構成しています。さまざまの環境・植生を含み、種の多様性が高くなっています。オオタカ・キツネなど食物連鎖で頂点にいる種も生息しています。生物には種内の遺伝的多様性の点から、隣りあう生態系とのつながりが必要です。したがって生息地の分断・孤立化は、種の存続にとって致命的な結果をもたらします。

*
衣: 例えば、キジにとっての枯れ草(巣の材料)、ムササビにとっての大木の洞(営巣場所)。つまり自分を保温したり、敵から身を守るもの。
食: 例えば、キジにとっての草の実、ムササビにとってのドングリ。
住: 例えば、キジにとって枯葉・草の実が得やすい草原や森、ムササビにとって洞・ドングリが得やすい大木のある森。つまり衣食を得やすく、仲間に出会える場所。

生物多様性の危機

  現在、世界では年平均l00種前後の生物が絶滅していると推定されています。日本でも近年多くの種が姿を消しました。人間活動に由来することがらが主な原因です。野生動植物は生態系のだいじな要素であり、人類の豊かな生活に欠くことのできないものであるという認識から、l992年に「生物多様性に関する条約」*が結ばれました。l993年には日本で「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」が施行されました。

* 国連の地球サミット(環境と開発に関する国連会議)でまとめられた条約。日本も調印しています。
レッドリストについては環境庁ホームページ内の「レッドリストについて」をご覧下さい。

植物園付近でみられる動物たち(生息情報)

  植物園付近では鳥類72種・哺乳類16種・両生類6種・爬虫類5種の生息が確認されています。近年、ハシブトガラス・ハシボソガラスが都会化と共に増加し、植物園をねぐらをするようになりました。そのために小鳥の種類や個体数が減少してきています。また、野犬の集団が周辺を徘徊するようになったため、園内で繁殖している野生動物に危機が迫っています。それでもなお、ここは動物たちにとって貴重な住み場となっています。

