研究内容
キーワード達:磁気カイラルメタ分子、カイラルメタ界面、カイラリティトランスファ、
光学活性、磁気光学効果、対称性の破れ、マジックミラー、光のローレンツ力、
人工的ゲージ場、ベリー位相光学、トポロジカルフォトニクス
螺旋階段やネジのようなカイラル構造を持つメタマテリアルについて研究しています。
カイラル構造は、通過する光の左・右円偏光成分のどちらか一方と相互作用します。
これを光学活性と呼びます。
我々はウイルスと金ナノ粒子の複合体を作製し、
光学活性の一種である左・右円偏光の吸収の差(円偏光二色性)を調べました。
ウイルス、および金ナノ粒子の単体では円偏光二色性が現れない可視光領域で、
複合体を用いると円偏光二色性が発現することを明らかにしました。
ウイルスを構成する蛋白質が持つカイラリティと、
金ナノ粒子の局在表面プラズモンによる可視光吸収の「合わせ技」
(カイラリティトランスファなど)により、
可視光領域で円偏光二色性が誘起されたと考えられます。
我々はこの複合体を、カイラルメタ分子と呼んでいます。
[32]
またウイルスをカイラル構造を持つ低分子(例えばグルコース(ブドウ糖))に置き換え、
金ナノ粒子を色素(例えばローダミン)に置き換え、両者を混合した膜でも、
色素の吸収波長域で円偏光二色性が誘起されることを明らかにしました。
すなわちプラズモンが本質ではなく、吸収があれば良いことがわかりました。
よってこの現象を吸収誘起円偏光二色性と呼びます。
[P13]
カイラル分子と色素の二層膜でも、吸収誘起円偏光二色性は観測されました。
そして大変興味深いことに、二層膜に対して光を表から入れた場合と、裏から入れた場合で、
円偏光二色性の楕円率の極性が反転することを見出しました。
これは通常の光学活性ではあり得ません。
むしろ、磁場や磁化が無いにも関わらず、磁性体の磁気光学効果の非相反性と良く似ています。
我々はこのような二層膜をカイラルメタ界面と呼び、
光と電子の類似性(アナロジー)やBerry(ベリー)位相理論を用いて、そこでの物理を理解し、
低次元のメタ界面を用いた新しい機能発現に繋げるべく研究を進めています。
[33]
更に、磁石であるフェライト棒の周りに銅線をカイラルに巻き付けた構造
―光学活性と磁気光学効果を併せ持つ磁気カイラルメタ分子―
を作製しました。
そして弱い直流磁場を加えることで空間反転対称性と時間反転対称性を同時に破りました。
すると光の進行方向に依存して、例えば表から見た場合と裏から見た場合で、
屈折率が異なる磁気カイラル効果を、マイクロ波領域で直接観測することに我々は成功しました
[35]。
これまでの天然のカイラル分子を用いた実験結果と比較すると、
表裏での屈折率の差は数桁も大きなものでした。
これら実験結果は数値計算で上手く再現できました。
それのみならず、メタ分子での共鳴をうまく組み合わせることで、
巨大な磁気カイラル効果が発現することを数値計算は予言しました
[37]。
またマイクロ波よりも高周波での磁気カイラル効果の実現を目指して、
応力誘起自己巻き上げ法というユニークな手法を用いて、
ミクロンサイズの磁気カイラルメタ分子を自己組織的に作製しました
[36]。
そして単一メタ分子のマイクロ波分光で、磁気共鳴や非相反性を調べました
[44]。
このようなメタマテリアルは、「マジックミラー」、
光に対する「ローレンツ力」、更には「光にとっての”磁場”」(人工的ゲージ場)
の実現を可能にします
[39]。
本研究で得られた成果はメタマテリアルのみならず、光学、マルチフェロイック現象などの
幅広い物理を進展させ、メタ固体物理学を開拓するさきがけとなると期待されます
[41]。
このように「役割分担」により光を「錯覚」させることができるメタ分子やメタ界面は、
新しいタイプのメタマテリアルとして今後の発展が大いに期待されます。
[42]
このテーマでのレヴュー論文:
[42]
