講義題目:
科学的不確実性下の社会的判断と科学者の役割
授業の目的と概要:
大震災以降,社会の中での専門家のあり方がこれまで以上に問われている.科学者は専門知識の生産者として,その知識の発信者として,あるいは市民の科学観に関わる科学教育を担う者として,社会的な位置を占め,その責任を負っている.
日本学術会議の声明「科学者の行動規範について」(2006)では,「科学者の責任」を『科学者は、自らが生み出す専門知識や技術の質を担保する責任を有し、さらに自らの専門知識、技術、経験を活かして、人類の健康と福祉、社会の安全と安寧、そして地球環境の持続性に貢献するという責任を有する。』と延べる.また,「説明と公開」では,『科学者は、自らが携わる研究の意義と役割を公開して積極的に説明し、その研究が人間、社会、環境に及ぼし得る影響や起こし得る変化を評価し、その結果を中立性・客観性をもって公表すると共に、社会との建設的な対話を築くように努める。』と述べる.
一方,大震災からも明らかなように,私たち科学者は科学的不確実性の高い科学的知見も,その社会的判断の材料として評価し,社会に伝えることが求められる.理科の授業のように,唯一の正しい答えがある状況ならともかく,不確実性が高い状況で私たち科学者は「中立性」や「客観性」をどのような形で保ち,社会との建設的な対話を築きうるのだろうか.
社会には多様な立場や価値判断が存在する.そのため,同一の科学的評価の下でも,様々な社会的判断がありうる.そこに科学的評価の不確実性が加わるとき,社会との接点での科学者と,それを取り巻く制度は,どのようにあるべきだろうか.
本授業では,ゲストに科学技術社会論(STS)の一線で研究を進めている中島貴子氏(国際基督教大学)を招き,受講者と共に議論を行って今後解決すべき課題を明らかする.
学習の到達目標
-
科学と社会の関係を考える際に不可欠な論点を,科学技術社会論の観点から解する.
-
科学技術が社会においてどのような位置にあり,専門家に何がもとめられているかを考えるための,基本的な視点,方法論を身につける
授業内容・方法と進度予定
集中講義形式: 金曜日午後〜土曜午前にセミナーを含む集中講義を1回開催する(具体的日程は,ホームページ http://web.sci.tohoku.ac.jp/hondou/page11/page11.html に掲載).それを踏まえて,各自が論点を考察しレポートを提出する.
教科書・参考書:
参考書: 専門知と公共性,藤垣裕子(東京大学出版会,2003)
科学技術社会論の技法,藤垣裕子 編,(東京大学出版会,2005)
『科学』2011年9月号,特集「科学は誰のためのものか」(岩波書店)
成績評価の方法:
授業参加,及びレポート
その他:
履修に関する質問は担当者まで。
連絡先:本堂 毅