鳥類

  • アオゲラ(Picus awokera キツツキ目 キツツキ科)
    アオゲラ
      日本固有種であり、それは学名にも反映されています。本州以南、屋久島までの山地や、平地の広葉樹林に周年生息します。樹木をつついて餌を取るキツツキの仲間で、主に昆虫やその幼虫を食べますが、秋冬には木の実もよく食べます。樹液をなめることもあります。ピョーという声は、カッコウの声とともに横断歩道の信号機に使われています。青葉山では繁殖しており、園内でムラサキシキブやガマズミを食べているのを冬によく見かけます。
  • アオバハズク(Ninox scutulata フクロウ目 フクロウ科)
    アオバハズク
      夏鳥としてほぼ全国的に渡来します。「ホッホウ、ホッホウ」と二声ずつ繰り返して鳴く声はフクロウではなく本種の声です。営巣木があれば市街地でも繁殖します。昆虫類・カエル・小鳥を捕食します。明かりに集まる虫をねらって街灯にくることもあります。営巣木や虫の減少のためか、数が減りつつあります。園周辺では確実に繁殖しています。5~6月に声がよく聞かれ、複数のつがいがいるようです。大学構内の建物のアンテナに止まり、鳴きと捕食を繰り返している姿をよく見かけます。
  • アカゲラ(Picus major キツツキ目 キツツキ科)
    アカゲラ
      アオゲラよりもひとまわり小さいキツツキ。本州以北の平地から山地の留鳥。嘴で木の幹を1秒間に20回前後たたくドラミングを行います。これには「さえずりの代わり」と「木に穴をあける」の二つの意味があるようです。木に穴を掘って営巣するキツツキは、みずから巣穴を掘らないものにとって重要な樹洞提供者です。青葉山で繁殖していますが、園内では冬に見かけるのみです。
  • オオタカ(Accipiter gentilis タカ目 タカ科)
    オオタカ
      森林棲の猛禽類で、植物園を含む青葉山一帯に生息しています。生息地の破壊や悪化が進んでいるため絶滅が心配されており、「種の保存法」では希少種に指定されています。餌の狩る時に見晴らしのより木陰に止まり、獲物を見つけると一直線に襲いかかります。ドバト・キジバトツグミ・ムクドリ・ホオジロなどを地表で上からおさえこむか、空中でとらえます。これらの小鳥たちは木の実・昆虫・ミミズなどを食べています。ですからオオタカという種の存続は、周囲の生物多様性に富む環境が維持されてはじめて可能になります。オオタカは、園内のモミ・アカマツの大木の、地上10mぐらいの所に巣をかけて繁殖しています。複数の巣をつくっておき、そのうちの一つに卵を産みつける習性をもっています。したがって、営巣にはモミなどの高木を含む30haほどの広い森が必要です。
  • オオルリ(Cyanoptila cyanomelana スズメ目 ヒタキ科)
    オオルリ
      夏鳥として、北海道から九州までの丘陵・山地で繁殖します。渡りの時期には市街地でも観察されます。主に沢沿いのよく茂った林に生息します。昆虫が主な餌のようです。岩の窪みなどに苔などを巣材として巣を作ります。雄は目立った木の梢で大きな声で、明け方によくさえずります。竜ノ口渓谷や園内では4月下旬から観察され、複数のつがいが繁殖しているようです。モミの木や横に突き出た枯れ枝でさえずっています。
  • カケス(Garrulus glandarius スズメ目 カラス科)
    カケス
      翼に青い羽を持ったカラスの仲間。北海道から屋久島までの全国で繁殖し、冬には暖地へ移動するものもあります。丘陵地から山地の森に生息しますが、よく茂った林を好みます。昆虫などを食べ、小鳥の巣から卵や雛をとることもあります。秋にはドングリを地面の草かげや落ち葉の下に埋め込んで貯えますが、忘れることが多く、結果としてドングリの散布者となります。他の鳥の鳴き真似もよくします。園内にいる本種がオオタカの鳴き真似をするのは、ここに生息するオオタカの影響によるものかもしれません。
  • カルガモ(Anas poecilorhyncha カモ目 カモ科)
    カルガモ
      1年中普通に見られる唯一のカモ。冬、湖沼の結氷する地方では暖地に移動します。冬鳥である他のカモ類と異なり雌雄同色です。平野部の水田・川・池沼で生活します。草の実や葉・水草から水棲昆虫・貝の動物質までを餌とします。繁殖期には水辺近くの草むらや休耕した畑・やぶなどの乾いた土地に巣を作ります。越冬期には他のカモ類と混群を作ります。県各地の水辺で留鳥としてよく見られます。青葉山周辺の池沼で繁殖が確認されており、園内ではロックガーデンの池によく見られます。
  • カワセミ(Alsedo atthis ブッポウソウ目 カワセミ科)
    カワセミ
