東北大学とシカゴ大学が新たな量子アライアンスを発足 ー 量子科学分野の研究を加速し、国際的な量子人材の育成に取り組む

【発表のポイント】
  両大学の量子科学技術共同研究の実績を活かし、更なる連携強化を行います。
  学生・研究者交流から、共同でのスタートアップ支援、社会実装につなげます。
  産業界とも連携し、イノベーション・エコシステムを構築・推進します。

【概要】
東北大学と米国のシカゴ大学は、量子科学分野における共同研究、学生交流、産業界との連携及びスタートアップの促進を目指し、”Chicago-Tohoku Quantum Alliance” を共同で立ち上げました。
両大学はお互いに補完しあう強みを持ち、東北大学が持つ材料科学、特性評価、ナノ加工などの専門性と、シカゴ大学が持つ量子科学の強みを組み合わせることで、新しい分野での共同研究や交流を強化・拡大、量子科学・工学の発展に貢献し、日本国内および国外における学術界、産業界、政府との連携ネットワークを形成することを目的に両大学学長の連名による合意書の締結に至りました。
これまで培った研究者間の共同研究から組織間の交流へ拡大し、教員・学生の派遣・受入を促進し、お互いの大学の研究開発インフラへのアクセス、多層的な共同研究室の実現、産業界との共同研究開発・共同教育プログラム、共同でのスタートアップ支援、社会実装を加速します。

 

【詳細な説明】

背景

両大学は、2014年に「シカゴ大学-東北大学材料科学高等研究所(AIMR) ジョイントリサーチセンター」をシカゴに設置して以来、スピントロニクス国際共同大学院プログラム(Graduate Program in Spintronics: GP-Spin)及び先端スピントロニクス研究開発センター(Center for Science and Innovation in Spintronics: CSIS)を通じて、量子科学技術を含むスピントロニクス分野における共同研究を行っています。

電気通信研究所所属の金井駿准教授は、若手研究者として1年間シカゴ大学に滞在し、Awschalom教授を中心とする研究グループで共同研究活動を推進しました。こうした共同研究により、固体スピン欠陥の研究において既に成果を上げており、共著論文は国際科学誌に掲載(参考資料1)されています。

なお、本アライアンスは、2017年に設立された”Chicago Quantum Exchange (CQE)(注1” モデルに着想を得たものです。
 

本学の量子科学に関する取組

本学は学内に国内最大級の学内クリーンルーム群(総面積8,500m2)及びナノファブリケーション施設を擁し、300mmウェハ対応のプロセスラインを完備する唯一の大学です。本学の「量子ソリューション拠点」は、内閣府「量子未来社会ビジョン」の中で10ある「量子技術イノベーション拠点(注2」のひとつとして認められ、多くの量子科学分野の研究者を擁しており、超伝導量子ビット、半導体量子ビットの研究も進んでいます。周辺技術として、スピントロニクス技術を用いた疑似量子計算や量子技術に必要になる材料、デバイス技術、量子と古典の融合分野も推進しています。

またスピントロニクス国際共同大学院プログラム(参考資料2)を通じて、優秀な人材を育成しているほか、社会の幅広い層に量子技術を啓蒙したいという思いから、高校生以上を対象とした特別な量子技術アウトリーチ・プログラム(参考資料3)等も実施しています。

 

シカゴ大学の量子科学に関する取組

シカゴ大学は、量子基礎研究分野において世界をリードしており、プリツカー分子工学部において、量子工学を中核に、この分野の限界に挑み続けています。東芝が提供する技術を用いた米国最大級の量子通信ネットワーク(全長124マイル(約200km))を運営しているほか、全米に10ある国立量子研究センターの1つであるQuBBE(NSF Quantum Leap Challenge Institute for Quantum Sensing for Biophysics and Bioengineering)を率い、Q-NEXT(Next Generation Quantum Science and Engineering)とHQAN(NSF Quantum Leap Challenge Institute for Hybrid Quantum Architectures and Networks)でパートナーを務め、SQMS(Superconducting Quantum Materials and Systems Center)と提携しています。また、量子スタートアップ支援に特化したDuality(注3では、中心的な役割を担っています。

 

今後の展開

本アライアンス発足を記念して、2023年10月に共同ワークショップを仙台で開催し、更なる連携を加速します。青葉山新キャンパスにおいて社会価値創造を行う共創の場、「サイエンスパーク事業」(整備計画中)での活動を検討中です。シカゴ大学と同じイリノイ州にあるアルゴンヌ国立研究所の放射光施設と、本学青葉山新キャンパスに設置される次世代放射光施設「ナノテラス」は、それぞれ硬X線領域(6GeV)と軟X線領域(3GeV)で見られるものが異なる一方、どちらも産業界の利用が多い施設であり、ナノテラスは日本の産業界が集積することから相乗効果が量子関係も含めて大いに期待されます。

 

【用語説明】
注1.      Chicago Quantum Exchange(CQE):米国を拠点とする知的ハブであり、同分野の研究の推進、量子科学者・技術者の育成、地域および国の量子経済の促進、学術・産業・政府間の橋渡しを目的としています。https://chicagoquantum.org/

注2.      量子技術イノベーション拠点: 国の量子技術イノベーション戦略(2020年1月21日 統合イノベーション戦略推進会議)に基づき、量子技術分野の国際競争力の確保と強化を目的として、2021年2月に発足しました。https://qih.riken.jp/

注3.  Duality: 量子スタートアップ企業の支援に特化した米国初のアクセラレータープログラムで、シカゴを拠点としています。シカゴ大学の起業家教育センターとCQE(注1が主導し、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校、アルゴンヌ国立研究所、P33が設立パートナーとなっています。
https://www.dualityaccelerator.com/

 

【参考資料】
1. 東北大学4月8日プレスリリース「固体中の量子情報の保持時間を記述する法則を発見 ~誰でも短時間で量子ビット材料探索が可能に~」

2. スピントロニクス国際共同大学院プログラム ウェブサイト

3.  量子技術アウトリーチ・プログラム 講義ウェブサイト(一例)

4.  シカゴ大学プレスリリース

 

【問い合わせ先】
国際連携部国際企画課
国際連携コーディネーションチーム
TEL: 022-217-6311
Email: kokusai-k@grp.tohoku.ac.jp