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JST-RISTEXプロジェクト「不確実な科学的状況での法的意思決定」の
科学グループが独自に運用するホームページです.
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公開シンポジウム 「科学の不定性と社会 ~ いま,法廷では..? ~」
International Symposium on Scientific Incertitude and Society: Lessons from Law Court
シンポジウム趣旨
原発の稼働の可否,地球温暖化への対処など,科学技術の問題は科学が答えを決めるのでしょうか.専門家の判断は絶対なのでしょうか.
学校では「正解のある科学」が教えられます.しかし,先端技術の評価や環境予測など,現実社会の中で科学は正解を用意できません(不定性).では,主権者たる市民,行政,そして司法は,このような本質を持つ科学,これを用いる専門家 とどう向き合えば,主体的判断 に活かせるのでしょうか.
このシンポジウムでは「不定性」が端的に現れる法廷を例に日本の制度的問題を明らかにし,世界最先端の「コンカレント・エヴィデンス方式」(マクレラン判事),「専門知の不定性」(スターリング教授)の知見を踏まえることで,科学の不定性を直視した社会制度のあり方を議論します
2012年8月26日(日曜日) 東京・一橋記念講堂
一般公開,入場無料,同時通訳あり(申込先着順500名)
10時〜18時(予定)
主催: (独)科学技術振興機構/RISTEX 研究開発プロジェクト
「不確実な科学的状況での法的意思決定」科学グループ
後援: 日弁連法務研究財団,日本物理学会,科学技術社会論学会
日本臨床環境医学会
運営: 国際シンポジウム組織委員会
【プログラム】
10:00 -- 10:40 科学の不定性と裁判:科学者の視点から
東北大学理学研究科 本堂 毅
10:40 -- 11:00 『コンカレント・エヴィデンス』とその制度的含意
常磐大学 吉良貴之
11:00 -- 11:40 コンカレント・エヴィデンス:専門家を活用する現代的手法
豪州NSW最高裁コモンロー首席判事ピーター・マクレラン
13:00 -- 13:25 専門知を意思決定にどう使うか:日本の状況における問題点
流通経済大学法学部 尾内隆之
13:25 -- 14:05 科学の不定性に向き合う:方法論と政策の可能性
英国サセックス大学 アンドリュー・スターリング
14:05 -- 14:30 合理的失敗は可能かー後悔の最小化、ベストエフォート、受容
大阪大学コミュニケーションデザインセンター 小林傳司
14:30 -- 15:30 企画展示、パネルディスカッション質問受付等
「科学の不定性と法を扱うための『ハンドブック』の編集」
(中島貴子ほか)
コンカレント・エヴィデンスDVD上映,ほか
15:30 -- 18:00 パネルディスカッション
司会:本堂毅/尾内隆之
ピーター・マクレラン、オーストラリアNSW州最高裁コモンロー首席判事
アンドリュー・スターリング、英国サセックス大学、
小林傳司(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)
平田光司(総合研究大学院大学学融合推進センター)
渡辺千原(立命館大学法学研究科)
米村滋人(東北大学法学研究科)
Web Page: http://www.sci.tohoku.ac.jp/hondou/0826
参加お申込み方法(参加費:無料.申し込み順500名まで)
1) フォーム利用: http://kokucheese.com/event/index/44640/
2) メール利用
以下の項目をご記入の上、メールにてお申込み下さい。
氏名 フリガナ
所属・職業
申込み人数(複数人をまとめて申し込む場合)
ご連絡先
メールアドレス:sy826 mail.sci.tohoku.ac.jp
3) ファックス FAX番号:022-795-5831
4) 郵送: (事務局)
980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉6-3 東北大学 大学院理学研究科 本堂研究室内 シンポジウム事務局
参考資料:
科学技術の不定性と社会的意思決定──リスク・不確実性・多義性・無知」
吉澤 剛・中島貴子・本堂 毅
(岩波「科学」2012年7月号,岩波書店掲載許諾済)
"Keep it Complex" Andy Stirling, Nature (2010)
New! コンカレントエヴィデンスの日本語字幕版ビデオが最終版に更新されました!
組織委員:
総合研究大学院大学学融合推進センター 平田光司
九州大学情報基盤研究開発センター 小林泰三
国際基督教大学 中島貴子
流通経済大学法学部 尾内隆之
北陸先端科学技術大学院大学 立花浩司
常磐大学国際学部 吉良貴之
東京工業大学大学院理工学研究科 調麻佐志
大阪大学大学院医学研究科 吉澤剛
東北大学大学院理学研究科 大石亜衣
東北大学大学院理学研究科 久利美和
東北大学大学院理学研究科 村上祐子
東北大学大学院理学研究科 本堂 毅
連絡先(事務局): 東北大学大学院理学研究科 本堂 毅
hondou(あっと)mail.sci.tohoku.ac.jp
東北大学大学院理学研究科 大石亜衣
申し込み方法等の詳細,プログラム等はこちらをご覧ください.