1. 磁気カイラルメタマテリアルからメタ固体物理学へ
このテーマに関連する論文:
[44],
[41],
[39],
[37],
[36],
[35],
[33],
[P13],
[32],
[P11]
[日本語での解説文 PDF](電気学会2017年6月号解説記事)
キーワード達:金属・絶縁体多層膜、MIM構造、フィボナッチ数列、
表面プラズモン、光の共鳴トンネル、ハイパーレンズ、量子真空効果
光の波長よりも十分薄い金属と絶縁体の薄膜を交互に重ねた金属・絶縁体(MI)多層膜での、 光の共鳴輸送(共鳴トランスポート)を研究しています。
MI多層薄膜は双曲線(ハイパーボリック)型の等位相曲線(波数空間での分散曲線)を持つことから、 ハイパーボリックメタマテリアルとも呼ばれます。 このようなメタマテリアルは、 金属層の表面での表面プラズモンポラリトン(SPP)の結合を用いて、 エヴァネッセント光 ―波数が大きくサブ波長の情報を含むにも関わらず、急速に減衰するため通常は伝搬できない光― を遠くまで運ぶことができます。 これは回折限界を打ち破るスーパーレンズ効果の微視的なメカニズムです。 このような現象は、電子とのアナロジーから、光の共鳴トンネルと呼べます。 [21]
SPPをサポートする金属・絶縁体・金属(MIM)構造で、 金属にサンドイッチされたI層の膜厚を増加させることで、 SPPの干渉によって起こる波数の小さな導波モードの光が、 波数が大きなエヴァネッセント光に変換されることを見出しました。 これを逆に用いれば、 エヴァネッセント光を伝搬光に変換できる新しい原理のレンズ(ハイパーレンズ)が実現できるかもしれません。 [26]
これまでは周期系を扱ってきましたが、 最近は準周期的に金属と絶縁体を交互に積層させたハイパーボリックメタマテリアルを用いて、 光と物質の相互作用を増強することに成功しました。 我々はフィボナッチ数列 ―ウサギの増え方や黄金比などに潜んでいる数字の列― に対応する順番で積層した銀とシリカの多層膜(フィボナッチ多層膜メタマテリアル)を用いると、 表面に載せた量子ドットからの発光の寿命が短くなることを実験的に確認しました。 自己相似的な準周期に起因するこれらの結果は、メタマテリアルを用いた光の状態密度や発光寿命の制御を可能にし、 メタマテリアルを広い意味での「環境」として扱う研究へと展開できると期待されます。 [34]
ハイパーボリックメタマテリアルと光の相互作用の研究は、 光の回折限界を打ち破るスーパーレンズ効果・ハイパーレンズ効果の更なる高分解能化に貢献でき、 更に輻射場制御やカシミール斥力などを実現する量子メタマテリアルへの道を拓くと期待されます。
関連論文番号: [34] [26], [P10], [21]
キーワード達:強磁性金属ナノ粒子、左手系、負の屈折率、磁気共鳴、スピン波、スピンエレクトロニクス
物質の電磁気応答を決定する誘電率と透磁率が共に負となる人工構造物質は、 左手系メタマテリアル(Left-Handed Meta-Materials; LHMMs)と呼ばれます。 本研究では、強磁性体での磁気共鳴(スピン波共鳴)を用いLHMMsを実現することを目指しています。
特に、強磁性金属ナノ粒子が埋め込まれた強磁性金属ナノコンポジットを用いて、 LHMMsを実現することに実験・数値計算の両面から取り組んでいます。 このようなLHMMsは外部磁場により、左手系として振舞う周波数をチューニングできたり、 左手系を「オフ」できたりするというユニークな性質を持つと考えられます。
本研究の成果は、物質の電磁気応答における従来の既成概念を打ち破るブレイクスルーとなり、 将来的な光ディスクの超高密度化等に繋がる基盤技術へと発展すると期待されます。 またスピンエレクトロニクスとの融合という、メタマテリアルの新しい可能性も追求しています。
関連論文番号:
[31],
[29],
[24],
[19],
[15],
[13]
