屈折率特性が向上した6G通信向けメタマテリアルの開発 - 微細な二層リング共振器を等方的に分散 -
概要
6G通信向け電波制御材料の研究を行っており、二層スプリットリング共振器を固体のアモルファス構造を規範として三次元的に不規則配置することで、以前の研究よりも高屈折率・高分散性をもつ三次元バルクメタマテリアルを開発した。この三次元バルクメタマテリアルを用いて波長に応じて異なる角度で屈折するプリズムを作ることができ、テラヘルツ(THz)波を波長ごとに分ける分光器の実現が期待される。
性能・特徴等
三次元バルクメタマテリアル |
三次元バルクメタマテリアルの応用例 |
透明樹脂中にメタマテリアル単位構造が三次元的に方向依存なく分散された構造であるため、偏光依存性が解消され、等方的な光学特性が実現される。
周波数0.34 THz 付近で屈折率が1 THzあたり2.314変化する。この屈折率変化率はメタマテリアル粉体の密度により変化させることができ、三次元バルクメタマテリアルの光学特性を制御できる。
応用例
6G通信をはじめ、様々なTHz波応用分野における波長抽出やスペクトル解析に応用されることが期待される。等方的な光学特性により、汎用性の高いレンズ・プリズムの実現が期待される。
論文情報
Advanced Science, No. 2405378 (2024).
チューナブル波長選択フィルタの波長を校正する技術を開発
概要
可変エアギャップを持つチューナブル波長選択フィルタを用いた超小型ハイパースペクトルイメージャの実現が期待されている。従来、可変エアギャップの間隔を正確に測定することが困難であった。本研究では膜厚傾斜波長選択フィルタとイメージセンサを組み合わせて可変エアギャップの間隔を測定し、チューナブル波長選択フィルタの波長を校正する技術を開発した。
性能・特徴等
光学原理のコンセプト |
膜厚傾斜光フィルタとチューナブル波長選択 フィルタの透明媒質の厚さと透過波長の関係 |
Ag 合金膜をもつ SiO₂の上部基板と、上面にAg 合金膜、底面の一部に膜厚傾斜光フィルタをもつ SiO₂の下部基板の間には可変エアギャップを持つ。上部から入射した光は、大部分がチューナブル波長選択フィルタのみを通過して波長選択されイメージセンサに到達するが、一部は膜厚傾斜光フィルタも通過する。この範囲において光がイメージセンサに到達するのは、波長選択フィルタと膜厚傾斜光フィルタの透過帯域が重なる位置のみである。両フィルタを透過した光の強度が最大値をとるとき、両フィルタの透過ピーク波長は一致し、イメージセンサの信号強度のピークの画素位置より波長選択フィルタのエアギャップの大きさを検知する。
応用例
本技術によりスペクトルイメージャや分光器の小型化が容易になり、携帯機器での使用が可能になる。その他、光学式加速度センサや狭ギャップセンサなどへの応用が期待される。
論文情報
AIP Advances, Vol.14, Issue 7,(2024) 075006
6G通信向け周波数チューナブルフィルタを開発 - 環境やセキュリティなどテラヘルツ波を使う様々な産業分野での活用にも期待 -
概要
6G通信では0.3THz近傍の周波数帯の電波が用いられることが想定されており、不要な周波数の電波を除去して特定周波数の電波を通過させるフィルタが必要となる。当研究室では、機械式の屈折率可変メタマテリアルをファブリペロー共振器内に搭載した周波数チューナブルフィルタを実現し、6Gに向けた新たなチューナブル・テラヘルツ(THz)波制御技術の開発に成功した。
性能・特徴等
開発したチューナブルフィルタの 断面模式図 |
機械式屈折率可変メタマテリアルの模式図 |
周期制御による屈折率と周波数のチューニング |
周波数チューナブルフィルタに入射した電波は、不要な周波数の電波が除去されて、必要な周波数の電波のみ透過する。伸縮機構を備えた機械式屈折率可変メタマテリアルを機械的に変形させることで透過周波数をチューニングする。100~150μmの周期変化に応じて、メタマテリアルのピーク周波数を0.303~0.320THzの範囲で制御可能。
応用例
THz波を利用したスキャニングやイメージングへの応用展開が期待でき、6G通信のみならず、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での活用が期待される。
論文情報
Optics Letters, Vol. 49, Issue 4, (2024) pp. 951-954.
