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 素粒子・反粒子化学  環境放射化学  放射線化学



〜 福島第一原発事故と環境放射化学 〜

 当研究室では、震災後から環境中の放射能汚染の調査を行っています。特に、本学加齢医学研究所が中心となって立ち上げた「被災動物の包括的線量評価事業」に参加し、生体の低線量被ばくの影響や環境中での放射性物質の動態を調査しています。また宮城県内の自生キノコの放射能調査を仙台キノコ同好会と共同で調査しています。 (宮城県内自生キノコの放射能データ




被災動物体内の放射性物質測定

 「被災動物の包括的線量評価事業」の中で、当研究室では福島県と宮城県内の環境サンプリングと動物と環境試料の測定を行っています。
放射性セシウム測定
 被災動物の部位や臓器ごとに、134Cs、137Cs濃度を調査しています。低線量での被ばくによる放射線影響の解明のためには、環境中から体内に取込まれた134Cs、137Csの生体内での存在量を知る必要があります。測定は高純度Ge半導体検出器で行います。
放射性ストロンチウム測定
 Caと同族のSrは、歯や骨に蓄積する傾向があります。放射性の90Srの測定には、妨害元素の影響を取り除く必要があるため、化学分離で測定元素を分離します。 化学分離は多段階の無機分析であり、溶解度の差を利用したり、妨害元素を共沈させたりすることで、目的のSrのみを分離します。測定は低BG2πガスフローGM検出器で行います。

参考:プレスリリース, 被災牛の歯から放射性ストロンチウム~歯に残された放射能汚染の記録~




オートラジオグラフィーによる放射性核種分析

 輝尽性発光体という特殊な蛍光体をプラスチックフィルム上に添付したイメージンプレートを用いると、放射線が当たった場所を写真のように2次元画像で測定することができます。 放射性核種の空間的な分布を知ることが可能で、複数の試料を一度に測定できる点でも優れています。

 左の図は、コナラの枝をイメージングプレートで測定したものです。葉脈など、天然の放射性カリウムが多く含まれる部位が明るく写っています。

 イメージングプレートは単独では核種を識別することができませんが、測定条件を工夫して統計的な処理を行うことで推定可能です。 核種の弁別を行うための研究を、放射線輸送シミュレーションと組み合わせて進めています。

参考:福島第一原発事故前に形成された乳歯の放射能と放射性核種




環境中における放射性物質の挙動研究

 当研究室では大学内外の部局と共同で、2011年3月の震災以降、福島第一原子力発電所事故由来の放射性核種による環境への汚染を調査しています。
  測定対象は、土壌、植物、キノコ、動物、と多岐に渡り、この調査によって環境中でのそれぞれの放射性核種の動態や、低線量被ばくによる影響等を解明します。
 キノコは他の植物等と比較して放射性セシウム濃度が高く、またキノコの種類によってその値は大幅に違います。
 野生キノコ中の放射性核種の動態を調べるため、仙台キノコ同好会と共同でサンプルとなるキノコを採取しています。採ったキノコはGe半導体検出器により、137Csや134Cs、天然に存在する40Kなどのガンマ線放出核種の含有量の定量を行います。また、133Csなどの安定同位体も湿式分解とICP-MSなどによって定量し、放射性物質の取込みについても化学的に調べています。
 さらに、市内の企業と共同で、キノコや培地の除染やキノコへの放射性物質移行の低減化を共同研究しています。
 右は福島県警戒区域内等での調査の様子です。野外で空間線量率やガンマ線スペクトルの測定を行いながら、土壌の深さ30 cmコア試料や、ヨモギやツメクサ類、山菜などの植物を採取します。
 これらもGe半導体検出器やNaIシンチレーション検出器を用いてガンマ線放出核種の含有量を調べます。これらのデータを使って、動物のデータとも合わせ、環境中での放射性核種の動態を複合的に解釈していきます。
 事故初期の記録を後世へ残す、社会的にも重要度の高い研究です。