      全国的に分布し繁殖します。冬、北方のものは暖地に移動します。生息場所の水辺が氷ってしまうのが理由のようです。平地から山地の水辺に生息します。水中にダイビングして魚をとらえます。水棲昆虫やエビも餌とします。水辺の土の崖に嘴を使って巣穴を掘ります。1960年代には河川の汚染により減少しましたが、近年徐々に回復し、都市に進出してきました。広瀬川で複数のつがいが繁殖しているようです。植物園の川沿いにも見られます。
  • キジ(Phasianus versicolor キジ目 キジ科)
    キジ
      日本の国鳥であり、狩猟鳥でもあります。北海道かた九州までの各地に留鳥として生息しています。狩猟用に人工繁殖・放鳥が行われ、4つの亜種が交雑してしまいました。平地から山地の明るい林・林縁・草原・農耕地に見られます。主に地上を歩いて餌を取り、草の葉や実・昆虫・クモを食べます。繁殖期以外は雄同士・雌同士の群れで生活していることが多く見られます。園内の林縁において周年観察され、特に春先は「ケン、ケーン」という鋭い鳴き声が聞かれます。広瀬川の川原でも普通に見られます。
  • キジバト(Streptopelia orientalis ハト目 ハト科)
    キジバト
      全国で繁殖します。低地から山地の明るい林に生息し、市街地にも多くいます。林床・草地・耕地の地上を歩きながら、草や木の実を食べます。「デテッポッポー」と低い声で繰り返しさせずります。野山の鳥でしたが、今ではすっかり都市に対応しました。街路樹など枝に皿形の巣を作り、年に数回繁殖します。繁殖期に、ばたばたと羽ばたいて上昇しグライディングをしながら降りるディスプレイ飛行を行います。園内で繁殖しており、オオタカに襲われたらしい残骸が見られることもあります。
  • コゲラ(Picoides kizuki キツツキ目 キツツキ科)
    コゲラ
      日本では最も小型のキツツキ。全国の平地から山地の林に生息しています。主に昆虫類を餌として秋冬でも樹皮の下から探し出して食べます。花蜜もよく吸います。枯れ木や枯れかかった木に嘴で穴を掘って巣とします。「ギーッ」という声が特徴的で1年中よく聞かれます。連続的に木をたたくドラミングもよくします。他のキツツキ類に比べ、小さく短い音です。園内では周年見られ、繁殖もしています。秋冬にはシジュウカラ・メジロなどと混群を作り園内を移動しています。
  • コジュケイ(Bambusicola thoracica キジ目 キジ科)
    コジュケイ
      中国原産だが、1919年以降狩猟の対象とするために各地で盛んに放鳥されました(宮城県では1950年頃から)。それらが自然繁殖して、主に太平洋岸の積雪の少ない地方に留鳥として広く分布しています。平地から低山帯の、下やぶの茂った雑木林などに生息します。地上を歩きながら、草・木の実・昆虫・クモを食べます。園内で繁殖しているらしく、3月から6月にかけて声が聞かれます。全国でも県内でも減りつつあります。
  • サンコウチョウ(Terpsiphone atrocaudata スズメ目 ヒタキ科)
    サンコウチョウ
      夏鳥として渡来し、本州から屋久島までの各地で繁殖します。「月、日、星、ホイホイホイ」と鳴くことからこの名があります。平地から1,000m以下の山地の暗い林に生息します。つがいでなわばりをもち、樹上やつるにコップ型の巣を作ります。巣立ち後しばらくは家族群で行動します。雄は雌に比べて大変長い尾をもちます。林の間を軽快に飛び昆虫をとらえます。かつて植物園で繁殖をしていましたが、近年は確認できません。竜ノ口渓谷での繁殖は確認されています。
  • シメ(Coccothraustes coccothraustes スズメ目 アトリ科)
    シメ
      北海道に夏鳥として渡来し、繁殖します。本州以南には冬鳥として渡来します。雑木林や公園などの明るい林にすみ、ムクノ・エノキ・ハゼノキなどの木の実を好んで食べます。他の鳥が好むような果肉があっても、種子のみを食べます。冬は普通単独ですが、植物が豊富な所では群も作ります。県内には冬鳥として渡来し、市街地でも見られます。広瀬川の川原にも普通にいます。園内では冬には少数ですが、春先には梢に止まっている姿をよく見かけます。
  • スズメ(Passer montanus スズメ目 ハタオリドリ科)
    スズメ
      留鳥として全国で繁殖します。若鳥の中には長距離移動するものもあります。人里付近だけで繁殖し、人家の屋根・壁の隙間に好んで営巣します。石垣の間や巣箱も利用します。巣材には枯れ草からビニール袋など人工物も使います。繁殖期には昆虫をよくとらえますが、冬には地上で草の実などを食べます。市街地ではどこでも見かける鳥ですが、園内には意外と少数です。森林性の鳥ではないからでしょう。国外で本種の生態的地位に当たるのはイエスズメであり、本種は森林性の鳥となっています。
  • ツグミ(Turdus naumanni スズメ目 ヒタキ科)
    ツグミ