次世代通信「6G」向け電波偏向制御技術を開発 - 新しい透過型メタマテリアルでテラヘルツ波の伝播方向を広角に制御 -
概要
移動通信システム5Gの次の世代「6G」で利用が明示されているテラヘルツ(THz)波は、障害物に遮蔽されやすく、その進行方向を制御して遮蔽エリアに信号を届ける技術が求められている。当研究室では、THz波の伝播方向を広角制御できる透過型偏向器を開発し、6G通信で利用される周波数帯域(0.3~0.5THz)で、世界で初めて74°の広角な偏向走査を実現した。
性能・特徴等
開発した透過型偏向器の利用イメージ | 製作した透過型メタマテリアルの 光学顕微鏡写真 |
偏向角度特性(計測値) |
低損失誘電体のシリコン製のサブ波長構造で構成される透過型メタマテリアルによる実効屈折率分布制御に基づくテラヘルツ波偏向器。0.3~0.5 THzの周波数帯において34~74°の偏向走査を実現し、テラヘルツ波の広角の走査と高い電力効率の実現に成功
応用例
これまで開発されてきた反射型偏向器と組み合わせて利用することで、6G通信における電波障害エリアの縮小が期待される。
論文情報
Optics Express, Vol. 31, No. 17, (2023) pp. 27147-27160.
遮熱効果と5G/6G用電波の透過を兼ね備える透明な窓を開発 - 猛暑での室内や車内でエアコンの消費電力削減に期待 -
概要
従来の遮熱ガラスは5G/6G通信帯の電波を遮断するため、無線でのスマホやパソコンの利用に影響が出るという課題があった。当研究室では、ナノ周期構造で構成されるアルミ製遮熱メタマテリアルを開発し、ガラス等の窓表面に形成することで、熱となる近赤外波長は反射するが5G/6G通信帯の電波と可視波長は透過する、透明な遮熱窓の基材を開発した。
性能・特徴等
開発した透明遮熱窓の利用イメージ |
遮熱メタマテリアルの単位構造の 原子間力顕微鏡写真 |
遮熱メタマテリアル越しに撮影した風景写真 |
・大気の温度を高める近赤外の電磁波(約273THz)を80%以上遮断
・5G通信帯(28 GHz帯)/6G通信帯(0.2~0.3THz)の電波と可視光を透過する。
応用例
建材・自動車用遮熱窓への応用により、室内や車内での熱中症の発症や夏季の電力需給の逼迫などの社会課題の解決が期待される。
論文情報
Applied Optics, Vol.62, No.28, (2023) pp. 7411-7419.
6G通信向け電波制御材料 安価に大量生産 - 世界初 部材として供給可能な三次元バルクメタマテリアルを開発 -
概要
当研究室では、テラヘルツ(THz)波を制御するための、自由な形状に形成可能かつ任意の屈折率を有する三次元バルクメタマテリアルを安価で大量に部材として提供可能な製造技術の開発に、世界で初めて成功した。今回開発したメタマテリアルは固体の粉末材料として供給可能なため、金型成形や切削加工などの機械加工により、ユーザーがメタマテリアルを自由に二次加工してTHz光学素子を実現することができる。
性能・特徴等
三次元バルクメタマテリアルの概念図 |
メタマテリアル内包粉末 |
三次元バルクメタマテリアル (a) 外観写真(b) 拡大写真 |
メタマテリアルが内包された樹脂製粉末を液状樹脂に攪拌し、型を用いて凝固させることで、任意形状かつメタマテリアルの設計に応じた屈折率特性を持つ光学物質(三次元バルクメタマテリアル)の製作が可能になる。透明樹脂中にメタマテリアル単位構造が三次元的に方向依存なく分散された構造であるため、偏光依存性が解消され、等方的な光学特性が実現される。
応用例
6Gの通信技術をはじめ、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での応用が期待される。
論文情報
Nanophotonics,vol11,No.9, (2022) pp 2065–2074.
6G次世代通信に向けたTHz波の高度な制御技術 - THz波の透過性と位相を変えられるメタマテリアルを開発 -
概要
調整可能なテラヘルツ(THz)波用フィルターは大型・高価なものが多く、小型・安価かつ高度にTHz波制御するチューナブル・フィルターの実現が課題であった。本研究では、メタマテリアルの電磁誘起透明化現象を微小機械で自在に制御する技術を開発し、電圧でTHz波の透過率や位相を制御することができるチューナブル・フィルターを実現した。
性能・特徴等
応用例
電子回路や半導体と組み合わせTHz波の高度な制御が可能になる。次世代通信技術「6G」をはじめ、幅広い分野での応用が期待される。
論文情報
Scientific Reports,Vol.10, (2020) 20807.
