研究内容

光操作技術の新展開:メタマテリアル・生物模倣ナノ光学素子と微小機械の融合

メタマテリアルは入射波長よりも小さなサブ波長構造を単位素子とした人工光学材料で、負の屈折率や巨大群屈折率など自然界に存在しない様々な光学応答を実現できることが知られ、これまでにない新たな光操作技術を可能とします。本研究室では、微細加工技術を駆使したメタマテリアルの製作技術、微小機械により変形して光学特性の変わる可変メタマテリアル、メタマテリアル応用デバイスの研究開発を行っています。また、生物の持つ構造や機能を模倣し工学的に応用する生物模倣技術(バイオミメティクス)を応用した高効率なナノ光学素子の開発とデバイス応用を行っています。また、超低損失なナノ・マイクロ光デバイスを実現するために、水素雰囲気アニールにおける表面原子の自己拡散を利用したシリコン表面の新しいナノ加工・平滑化技術の開発を行っています。


超高感度センシング技術の創出:観測すらできなかったことを計測できるように

微細加工技術で作製したマイクロセンサを開発して,既存技術では観測すらできなかったことを計測できるようにする工学や技術に関する研究を行っています.マイクロセンサは0.1mm(=髪の毛の直径)以下のサイズの非常に小さいセンサで,小さいからこそ微小な物理量変化を捉えることができます.機械・電気・光を駆使して,生体分子・細胞・ヒトを測るヒューマンセンシング,それらを接続・仲介するマン-マシンインターフェースを実現します.
生体の計測・分析技術」「メタマテリアル」「センサ性能の向上」「新原理センサの開発に大別して,代表例を紹介します.


6G通信向け電波制御材料 安価に大量生産 - 世界初 部材として供給可能な三次元バルクメタマテリアルを開発 - 

概要

当研究室では、テラヘルツ(THz)波を制御するための、自由な形状に形成可能かつ任意の屈折率を有する三次元バルクメタマテリアルを安価で大量に部材として提供可能な製造技術の開発に、世界で初めて成功した。今回開発したメタマテリアルは固体の粉末材料として供給可能なため、金型成形や切削加工などの機械加工により、ユーザーがメタマテリアルを自由に二次加工してTHz光学素子を実現することができる。

性能・特徴等

三次元バルクメタマテリアルの概念図
メタマテリアル内包粉末
三次元バルクメタマテリアル  (a) 外観写真(b) 拡大写真

メタマテリアルが内包された樹脂製粉末を液状樹脂に攪拌し、型を用いて凝固させることで、任意形状かつメタマテリアルの設計に応じた屈折率特性を持つ光学物質(三次元バルクメタマテリアル)の製作が可能になる。透明樹脂中にメタマテリアル単位構造が三次元的に方向依存なく分散された構造であるため、偏光依存性が解消され、等方的な光学特性が実現される。

応用例

6Gの通信技術をはじめ、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での応用が期待される。

論文情報

Nanophotonics,vol11,No.9, (2022) pp 2065–2074.

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次世代通信「6G」向け電波偏向制御技術を開発 - 新しい透過型メタマテリアルでテラヘルツ波の伝播方向を広角に制御 - 

概要

移動通信システム5Gの次の世代「6G」で利用が明示されているテラヘルツ(THz)波は、障害物に遮蔽されやすく、その進行方向を制御して遮蔽エリアに信号を届ける技術が求められている。当研究室では、THz波の伝播方向を広角制御できる透過型偏向器を開発し、6G通信で利用される周波数帯域(0.3~0.5THz)で、世界で初めて74°の広角な偏向走査を実現した。

性能・特徴等

開発した透過型偏向器の利用イメージ 製作した透過型メタマテリアルの
光学顕微鏡写真
偏向角度特性(計測値)

低損失誘電体のシリコン製のサブ波長構造で構成される透過型メタマテリアルによる実効屈折率分布制御に基づくテラヘルツ波偏向器。0.3~0.5 THzの周波数帯において34~74°の偏向走査を実現し、テラヘルツ波の広角の走査と高い電力効率の実現に成功

応用例

これまで開発されてきた反射型偏向器と組み合わせて利用することで、6G通信における電波障害エリアの縮小が期待される。

論文情報

Optics Express, Vol. 31, No. 17, (2023) pp. 27147-27160.

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「生物模倣ナノ光学素子~構造色利用カラーフィルタ、ナノ格子無反射構造(蛾の眼構造)~」

クジャクの鮮やかな羽根の色はナノ格子が発生する構造色によるものです。本構造を模倣したのが構造色利用カラーフィルタで、多彩な発色を可能としました。蛾の眼にはナノ格子無反射構造が形成されています。この構造を模倣し、シリコンの反射率を百分の一に低減したり、発光ダイオードの光取り出し効率を60% 程度向上しました。ナノインプリントによる安価な製造技術も開発しました。


図:ナノ格子無反射構造(蛾の眼構造)

図:構造色利用カラーフィルタ

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「メタマテリアル:電磁波の自在制御を目指して」

メタマテリアルは構造性人工光学材料であり、そのユニークな電磁波モードは構造に依存するため、自然界に存在する物質が本来示さない革新的な光機能や目的に応じた電磁波制御を構造により可能とします。疑似電磁誘起透明化やFano 共鳴を発現するメタマテリアル、メタマテリアル吸収体、光電素子一体化メタマテリアルによるセンサ、機械式可変メタマテリアルを開発しました。