http://www.sci.tohoku.ac.jp/hondou/0826/
シンポジウムを理解するための用語集
(β版.ビアスの『辞典』が楽しめる方へ)
Expert Evidence(エクスパート・エヴィデンス):海外の多くの国では "Expert Evidence" と呼ばれる科目が法学部・法科大学院で教えられます.科学技術,医学など,専門性の高い知識を法曹がどのように扱うべきか,裁判のやり方をどのように制度設計すべきかを明らかにする研究分野です.この科目を担当する教員は,Expert Evidence の専門家で,狭義の法学だけではなく科学哲学,科学技術社会論(STS) などに通じています.日本では残念ながら,Expert Evidence という科目は独立したものとしては存在せず,したがって法学部・法科大学院には,その専門家も殆どいません.
誘導尋問(ゆうどうじんもん):尋問者の欲する答えが暗示されている質問.一般的に,質問内容を限定し,イエス・ノーで答えさせることを繰り返すことによって,欲する答えに導こうとするもの.誘導された結果,証言者にとって不本意な証言になる危険性が指摘されています.日本の法廷では科学者証人に対しても誘導尋問が行われていますが,科学的な証拠は様々な条件に依存する性質を持つため,科学的条件を明示しないイエス・ノー式での単純な答えでは,科学的合理性を保った証言が原理的に不可能です(科学技術社会論研究,第7号,p.118,2009).これは,法廷での科学的証拠を専門とする研究者間では,世界的によく知られた問題です.マクレラン判事が登場するDVD でも,誘導尋問による科学者(専門家)尋問は不毛だという認識がコンカレント・エヴィデンスを生み出したことが語られています.
対審構造(たいしんこうぞう):両当事者(原告と被告)を相対させて行う訴訟のやり方で、当事者は自己に有利な主張や証拠を積極的に出すはずであるから、真実発見のために合理的な制度であるとされています。
線引き問題(せんびきもんだい):科学者が「科学的に確実,蓋然性がある」と判断する基準は何でしょう? 科学は現象から法則を推論し,その法則を現象に適用する営みです.だから100% 正しい科学的知識は原理的にあり得ません.学校の教科書に載っている話なら100% に近いでしょうけど,裁判に上がるような現実の問題では,そうは行きません.「絶対確実」が原理的に言えない以上,科学者のA さんが「確実」といい,B さんは「まだ確実ではない」と言ったとき,その違いは単に,どこから「確実」と捉えるかという「線引き」の違いだけかもしれません.この「線引き」は,科学自体では決まらないものです(科学の不定性).民事事件と刑事事件で,判決に必要な証明度が異なることからも分かるように,社会と関わる科学技術の問題を科学者だけに線引きさせることの問題性も見えてくるでしょう.
科学の不定性(かがくのふていせい):「科学論争」と呼ばれるものは,科学的知識自体より,むしろ上記の「線引き問題」や,そもそもどの問題を重要と考えるのかという価値判断のあり方をめぐった論争かもしれません.その場合に論点を「科学だけで答えが出る問題」と位置づけてしまうと,議論が平行線をたどるのは当然の帰結でしょう.科学だけでは決まらず,価値的な判断を要するものは,多様な専門家や関係者による開かれた議論を通じて社会的に議題構築や意思決定をしておく必要が生じます.スターリング教授の不定性分類についての研究は「リスク評価」や「科学論争」において語られている対象の違いや,そこから来る関係者の議論のすれ違いを明らかにすることにより,開かれた議論の必要性とあり方を示してくれます.
Concurrent Evidence(コンカレント・エヴィデンス):オーストラリアの裁判所で生み出され,活用されている専門家証言の方式.この方式では法廷に先立ち,争点に関する見解について合意できる点と合意できない点を複数の専門家が共同で議論し,その結果をレポートに書きます.その後,専門家は法廷で自らの意見を示すと同時に,先のレポートをもった裁判官の前で互いに質疑応答を行うことが推奨されます.これによって, 科学的不定性が整理され,未来予測が必要な真の不確実性の存在を明らかにできる,誘導尋問で科学的知見が歪められることなく,裁判官の法的判断に必要な質の高い証言を得られる,審理時間が大幅に短縮できる,などの利点が生まれます.この手法が科学技術が関わる社会的意思決定一般でも応用可能なことに気づけば,オーストラリアの体験は裁判に限らず,私たちに様々な示唆を与えてくれるでしょう.
科学者の行動規範(かがくしゃのこうどうきはん):日本学術会議が2006 年に策定しました.その第4項「説明と公開」では,『科学者は、自らが携わる研究の意義と役割を公開して積極的に説明し、その研究が人間、社会、環境に及ぼし得る影響や起こし得る変化を評価し、その結果を中立性・客観性をもって公表すると共に、社会との建設的な対話を築くように努める』こと求められています.しかし,現在の法廷では「誘導尋問」にも例がみられるように,科学者が行動規範に従いながら証言を行うことが容易でありません. 科学者と法廷との「協働」が困難な現状があります.