      シベリア東部からカムチャッカにかけて繁殖し、日本には冬鳥として全国に渡来します。低地から山地の農耕地・芝生・川原・干潟など、いろいろな環境に生息します。秋の渡来直後は林で群が見られ、イイギリなどの木の実を好んで食べます。冬には群は消失し、開けた場所で一羽で見られることが多くなります。地上を跳ねながら移動しては止まり、小動物をとらえます。園内の開けた場所で採餌している姿がよく見られます。
  • ツツドリ(Cuculus saturatus カッコウ目 カッコウ科)
    ツツドリ
      日本で確認できる主なカッコウ科の鳥は、ジュウイチ・カッコウ・ツツドリ・ホトトギスです。夏鳥として日本に渡来し、他の鳥の巣に卵を産み雛を育てさせます(托卵※)。植物園周辺ではホトトギス・カッコウが確認されていますが、ツツドリ・ジュウイチは渡りの時期にみられるにすぎません。托卵相手の有無によるものでしょう。展示室の剥製は赤色型のツツドリだと考えられています。
    ※ジュウイチはコルリ・コマドリ・オオルリに、カッコウはヨシキリ類・モズ類・ホオジロ類に、ツツドリは主にセンダイムシクイに、ホトトギスは主にウグイスに托卵をします。
  • トラツグミ(Zoothera dauma スズメ目 ヒタキ科)
    トラツグミ
      日本最大の大型ツグミ類。全国に分布しますが、積雪の多い地域のものは冬に暖地へ移動します。丘陵から低い山地の広葉樹林に生息します。地上付近で主に行動し、嘴で落ちた葉をはねのけてミミズや昆虫を探します。虫の少ない冬には木の実も食べます。主に夜に鳴きますが、「ヒーヒョー」といった無気味な声が本種の古名(ぬえ)の由来になっています。園内では冬に確認されており、本学構内の開けた場所で採餌しいている姿も見られます。青葉山では初夏に声を聞くことができます。
  • ノスリ(Buteo buteo タカ目 タカ科)
    ノスリ
      北海道から四国にかけて繁殖し留鳥といえますが、寒くなると寒地や耕地のものの一部は暖地・低地に移ります。亜高山から平地の林にすみ、付近の荒地・川原・耕地・干拓地など開けた場所でネズミ・カエル・ヘビ・昆虫・鳥を取ります。林内の大木の枝に枯れ木を積み重ねて営巣します。県内で繁殖しており、市街地から離れた低山でよく見られます。冬には耕作地の電柱に止まっています。園内や青葉山で冬に確認されていますが、青葉山全体で1~2羽でしょう。
  • ハシボソガラス(Corvus corone スズメ目 カラス科)
    ハシボソガラス
      本種は川原や農耕地に多く、ハシブトガラスは都市部に多く見られます。九州以北に留鳥として生息しますが、沖縄では珍しい鳥です。雑食性で、他の鳥の卵や雛を食べることもあります。車道にクルミを置いて車に割らせる「クルミ割り」をします。この行動はハシブトガラスでは見られません。園内ではハシブトガラスの方が多く見られます。園内の二種のカラスの合計数は増えつつあります。ねぐらとしても使われており、特に冬にはかなりの数になります。
  • ヒガラ(Parus ater スズメ目 シジュウカラ科)
    ヒガラ
      ほぼ全国的分布し、繁殖します。冬には山麓や丘陵に移動するものもいます。カラ類の中では最も小さい種類です。繁殖期に好んで針葉樹林に生息し、つがいでなわばりをもち、樹洞やキツツキの古巣などに営巣します。昆虫やクモなど樹上の小動物を餌とし、木の実も食べます。県内では山地にすみますが、冬には市街地均衡にも下りてきます。園内でも主に冬に見られ、カラ類やコゲラ・エナガとともに混群を作ります。
  • ヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis スズメ目 ヒヨドリ科)
    ヒヨドリ
      全国で広く繁殖し、個体数が多い鳥です。北方や山地のものの多くは、冬に群れで暖地に移動します。平地の都市部から山地の森林まで木のある所に生息しています。市街地の木に営巣するようになったのは1970年代以降のことで、都市化の例として注目されています。繁殖期には大型の昆虫を好んで食べます。県内では1年中普通に見られますが、北方のものが南下する際に数百単位の大きな群れが通過します。園内でも周年見られ、繁殖しているようです。
  • フクロウ(Strix uralensis フクロウ目 フクロウ科)
    フクロウ
      九州以北の平地から山地の林に留鳥として生息し繁殖します。「ごろすけほーほー」と鳴きます。大木の樹洞のほか、カラスやタカの古巣も利用します。夜行性だが昼でも採餌します。ネズミを主食とし、小鳥・イタチ・虫も食べます。人里の鳥でしたが、今は営巣木やネズミ類の減少で少なくなっています。夜間に餌を取るために音をたてな羽や特別の耳と目を持ちます。園内で1つがい、青葉山で複数のつがいが繁殖しているようです。本学構内で見られることもあります。
  • ミソサザイ(Troglodytes troglodytes スズメ目 ミソサザイ科)