図:疑似電磁誘起透明化光メタマテリアル

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「微小機械による光の動的制御 ~可動フォトニック結晶・可動メタマテリアル~」

フォトニック結晶は光波長程度の微細周期構造で、光を遮断・閉じ込める機能を持ちます。マイクロアクチュエータでフォトニック結晶を高精度に位置制御することで、フォトニック結晶ナノ光共振器の光結合効率を制御する波長選択フィルタや光遮断特性を制御する反射率可変フィルタを開発しました。また、構造可変電磁誘起透明化メタマテリアルを製作しTHz 波の透過率制御に成功しました。

図:光通信用スイッチングアドドロップフィルタ 図:光通信用反射率可変フィルタ

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「シリコン表面の新しいナノ加工・平滑化技術の開発」

ドライエッチングされたシリコンの加工面は荒れており、デバイスの特性劣化や光学損失の原因となります。高温水素雰囲気中におけるシリコン表面原子の自己拡散による構造変形を超精密制御するナノ加工技術を開発しました。超低損失なナノ・マイクロ光デバイスや機械強度の優れたシリコン微小機械部品を実現します。基板表面だけでなく立体構造への超平滑化処理が可能です。

なお、本技術は金森研究室・坂口電熱・産総研との共同開発により、ミニマルレーザ水素アニール装置として装置化・製品化されました。
平成30年度 戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)採択。
関連サイト: http://sakaguchi-dennetsu.co.jp/lineup/exlaser/

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「生体の計測・分析技術」(猪股研)

マイクロサーミスタを用いた単一細胞の熱物性計測

背景:従来の光学的手法では達成できなかった温度分解能と時間分解能で熱物性の精密な計測を実現.
成果:周辺環境温度や加熱時間によって細胞自身が熱伝導率と比熱を変化させることを解明.

センサ上のCOS7細胞(左)と細胞の過熱イメージ (右) 単一細胞の熱伝導率と計測条件 単一細胞の比熱と計測条件

関連文献
Lab Chip, 23, 2411-2420 (2023)
Sensing and Bio-Sensing Research, 27, 100309 (2020)
東北大学プレスリリース,細胞1個の熱伝導率や比熱を精密に測定できる新技術を開発

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「メタマテリアル」(猪股研)

フォノニックメタマテリアルを用いた結晶格子の機械振動伝搬制御

背景:機械共振センサの性能を向上するには振動エネルギーの制御が重要 (例えば,高感度にしたい場合は振動エネルギーを逃がさず,応答を早くした場合は早くエネルギーを逃がす).
成果:伸ばして周期を変えることができる微小構造 (可変フォノニックメタマテリアル) を用いて,振動エネルギーを貯めたり逃がしたりすることをシリコン(Si:マイクロシステムでは主要な材料)で初めて実現.

作製したSiフォノニックメタマテリアル
( 中央は評価に用いた機械振動子)
類似パターンにおける振動エネルギ(Q値)の違い 伸ばした際の振動エネルギの違い

関連文献
Scientific Reports, 12, 392 (2022)

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「センサ性能の向上」(猪股研)

超高分解能機械共振温度センサ(液体試料仕様)

背景:高感度が特徴である機械共振センサは液中では本来の性能を発揮できないが,細胞は液中でないと生きられないというジレンマ.
成果:マイクロ流体チップ内で真空環境と液体環境の共存を実現し,79µ℃の温度分解能を達成(世界最高値).単一細胞の独特な温度上昇を初観測.

作製したデバイス(下)と熱の流れ(上)
温度を変えた際の周波数変化
(従来の86倍の感度を達成)
デバイスを用いた単一細胞の温度計測
(急峻な温度上昇を定期的に観測)

関連文献
Lab Chip, 23, 2411-2420 (2023)
Appl. Phys. Lett. 100, 154104 (2012)


液体熱電対

背景:既存の固定熱電材料よりもイオン液体熱電材料の方が性能はよい.熱電対は異種材料を接触させる必要があるが,液体同士の接触は界面を維持できない.
成果:マイクロ流体チップを用いて異種イオン液体を電気的に接触させることで液体熱電対を実現.その性能は従来の個体熱電対の性能の10倍以上.

マイクロ流体チップによる原理実証のイメージ図 イオン液体を用いた熱電対 温度変化に対する出力変化

関連文献
IEEE Sensors Letters , 3(5), 2501304 (2019)

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「新原理センサの開発」(猪股研)

反磁性体の磁気浮上を用いた完全非接触温度センサ

背景:温度センサの性能を向上するには熱の逃げを防ぐことが重要.しかし,既存のセンサは配線などから熱が逃げる.
成果:反磁性体のグラファイトを温度センサとして用いてセンサ部を浮かせることで完全非接触を実現.



グラファイトを用いた磁気浮上温度センサ
ポリスチレンを用いた示差熱分析:
市販の装置(上)と本センサ(下)

関連文献
IEEJ TRANSACTIONS ON ELECTRICAL AND ELECTRONIC ENGINEERING, 15(5), 773-774 (2020)

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