ナノアンテナで発光波長の精密制御 - 低損失な光メタマテリアルで可能に -
概要
量子ドットは新しい発光物質として注目されており、光源として実用化するために精密な発光制御技術の確立が切望されてきた。近年、自然界の物質には無い光学特性を実現できる新たな人工光学物質として注目されるメタマテリアルは、光学損失が大きいことが問題であった。当研究室では、人工光学物質メタマテリアルと量子ドットを組み合わせることで、低損失で発光波長の精密制御を可能にするナノアンテナの開発に成功した。
性能・特徴等
ADBメタマテリアル |
ADBメタマテリアル上に配置された量子ドット |
製作したADBメタマテリアルの上面電子顕微鏡像 |
長さの異なる2本の平行な金の棒構造で形成される Asymmetric Double Bar(ADB)メタマテリアル上に、量子ドットをポリマー薄膜中に分散させて配置する。光学特性はADBメタマテリアルの形状で制御することができ、今回、10nmの精度で寸法制御されたADBメタマテリアルを発光中心波長1366nmの量子ドットと組み合わせ、1350~1376nmの範囲で発光中心波長を精密制御することに成功した。
応用例
ディスプレイ、量子情報通信用単一光子源、生化学バイオマーカーなどへの応用や、光領域における負の屈折率、透明マント(クローキング)、完全レンズの実用化に向けて重要な技術になると期待される。
論文情報
Scientific Reports, Vol.6, (2016) 33208
ナノ格子反射防止表面、光ファイバー先端に形成 - ナノインプリント技術で安く製作 -
概要
光通信等に使われている光ファイバーの先端には、光部品との接続損失を減らすために反射防止膜が形成されている。従来の反射防止膜は、真空装置を使って薄膜を付けるために、コストが高くなることが課題として挙げられていた。当研究室では、専用のナノインプリント装置を開発し、微小な窪みが多数形成された反射防止構造体を安価に光ファイバーの先端に製作する技術を実現した。この技術は従来の反射防止膜よりも設計の自由度が高く、要求に合わせた種々の反射防止表面の製作を可能にする。
性能・特徴等
応用例
光通信システム、光センサ、ロボット用光配線、自動車用光配線、バイオ用光ファイバープローブ、光ファイバーエネルギー伝送、光ファイバー採光システム、レーザー加工等への応用に期待される。
論文情報
Optics Express, Vol. 21,Issue 1, (2013) pp. 322-328.
「生物模倣ナノ光学素子~構造色利用カラーフィルタ、ナノ格子無反射構造(蛾の眼構造)~」
クジャクの鮮やかな羽根の色はナノ格子が発生する構造色によるものです。本構造を模倣したのが構造色利用カラーフィルタで、多彩な発色を可能としました。蛾の眼にはナノ格子無反射構造が形成されています。この構造を模倣し、シリコンの反射率を百分の一に低減したり、発光ダイオードの光取り出し効率を60% 程度向上しました。ナノインプリントによる安価な製造技術も開発しました。
図:ナノ格子無反射構造(蛾の眼構造) |
図:構造色利用カラーフィルタ |
「メタマテリアル:電磁波の自在制御を目指して」
メタマテリアルは構造性人工光学材料であり、そのユニークな電磁波モードは構造に依存するため、自然界に存在する物質が本来示さない革新的な光機能や目的に応じた電磁波制御を構造により可能とします。疑似電磁誘起透明化やFano 共鳴を発現するメタマテリアル、メタマテリアル吸収体、光電素子一体化メタマテリアルによるセンサ、機械式可変メタマテリアルを開発しました。
図:疑似電磁誘起透明化光メタマテリアル |
「微小機械による光の動的制御 ~可動フォトニック結晶・可動メタマテリアル~」
フォトニック結晶は光波長程度の微細周期構造で、光を遮断・閉じ込める機能を持ちます。マイクロアクチュエータでフォトニック結晶を高精度に位置制御することで、フォトニック結晶ナノ光共振器の光結合効率を制御する波長選択フィルタや光遮断特性を制御する反射率可変フィルタを開発しました。また、構造可変電磁誘起透明化メタマテリアルを製作しTHz 波の透過率制御に成功しました。
図:光通信用スイッチングアドドロップフィルタ | 図:光通信用反射率可変フィルタ |
「シリコン表面の新しいナノ加工・平滑化技術の開発」
ドライエッチングされたシリコンの加工面は荒れており、デバイスの特性劣化や光学損失の原因となります。高温水素雰囲気中におけるシリコン表面原子の自己拡散による構造変形を超精密制御するナノ加工技術を開発しました。超低損失なナノ・マイクロ光デバイスや機械強度の優れたシリコン微小機械部品を実現します。基板表面だけでなく立体構造への超平滑化処理が可能です。
なお、本技術は金森研究室・坂口電熱・産総研との共同開発により、ミニマルレーザ水素アニール装置として装置化・製品化されました。
平成30年度 戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)採択。
関連サイト: http://sakaguchi-dennetsu.co.jp/lineup/exlaser/
「生体の計測・分析技術」(猪股研)
マイクロサーミスタを用いた単一細胞の熱物性計測
背景:従来の光学的手法では達成できなかった温度分解能と時間分解能で熱物性の精密な計測を実現.