    ミソサザイ
      日本でもっとも小さい部類に入る鳥の一つ。北海道から屋久島までの全国に分布し主に山地で繁殖します。冬は山麓や低山に移動するものもいます。沢沿いの林や亜高山帯の針葉樹林を好み、岩や倒木のすきま・崖に現れた根の間を忙しく移動して昆虫・クモをついばみます。体は小さいのですが、大変複雑な歌を長く大きな声でさえずります。一夫多妻の繁殖形態をとりますが、繁殖期以外は単独で行動します。園内では主として冬鳥です。わずかな個体が4月に見られ、ぐぜり(未完成なさえずり)が聞こえます。
  • ムクドリ(Sturnus cineraceus スズメ目 ムクドリ科)
    ムクドリ
      九州以北で繁殖します。雪の多い地方のものの多くは冬に暖地へ移動します。平地や盆地の人里付近に住む鳥で、木の点在する村落・市街地に多く見られます。繁殖期はつがいで生活し、樹洞に営巣します。人家のすきまや戸袋・巣箱などもよく利用します。地上を歩きながら昆虫類を餌とし、秋冬には木の実なども好んで食べます。繁殖期が終わると群れで生活し、集団でねぐらを作ります。仙台市内でも留鳥として数多く見られます。植物園周辺ではよく見かけますが、園内ではあまり見られません。
  • メジロ(Zosterops japonicus スズメ目 メジロ科)
    メジロ
      ほぼ全国で留鳥として繁殖しますが、北日本にはわずかです。平地や山地までいろいろな林に生息しますが、よく茂った常緑広葉樹林を最も好みます。繁殖期には昆虫やクモをとらえて餌にします。秋冬には木の実もよく食べ、ヤブツバキなどの花の蜜もよく吸います。蘚類や枯れ草で作った椀型の巣をクモの巣でつり下げます。園内では周年見られ、繁殖しているようです。冬にはシジュウカラやコゲラと共に混群を形成しています。
  • モズ(Lanius bucephalus スズメ目 モズ科)
    モズ
      北海道から九州までの全国に広く分布し繁殖します。北日本のものは冬に北方へ移動します。集落や農耕地の周辺・川原・低木のある開けた環境に生息します。昆虫やムカデ・カエルなどの小動物をとらえ、木の刺や小枝に刺しておく「はやにえ」の習性があり、秋にもっとも目立ちます。テリトリーを確保し春の繁殖につなげるために秋から冬にさえずります。これを特に高鳴きといい、園内周辺でもよく聞きます。春早いうちから繁殖し、巣立った雛に給餌している姿が見られます。
  • ヤマセミ(Geryle lugu ブッポウソウ目 カワセミ科)
    ヤマセミ
      北海道から九州までの各地に留鳥として生息し、繁殖しています。本来は山地から里山の渓流や湖沼に生息する本種が、珍しいことに市街地を流れる広瀬川でも見られます。周年見られますが、繁殖期には餌を取る回数が増えるために見る機会が多くなります。川面に突き出た木の枝に止まり、ダイビングして魚をとったり、ホバリングしてからダイビングする竜ノ口周辺において繁殖していますが、毎年ではないようです。
  • ヤマドリ(Syrmaticus soemmerringii  キジ目 キジ科)
    ヤマドリ
      日本特産種で、本州・四国・九州に留鳥として繁殖しています。九州南部の亜種コシジロヤマドリを除く4亜種は狩猟鳥です。丘陵から1800m以下の山地のよく茂った林に生息し、沢沿いの暗い林に多くいます。主に地上を歩きながら草の葉・花・実・昆虫を食べます。雄が羽ばたいて音を出します。このドラミングはキジの仲間に限って特に「母衣(ほろ)打ち」といいます。青葉山では春先から初夏にかけ「ドドドドド」という、強い母衣打ちが聞かれます。近年園内ではほとんど見られません。
  • ヨタカ(Caprimulgus indicus  ヨタカ目 ヨタカ科)
    ヨタカ
      タカの名はついていますがタカの仲間ではありません。北海道から九州までの各地に夏鳥として渡来し繁殖します。低山から山地の明るい林や草原に生息します。夕方から夜にかけて草原や林の上空を飛び回り、ガなどの昆虫をとらえます。嘴は小さいが大きく開き、口の周りのひげも虫をとらえるのに役立ちます。羽毛が柔らかく羽音を立てません。青葉山では約10年前まで繁殖していたようです。近年は初夏の渡りの時期に声が聞かれる程度です。
  • ルリビタキ(Erithacus cyanurus  スズメ目 ヒタキ科)
    ルリビタキ
      北海道・本州・四国の亜高山帯の針葉樹林で繁殖し、冬には山麓・丘陵や暖地に移動します。シラベ・コメツガ・オオシラビソの林によくいます。主として昆虫やクモを餌とし、冬の低地では植物の実を食べています。蔵王では木の梢でさえずっていることも珍しくありません。園内で多くが見られるのは「さらに低地に下りるものが園内を通過する秋」と「山へ帰っていくものが通過する晩冬」の年2回です。園内で越冬するものもいますが数はわずかです。

