熱電変換材料を用いた熱電発電は二酸化炭素を排出しないクリーンな発電方法です。
熱電変換材料の研究は古くから盛んに行われているものの、熱電発電の広範な実用化には未だ至っていません。
その原因として、既存の熱電変換材料のエネルギー変換効率が低いこと、毒性を有すること、高コストであることといった問題が挙げられます。
そこで我々はSi系化合物に注目しました。
中でも資源的に豊富な元素であるMn(クラーク数12位)とSi(同2位)から構成されるHigher Manganese Silicide (HMS)は、比較的性能の高いp型の熱電変換材料であり、無毒で低コストかつ1000 Kまで耐酸化性が良好という特徴を備えています。
HMSの結晶構造はNowotny-chimeney-ladder型構造です。
Siサイトが円を描くように大きく変位変調した複雑な構造で、これまでMn4Si7、Mn15Si26、Mn11Si17など様々な組成のHMSsが報告されていました。
我々はこのHMSを、[Mn]部分構造と[Si]部分構造から成る複合結晶で、(3+1)次元の超空間群(I41/amd(00g)00ss)に属すると仮定することで、MnSiγ (γ~1.7)という形で包括的に取り扱うことができることを明らかにしました(右図参照)。
ここで組成比γは[Mn]部分構造と[Si]の部分構造のc軸長比であり、元素置換や合成条件によって変化する無理数であらわされます。
これにより元素置換による系統的な組成最適化が可能となりました。
我々はMnSiγの熱電性能の向上を目的として、元素置換によるキャリア密度の最適化や格子熱伝導率の低減を試みています。
具体的にはアーク溶解法により試料を作製し、X線回折や中性子回折による結晶構造回折、それらの測定結果を用いた電子構造計算、各物性値測定を行って元素置換効果を調査しています。
これまでにp型試料の性能向上やn型試料の創成に成功しており、今後はそれらを用いた熱電デバイスを作製する予定です。
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