[より詳しい研究内容へ]
[研究内容説明スライド PDF]
4. 新しい磁気光学効果
キーワード達:貴金属ナノ粒子、磁性ガーネット、局在表面プラズモン、磁気光学効果、スピン軌道相互作用
金や銀など貴金属のナノ構造では、自由電子の集団振動が可視光と結合し、
局在表面プラズモン(LSP)という特異な電磁気モードが励起されます。
LSPはナノ構造近傍に発生する光近接場を伴います。
この光近接場と、磁性体の電子状態が相互作用することで、磁性体のもつ磁気特性を変化させることができると期待されます。
我々は金ナノ粒子を埋め込むことで、絶縁体の磁性体である磁性ガーネットの磁気光学効果を変化させることに成功しました。
このような現象は、近年、プラズモニック磁気光学効果として注目を集めています。
このような系は、新しいオプトマグネティズム(光磁気効果)として、光と磁気の新しい物理への展開が期待されます。
5. ナノ構造制御
キーワード達:3次元メタマテリアル、ナノコンポジット、体積充填率、生体超分子、ウイルス、人工カプシド、
遺伝子デリバリ
構造制御可能なナノ構造の、新規な作製方法の開発に取り組んでいます。
均一なサイズの金属ナノ粒子が一様に分散した系を、金属ナノコンポジットと呼びます。
(場合によっては、金属ナノグラニュラーと呼ばれたりもします。)
これまでに我々はコンポジットメタマテリアルを見据えて、主に高分子マトリクスを用いた系で、
コンポジット中のナノ粒子のサイズと密度(体積充填率)を自在に制御可能な手法を実現しました。
[14,
15,
18,
20]
またコンポジットのみならず、光の領域でメタ原子・分子として機能する金属ナノ構造の作製にも力を注いでいます。
特に、タンパク質など生体超分子の助けを借りて貴金属ナノ構造を作製し、
可視光の領域での3次元メタマテリアルを実現することを目的として、研究を進めました。
さらに遺伝子改変した変異体リング状蛋白質と金ナノ粒子を混合するだけで、
サイズが均一な球形の蛋白質カプセル(人工カプシド)が形成されることを見出しました。
この結果は、薬剤や遺伝子のデリバリ技術に活用できると期待されるのみならず、
ウイルスの進化との関連で大変興味深いと感じています。
[30]
本研究の成果は、用途に応じて組成・構造がチューンナップできるテーラーメイドナノコンポジットや、
それを用いたメタマテリアルの実現に繋がると考えています。
関連論文番号:
[30],
[20],
[18],
[15],
[14],
[13],
[7],
[6],
[4],
[3],
[2]
6. カーボンナノオニオン
キーワード達:炭素ナノ粒子、フラーレン、ダイアモンドナノ粒子、
217.5nm光吸収、星間塵、太陽電池
新規なフラーレン系炭素ナノ粒子であるCarbon Nano-Onion(カーボンナノオニオン)についての研究を行ってきました。
我々は直径数nmのダイアモンドナノ粒子を熱処理し、カーボンナノオニオンを大量合成しました。
そしてカーボンナノオニオンの構造と電子状態の関係について調べました。
その結果、球状のナノオニオンは、従来考えられてきた完全な球殻構造でなく、
むしろsp2結合とsp3結合が混在した構造欠陥を持つという
「欠陥球状モデル」を提案しました。
またカーボンナノオニオンの光物性、特に紫外・可視領域での光吸収について、
実験・理論の両面から研究を行いました。その結果、ダイアモンドコアを持つ欠陥球状オニオンが、
星間塵による波長217.5nmの減光ピークを示すことが明らかになりました。
このような研究は固体物理のみならず、天文学・宇宙物理学の分野においても、
大変興味深いと考えています。
関連論文番号:
[43],
[28],
[P8],
[12],
[11],
[8],
[5],
[4],
[1]
最近は、オニオンライクカーボンの太陽電池などへのデバイス応用も研究をしています。
[研究内容説明スライド PDF]