哺乳類

  • トウホクノウサギ(Lepus brachyurus angustidens ウサギ科)
    トウホクノウサギ
      本州・四国・九州で見られるノウサギは、地域によって足の大きさが異なり、4つの亜種に分けられています。本種は東北から中国山地までの、雪の積もる地域に分布する亜種であり、足の長さは15cm前後です。餌となる植物は特に決まっていませんが、冬には雪の上に出た樹木の小枝を食べ、太い枝は甘皮をかじり取って食べます。植物園内でも雪の上に足跡や糞塊が見られます。園での個体数が減っている原因の一つとして、ホンドキツネの増加が考えられます。
  • ニッコウムササビ(Petaurista leucogenys nikkonis リス科)
    ニッコウムササビ
      日本のムササビは3亜種に分けられています。本種は東北地方~長野県の低山の森林に生息しており、針葉樹の大木の洞に巣をつくります。飛膜によって60mから200mも飛ぶことがあります。尾で舵をとります。夜行性であり、夜の園内でモミやスギの大木の先に止まり、ギャーギャーと大声で鳴くのが聞こえます。植物食で果実・若い木の芽・ドングリなどを食べますが、昆虫も食べます。食性が幅広いので、生息密度は樹洞の数で決まっているようです。
  • ニホンアナグマ(Meles meles anakuma イタチ科)
    ニホンアナグマ
      本州・四国・九州の平地から低山地に分布。前足の爪が長く、穴掘りが上手です。生息のためには、子育て・休憩・避難所としての穴を複数確保できる所が必要です。ウサギ・ネズミ・は虫類・カエル・昆虫から果実までなんでも食べますが、主食はミミズです。ミミズの多い土の肥沃な場所を好みます。タヌキと同様人との関わりが問題となっています。夜行性と言われていますが植物園内では昼間でも現れ、土を掘り返して餌をあさっています。
  • ニホンリス(Sciurus lis リス科)
    ニホンリス
      本州・四国に生息。平地から低山地に生活します。植物園内での生息個体数は多くはありませんが、沢道周辺で見かけることがあります。冬に葉が落ちて見晴らしがよくなった林内で、枝から枝へ渡る姿が観察されます。クルミやドングリを好み、丈夫な前歯で器用にこじあけて食べます。近年、ペットとして飼われているチョウセンシマリスが野生化し、本州でも見かけるようになりました。
  • ハクビシン(Paguma larvata ジャコウネコ科)
    ハクビシン
      九州・四国・本州に生息。日本には昔から生息していたのか、帰化したのかわからない動物です。分布域は北方に広がって来ており、植物園内でも1988年頃から見られるようになりました。雑食性。農作物(とくに柑橘類)に被害を及ぼすことがあります。食性・行動が似ているアナグマやタヌキの通り道・巣穴を利用し、彼らの生態的地位を横取りすることがあるようです。
  • ホンシュウジネズミ(Crocidura dsinezumi chisai トガリネズミ科)
    ホンシュウジネズミ
      本州から北海道に分布。平地から低山の草原・畑・雑木林にふつうに見られます。下ばえや落葉の下などに通路を作り、トガリネズミに似た生活をしているようです。よく茂った草の間や耕された後の土の隙間などに、枯れ葉を使った皿状の巣をつくります。昆虫・クモ類を主食とし、植物質も食べます。
  • ホンシュウヒミズ(Urotrichus talpoides hondonis モグラ科)
    ホンシュウヒミズ
      日本産のヒミズは5亜種に分けられており、本種は本州と淡路島に分布しています。平地から山地帯まで生息し、上限地帯ではヒメヒミズと混生します。森林に多く見られますが、畑・草原・川原にも稀にいます。林床の落葉層にトンネルを掘って住みます。ときどき地上も歩きます。雑食性であり、ミミズなどの土壌動物を食べます。ミミズの豊富な落葉層の破壊や、スギなどの針葉樹の植林が彼らの生活を圧迫しています。植物園内では観察路で時々死体を発見することがあります。
  • ホンドアカネズミ(Apodemus speciosus speciosus ネズミ科)
    ホンドアカネズミ
      本州・四国・九州の平地から山地の草原・河原の薮・開けた森林に生息します。本州では最も優勢な野ネズミ。伐採によって開かれた森の増加は本種の個体数を増やしています。木の実や昆虫を食べますが、特にどんぐりを好み、巣に持ち帰って貯えることもあります。そのためにどんぐりの散布者としての役割も担っています。園内では林縁部から草地にかけて分布しています。
  • ホンドイタチ(Mustela sibirica itatsi イタチ科)
    ホンドイタチ
      自然分布は本州・四国・九州。明治以後北海道に移入されました。ネズミ退治に効果があるので、天敵として利用されます(生物制御)。しかし安易な移入は生態系の破壊につながる恐れがあります。足には小さな水かきがあり、上手に泳ぎます。低地から低山地の水辺に多く生息します。夕暮れから川や谷筋を走り回り、ネズミ・魚・カエル・ウサギ・ニホンリス・ヘビなどをとらえます。冬には、園内の雪の上に足跡が見られます。
  • ホンドキツネ(Vulpes vulpes japonica イヌ科)
    ホンドキツネ
      本州・四国・九州の低地から亜高山に生息しています。草原と森林が入り組んだような環境を好みます。繁殖のために巣穴を掘り、その回りに家族で100haを越えるなわばりを持ちます。このように、かなりまとまった好適な環境が確保されないと地域個体群を維持できません。基本的には雑食ですがネズミやウサギをとらえるなど肉食傾向が強いようです。1987年に植物園研究棟の床下で2頭の子供が生まれた記録があります。
  • ホンドキツネ(Vulpes vulpes japonica イヌ科)
    ホンドキツネ
      1987年に旧研究棟の床下で生まれた2頭の子狐の内の1頭
    本州・四国・九州の低地から亜高山に生息しています。草原と森林が入り組んだような環境を好みます。繁殖のために巣穴を掘り、その回りに家族で100haを越えるなわばりを持ちます。このように、かなりまとまった好適な環境が確保されないと地域個体群を維持できません。基本的には雑食ですがネズミやウサギをとらえるなど肉食傾向が強いようです。
  • ホンドタヌキ(Nyctereute sprocyonoides viverrinus イヌ科)
    ホンドタヌキ
      本州・四国・九州の低地から山地に分布。森の薮の中にトンネル状の通路をつくり、その奥に巣をつくります。雑食性で何でも食べ、餌条件がよくなると個体数が急に増えます。植物園では1980年頃から数が増えた後、皮膚病が大流行しました。87年~94年頃までは体毛が抜けて丸裸のタヌキが見られました。人里近くに住むので交通事故・飼い犬からのジステンパー感染が増えています。仙台市内の沢すじに薮が残っている所なら宅地近くでも生息しており、残飯あさりもしているようです。
  • ホンドハタネズミ(Microtus montebelli montebelli ネズミ科)
    ホンドハタネズミ
      主に本州・四国・九州の平地から亜高山の森林で見られ、高山のハイマツ低木林にも生息しています。地下のトンネルに住み、地上を走りますが、ときには木にも登ります。鳥の巣箱を巣にすることもあります。長い尾はバランスをとるのに役立ちます。木の実や昆虫を食べます。よく繁った森の指標となる種であり、森がなくなると姿を消してしまいます。園内の林に広く分布しています。

