核融合実験炉ITERを実際に目にして感じた研究と社会のつながり(M1 宮岸太一)

東北大学金属材料研究所 笠田研究室 博士課程前期1年の宮岸太一です。今回は核融合実験炉のITER(イーター)の建設現場に赴きまして、ITER計画の説明と組み立て中の実機を見学させていただくという、非常に貴重な経験をしたので、そこで学んだことと実際に見て私が感じたことをみなさまにご報告いたします。

はじめに簡単にITERの説明をいたします。ITERは現在、フランスのサン=ポール=レ=デュランスにて建設中の核融合実験炉です。日本を含む7極(日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インド)が参加して国際協力で進める巨大科学プロジェクトです。7か国ではなく7極と表記するのは欧州が含まれているからだそうです。国際協力で進める巨大科学プロジェクトとしては、皆さんもよくご存じのISS(国際宇宙ステーション)が有名ですが、ITERもそのような巨大科学プロジェクトのひとつだと思っていただけるとわかりやすいかもしれません。ITERは核融合発電が可能であることを科学的に実証するための実験炉として位置付けられています。


核融合発電についても簡単に説明いたします(核融合の基礎についてご存じの方はこの段落を読み飛ばしてもらって結構です。)。核融合発電は一般に軽い原子核同士が融合するときに発生するエネルギーを取り出して発電する方法です。太陽の内部で起きている反応と同じなので核融合炉は“地上の太陽”と呼ばれることもあります。ITERでは水素の同位体である重水素と三重水素を融合させ、発生する中性子からエネルギーを取り出し、水を沸騰させ、蒸気でタービンを回します。つまり、最終的に蒸気でタービンを回すことはほかの発電方法と変わりなく、エネルギー源として核融合を用いるということになります。核融合を起こすためには燃料を超高温で電離した状態のプラズマにし磁場によって閉じ込めることが必要であり、ITERはトカマク型と呼ばれるドーナツのような形で閉じ込めています(図1)。ドーナツ型にするには3種類のコイルが必要で、それらを組み合わせて“地上の太陽”を実現します。核融合のメリットは燃料が枯渇する可能性がゼロであるということ、安全性が高いこと、いわゆる温室効果ガスを排出しないことがあげられます。まさに理想のエネルギー源です。

図 1 ITERの3種類のコイルとその製造国(ITER機構のWebサイトを参考)

ITERの目標は商用核融合炉と同じレベルの温度、密度などのパラメーターを有するプラズマを実現することです。実験炉と名前がついているように、ITERでは核融合炉発電が実際に使えるかを実験し実証することが目的なのです。具体的にはエネルギー増倍率(入力エネルギーに対する出力エネルギーの比)が10以上になることと、核融合プラズマの燃焼時間が400秒以上になることをミッションとしているそうです。このレベルの実証を実規模の装置で実現させることはすごく挑戦的なことであるとご説明いただきました。すなわち、ITER計画は人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクトなのです。


ここからは実際に2023年10月19日に現地で説明していただいたことと見学したことをその写真とともにご報告いたします。実際の見学と同じような流れで写真を載せるので読みながら見学した気分になってもらえると嬉しいです。

ITER建屋(中央の四角の建物)を外から眺めて見学スタート!

図2 ITER建屋(中央の四角の建物)。

バスで建屋まで移動。移動中にはITER機構と7極の旗がはためいていました。

図3 組み立て建屋までの移動中に見つけたITER機構と7極の旗。

参加極の旗があったり、敷地に入ったら英語が公用語だったり、いろいろな国の人がいたりして国際協力プロジェクトだということを改めて実感しました。ガイドを補佐してくれた若者は、アメリカから来ているインターンシップの学生ということでした。ITER機構では、ITER参加極からの敷地の外はもちろん公用語はフランス語なので英語が通じない人も多いので実感しやすいのだと思います。


※ITER機構は、大学生、大学院生向けの様々な職種のインターンシップを募集しており、ITER参加極のひとつである日本からも応募できます!

https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/staff/internship_program.html

ここからはお待ちかね、建屋の中の様子をお届けします!!
まずは、寝ながら組み立てを今か今かと待っているセクターモジュールをご紹介します。

図4 セクターモジュール(真空容器やトロイダルコイル等が一体化したもの)

最初に書きましたが、ITERはまだ組み立ての途中で(2023年10月時点)、各国から届く部品(といっても数10m級の大きさ)を非常に細かい精度で組み上げているところです。今回はその組み立ての現場を見学させていただきました。

次に組み上げられているセクターモジュール。
これが果物のみかんの房のように7つ並べられ、隙間が溶接されていくそうです。

図5 立てられたセクターモジュール。

組み立ての現場にあったセクターモジュールは2つで、これらの部品は真空を保ち、プラズマを閉じ込めるための重要な役割を持っています。寝かせられているものは韓国製で、日本製のものもありました。セクターモジュールはとても重いため吊り上げるのも一苦労だそうで、天井にある大きなクレーンで工夫して持ち上げるとのこと。クレーンは2台ついており、合計で1500トンまで持ち上げられるそう。これらのセクターモジュールが組みあがる日が待ち遠しいです。


図6 セントラルソレノイドコイルを積み重ねている様子。現在は2つ積み上がっている状態で、最終的には6つが重なります。

セクターモジュールの次に見学したのは、中心の軸部分で磁場を発生させるセントラルソレノイドです。これも磁場を発生させる重要な装置で丁寧に積み重ねられている様子を見ることができました。


見学は以上で終わりですが、ここからは実際に見学して私自身が感じ、どう思ったかを少しだけ書きたいと思います。
今回の見学で一番強く感じたのは「国際協力プロジェクトがいかに難しいか」です。ITERプロジェクトは人類初の核融合実験炉を実証するために様々な挑戦的な設計がなされていますが、その中でも特に難しいと思ったことが許容できる誤差の小ささです。クライオスタットベースと呼ばれる炉の土台部分になる部品は直径が30mであるにもかかわらず、設置の精度は3mmしか許されないとのこと。それ以外にも真空容器が7つに分かれていることを先ほど説明しましたが、それらは製造国が違うためそれぞれの部品で製造の精度や工業に対する文化的背景の違いなどがあり、それらの精度を揃えることは難しいことであると見学を通して実感しました。
私は原子力材料という細かな分野を専門とする大学院生の立場ですが、ITERのような大きな規模のプロジェクトが試行錯誤しながら進められている現場を見学させていただいたことで研究と社会のつながりを見たように思えました。専門性の高い研究活動を進めていると、どうしても社会的な視野が狭くなってきてしまいがちなところですが、今回の経験を通して大きなプロジェクトとのつながりを時折意識しようと思えました。容易には行くことができない欧州で現在建設中のITERを修士1年の段階で見学できたことは貴重な経験になりました。このような機会を設けてくださったITER機構の皆さま(対応してくださった上野さん)と、フランスまで連れて行ってくださった笠田先生に感謝申し上げます。

2023年11月30日
M1 宮岸太一

笠田研見学一行(撮影:笠田先生)

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