東北大学生活環境早期復旧技術研究センター

センター長あいさつ

平成23年3月11日、東北地方は未曾有の大地震にみまわれました。 この大地震に伴って発生した巨大津波は岩手・宮城・福島の沿岸を襲い、多くの尊い命を奪い去りました。 さらに、この巨大津波に襲われた福島第1原子力発電所が水素爆発し、平成23年3月15日には日本で最初の原子炉事故による広域放射性物質汚染をもたらしました。 放射性物質は福島県を中心に、宮城、群馬、栃木、茨城、千葉まで広範囲に飛散され、これらの地域の家屋、田畑、道路、山川、海を汚染しました。 飛来した主な放射性物質は、ヨウ素131(半減期8日)、セシウム134(半減期2年)、セシウム137(半減期30年)でした。 現在、この広域放射性汚染による外部被曝及び内部被曝が問題になっております。 外部被曝を防ぐには空間線量率を測って危険性を調べるとともに、一刻も早く大地にばらまかれた放射性物質を除去することであります。 また、内部被曝を防ぐには、徹底した食品の汚染検査が不可欠であります。また、野菜・果実等に放射性物質が移行しない農作方法も開発すべきであります。

センター長
長谷川 晃

このような方策に対して、東北大学は、汚染事故の早い時期から、学内はもとより宮城県下の空間線量および降下物の測定、水道水、原乳、葉物野菜、椎茸、筍、海水、土壌の放射能汚染検査を行ってきました (平成23年7月からは福島市においても汚染検査を実施しています)。

土壌中の放射能の分布

さらに東北大学は、汚染土壌の調査と除染方法の研究も被災の初期から行っております。 平成23年4月の初めに、宮城県丸森町筆甫小学校の校庭の土を分析し、放射性物質は地面の薄い表層内に指数関数的に分布していることを付きとめ、この結果に基づいて、平成23年4月26日に、福島市内の三育保育園の園庭を効率よく除染し空間線量率を大幅に下げることができました。

園庭から取り去った高レベルの汚染土壌を水洗浄することで、土壌の放射能が25分の1までに減少でき、放射能のほとんどは泥水中の粘土に含まれ、泥水を静置して得られ上澄液には放射性セシウムは含まれていないことを見出しました。 すなわち、上澄み液は排水できることが分かりました。 一方、沈殿して得られた高レベルの放射性粘土の量は元の汚染土壌の100分の8となり、汚染土壌の減量化が可能であることが分かりました。 この研究結果に基づいて、平成23年の6月下旬から7月上旬にかけて宮城県丸森町筆甫、耕野の小学校と保育園の校庭(トータル約7000m2)を除染し、空間線量率の低下と汚染土壌の減容化を行いました。

現在、我々は、水洗浄によって得られた数100から数10ミクロンサイズの高レベルの放射性粘土をナノサイズレベルまで微小化することにより、放射能の高濃度化を行い、放射線線源として最終的には利用する研究を行っています。

一方、食品の汚染検査については、食品をミンチ状にしてゲルマニウムガンマ線検出器又はNaI検出器で測られているのに対して、平成23年10月には、食品をマルゴト測る検出システム(測定後、料理の食材としてそのまま使える。)を開発し、 福島市(モニタリングセンター)、石巻市(石巻港)においてマルゴト検査を行っています。

マルゴト汚染検査システム(福島市で稼動)

石巻港に設置

このような広域放射性汚染事故に対する空間線量率の測定、食品の汚染検査、土壌の除染は、東北大学の放射線計測、その応用技術に関する長年の研究実績に基づいております。

東北大学は、日本で最初に加速器からのイオンビームを用いた微量元素分析方法(PIXE法)を開発し、癌及びヒトの健康に関する研究、河川の汚染分析、ミクロンサイズの大気浮遊塵の分析および土壌中の元素の植物移行など環境に関する研究を行ってまいりました。 近年では、細胞中の元素分布画像、ミクロンCTなどのマイクロビーム技術の研究も進めております。

ヒトの血液のPIXEスペクトル

河川水のPIXEスペクトル
(砒素が検出されていることが分かる。)

生の細胞中の元素分布

1mmの大きさの蟻の頭のミクロンCT画像

一方、このような分析技術に加えて、人体の健康、特に癌の診断、脳機能の診断を定量的に行えることができる陽電子断層撮影装置(PET)の開発を行ってきました。 これまで下図のような特徴あるPETを開発し、放射線計測の応用技術の粋を極めて参りました。

光の飛行時間(TOF)情報を用いて高品質PET画像を与えるTOFPETを開発(日本で大学独自で最初に開発されたPET)

従来の2次元PETに比べて10倍の感度を持つ3次元PETをスーパーコンピューターの使用により、世界で最初に臨床応用化に行った。

世界で最初の1mmの癌を画像化に成功した実用型超高分解能半導体PET(小動物用PET)を開発した。

これらの技術開発研究に加えて、工学研究科の放射線施設および放射性物質の管理、放射性物質を用いた実験、X線を用いた実験、放射線教育に関して放射線管理責任者として長年に亘って、管理・指導・教育を行ってきている。

この度、特別経費(プロジェクト分) 「放射性物質によって汚染された生活環境の復旧技術の開発」事業(平成24年度~平成33年年度)が認められました。 私たちは、以上の実績を基に、除染技術の研究、放射性セシウムを含まない植物の栽培技術の研究、汚染検査システムの研究を行い、放射能被災地の生活環境を一刻も早く復旧すべく、努力する所存であります。

平成24年12月18日