青葉山の地質と地形

地形立体模型

地形立体模型
地形立体模型

  植物園は北緯38度14~15分、東経140度50~51分に位置し、標高は60~145mに渡ります。ここは奥羽山脈の東側に広がる丘陵地の東端で、園の東は広瀬川をはさんで仙台平野に対峙し、西には丘陵が続き、南は丘陵地を刻む深さ60mにもおよぶ竜ノ口渓谷の絶壁となっています。
植物園は、丘陵の尾根を走る市道青葉山-亀岡線を境に北斜面の川内側と南斜面の竜ノ口側とに分かれ、両斜面の地形に違いがみられます。川内側では本沢や深沢を中心に侵食されてできた谷があり、起伏が大きく急斜面や崩壊斜面が多数みられます。一方、竜ノ口側は比較的緩やかな斜面で起伏も小さく、渓谷に流れ込む懸谷状の小さな沢がいくつかありますが、川内側に比べて侵食量が少なく、沢の源頭やその周辺に小規模な湿地が点在しています。

竜ノ口渓谷(植物園南側)

竜ノ口渓谷(植物園南側)
写真解説:下流側から眺めた八木山橋。この川から右の部分が植物園です。崖の縁がアカシデ林。地層、雲形侵食、斜行層理、貝化石、サンドパイプ、埋れ木、亜炭、V字谷など、見るべきものが山ほどあります。

南側から見た植物園の地質断面図

南側から見た植物園の地質断面図
南側から見た植物園の地質断面図

  地層は西から東へ向かって傾いています。沢の傾きよりもさらに深い角度です。したがって、沢の奥ほど、古い地層が現れてきます。沢を遡ることは、時間を遡ることにもなります。
竜ノ口渓谷には貝化石がたくさん出る層(竜の口層)があります。植物園の川内側(北側)の部分にも化石の露出した断面が存在します。しかし、道はなく、危険なので、残念ながらご覧に入れることができません。

地すべり跡地(園内)

  1986年(昭和61年)8月5日の集中豪雨により発生した土砂崩れは土石流となり、現在コンクリート堰堤のある本沢の狭窄部まで流下しました。崩れた土砂の量は約10,000㎥でした。青葉山丘陵には緑が丘・放山などの地すべり地が数多くあります。これらの地域では、基盤岩である第三紀の凝灰岩(大年寺層)の上に、第四紀の青葉山礫層が堆積しています。この礫層が多量の雨水を含むと凝灰岩との境から崩れ、崩壊性地すべりが発生します。植物園では、かつてあった道標4-7-8の園路を地すべり以来、廃道にしました。

園内の貴重な植物

  52haにおよぶ植物園内に自生する植物は、コケ植物58科156種・シダ植物12科44種・種子植物100科640種を数えます。モミ林内にはヒメノヤガラ・ホクリクムヨウラン・ユウシュンラン・カヤランなど、デリケートな生育環境を必要とするランの仲間がみられます。発達した自然状態が長年にわたって維持されてきたことを物語っています。レッドデータブック(旧基準)に載っている植物たちには、解説の後に、全国での現状・分布・危機の原因を書いています。これらは園内に自生あるいは栽培されています。