成果:周辺環境温度や加熱時間によって細胞自身が熱伝導率と比熱を変化させることを解明.
センサ上のCOS7細胞(左)と細胞の過熱イメージ (右) | 単一細胞の熱伝導率と計測条件 | 単一細胞の比熱と計測条件 |
関連文献
Lab Chip, 23, 2411-2420 (2023)
Sensing and Bio-Sensing Research, 27, 100309 (2020)
東北大学プレスリリース,細胞1個の熱伝導率や比熱を精密に測定できる新技術を開発
「メタマテリアル」(猪股研)
フォノニックメタマテリアルを用いた結晶格子の機械振動伝搬制御
背景:機械共振センサの性能を向上するには振動エネルギーの制御が重要 (例えば,高感度にしたい場合は振動エネルギーを逃がさず,応答を早くした場合は早くエネルギーを逃がす).
成果:伸ばして周期を変えることができる微小構造 (可変フォノニックメタマテリアル) を用いて,振動エネルギーを貯めたり逃がしたりすることをシリコン(Si:マイクロシステムでは主要な材料)で初めて実現.
作製したSiフォノニックメタマテリアル ( 中央は評価に用いた機械振動子) |
類似パターンにおける振動エネルギ(Q値)の違い | 伸ばした際の振動エネルギの違い |
関連文献
Scientific Reports, 12, 392 (2022)
「センサ性能の向上」(猪股研)
超高分解能機械共振温度センサ(液体試料仕様)
背景:高感度が特徴である機械共振センサは液中では本来の性能を発揮できないが,細胞は液中でないと生きられないというジレンマ.
成果:マイクロ流体チップ内で真空環境と液体環境の共存を実現し,79µ℃の温度分解能を達成(世界最高値).単一細胞の独特な温度上昇を初観測.
作製したデバイス(下)と熱の流れ(上) | 温度を変えた際の周波数変化 (従来の86倍の感度を達成) |
デバイスを用いた単一細胞の温度計測 (急峻な温度上昇を定期的に観測) |
関連文献
Lab Chip, 23, 2411-2420 (2023)
Appl. Phys. Lett. 100, 154104 (2012)
液体熱電対
背景:既存の固定熱電材料よりもイオン液体熱電材料の方が性能はよい.熱電対は異種材料を接触させる必要があるが,液体同士の接触は界面を維持できない.
成果:マイクロ流体チップを用いて異種イオン液体を電気的に接触させることで液体熱電対を実現.その性能は従来の個体熱電対の性能の10倍以上.
マイクロ流体チップによる原理実証のイメージ図 | イオン液体を用いた熱電対 | 温度変化に対する出力変化 |
関連文献
IEEE Sensors Letters , 3(5), 2501304 (2019)
「新原理センサの開発」(猪股研)
反磁性体の磁気浮上を用いた完全非接触温度センサ
背景:温度センサの性能を向上するには熱の逃げを防ぐことが重要.しかし,既存のセンサは配線などから熱が逃げる.
成果:反磁性体のグラファイトを温度センサとして用いてセンサ部を浮かせることで完全非接触を実現.
グラファイトを用いた磁気浮上温度センサ |
ポリスチレンを用いた示差熱分析: 市販の装置(上)と本センサ(下) |
関連文献
IEEJ TRANSACTIONS ON ELECTRICAL AND ELECTRONIC ENGINEERING, 15(5), 773-774
(2020)