※レッドリストについては環境庁ホームページ内の「レッドリストについて」をご覧下さい。

  • ヒメノヤガラ(Chamaegastrodia sikokiana Makino et F.Maek. ラン科)
    ヒメノヤガラ
      九州~岩手県に分布する暖地性植物。産地はわずかです。葉緑素を持たず、根に共生(共棲)している菌類が落ち葉を分解して得た栄養を吸収して、生育する植物です。生育するには落葉落枝が供給され、土壌水分が安定に保たれる環境、つまりよく発達した森林が必要です。当園で採集された個体で花の詳しい構造がはじめて明らかにされました。
  • ムヨウラン (Lecanorchis japonica Blume ラン科)
    ホクリクムヨウラン
      東北地方の岩手県以南から沖縄まで分布。緑の葉を持たない腐生植物。スダジイ・ウラジロガシなど常緑広葉樹林の林床に生育します。花は褐色。園内ではモミ林の林床に見られます。
  • マツラン(Gastrochilus matsuran (Makino) Schltr. ラン科)
    マツラン
      九州~宮城県の太平洋側に分布。普通はスダジイ・ウラジロガシなど常緑広葉樹の幹に着生しています。当園ではモミの大木上部の幹や枝に着生しています。アカマツやクロマツの大木上部にもよく着生しています。着生植物は雨水や空気中の水分を利用しているので、森林がよく繁って安定していることが必要です。最近は大木が減少し、生活の場が失われて来ています。
  • カヤラン(Thrixspermum japonicum (Miq.) Rchb.f. ラン科)
    カヤラン
      九州~岩手県に分布。生育状況はマツランに似ています。花は淡黄色。暖地植物で宮城県では珍しい植物。
  • ユウシュンラン(Cephalanthera subaphylla Miyabe et Kudo ラン科)
    ユウシュンラン
      園内にも生えているギンランの葉に似ていますが、葉が退化しており、花も大きめです。北海道から九州まで分布しますが、全国的にも稀。園内には比較的多くの個体が生育しています。
  • センダイトウヒレン(Saussurea sendaica (Franch.) Koidz. キク科)
    センダイトウヒレン
      本州の関東地方以北に分布します。9~10月に紅紫色の花が咲きます。園内ではスギ林の林床に少数が見られます。仙台市が基準産地であることから、和名および学名に仙台の名を残しています。
  • スエコザサ(Sasaella ramosa (Makino) Makino var. suwekoana (Makino) Sad.Suzuki イネ科)
    スエコザサ
      葉の片方が裏に向かって巻いているのが特徴。東北地方の太平洋側低地に稀に生育しています。牧野富太郎が仙台市の丘陵地*で発見したササで、この地が基準産地となっています。和名および学名は富太郎の研究を支えた、すゑ子夫人に捧げられたものです。園内の林縁にややふつう。※青葉区川内の亀岡八幡宮西側の谷とされています。
  • オヤリハグマ(Pertya trilobata (Makino) Makino キク科)
    オヤリハグマ
      関東地方北部~東北地方だけの狭い地域に生育。植物園内では全域の明るい林床にややふつう。花は白色で9~10月に咲きます。
  • オオツルウメモドキ(Celastrus stephanotidifolius (Makino) Makino ニシキギ科)
    オオツルウメモドキ
      岩手~九州にまれ。林縁に生える落葉性のつる植物。園内では深沢や市道川内-旗立線沿いなどの林縁にややふつう。
  • サクラソウ(Primula sieboldii E.Morren サクラソウ科)
    サクラソウ
      湿地に生育する多年草。花には花柱が長いものと花柱が短いものの二型があり、異なる型同士の交配ではよく種子ができますが、同じ型同士ではあまりできません。県内でも絶滅の危険があります。
    危急種/日本・朝鮮半島・中国大陸東北部・シベリア東部/湿地開発・園芸用乱獲
  • カザグルマ(Clematis patens C.Morren et Decne. キンポウゲ科)
    カザグルマ
      落葉性の木本つる植物。平地から丘陵地のやや湿った日当たりのよい地に生育します。花は5~6月に咲き、白か淡紫色。園内ではここしばらく花が見られなくなっています。危急種/日本・朝鮮半島・中国大陸/宅地開発・園芸用乱獲
  • アツモリソウ(Cypripedium macranthos Sw. var. speciosum (Rolfe) Koidz. ラン科)
    アツモリソウ
      丘陵地から低山地の草原や林内に生える多年草。花は5~7月。形の面白さから園芸好事家に珍重され、盗掘されてしまいました。かつては奥羽山系や北上山地にも生えていたことが知られていますが、今ではほとんどありません。園内に栽培。
    絶滅危惧種/ユーラシア/開発・園芸用乱獲
  • コバノヒルムシロ(Potamogeton cristatus Regel et Maack ヒルムシロ科)
    写真準備中
      多年草。小型の水生植物で水中の沈水葉と水面に浮いている浮水葉をもちます。冬を越す芽は親株から離れて池の底に沈みます。種子は小型で水鳥の羽などに付着して散布されます。園内では火薬庫跡の水たまりにやや多数生えています。これは本沢の栽培株が逸出したものと考えられます。
    危急種/日本・朝鮮半島・中国大陸/湿地開発・水質汚染
  • ヤマスカシユリ(Lilium maculatum Thunb. var. monticola H.Hara ユリ科)
    ヤマスカシユリ
      山地帯の岩場・崖などに生える多年草。地域が限られています。園内で栽培。
    危急種/日本(新潟・福島・山形・宮城・秋田県)/ダム建設による岩場の消失・園芸用乱獲
  • オキナグサ(Pulsatilla cernua (Thunb.) Bercht. et C.Presl キンポウゲ科)
    オキナグサ
      日当りのよい草丈の低い草原に生える多年草。花期は4~5月。採草地の外来植物による人工草地化や、放棄による森林化で減少しました。園芸目的に盗掘されています。園内で栽培。
    危急種/日本・朝鮮半島・中国大陸/草地開発・園芸用乱獲
  • ヒメシャガ(Iris gracilipes A.Gray アヤメ科)
    ヒメシャガ
      平地から丘陵地のやや乾いた森林の林床に生育する多年草。シャガに比べて小型で、葉が細く全体にやさしい感じがします。淡紫色の花が5~6月に咲く。宮城県では夏鳥のカッコウが渡って来る頃に咲くので、カッコウバナと呼ばれています。仙台周辺では比較的豊富に生育しています。
    危急種/日本固有種/園芸用乱獲
  • タコノアシ(Penthorum chinense Pursh タコノアシ科)
    タコノアシ
      泥湿地・沼・水田・河原など水位の変動するところに生育する多年草。果実の時期が吸盤の付いた蛸の足のように見えます。県内でも比較的まれな植物。園内ではロックガーデンにやや多数自生。
    危急種/東アジア/湿地開発
  • ミクリ(Sparganium erectum L. ガマ科)
    ミクリ
      湖沼や河川・水路の浅水域に群生する多年草。とくに西南日本ではまれになっています。園内では実験池にやや多数生えています。
    危急種/アジア・ヨーロッパ・北アフリカの温帯/河川や湖岸の改修