JAEA夏期休暇実習生体験記(M1:齋藤)

はじめまして。笠田研究室修士1年(M1)の齋藤隼輝です。
この度、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)が応募している夏期休暇実習生に採択され、2022 年8 月~9 月のひと月ほど、茨城県東海村のJAEA原子力科学研究部門 物質科学研究センターにて夏期休暇実習に参加しております。
 ここでは、参加までの経緯や現況報告をさせていただきます。お付き合いいただけると幸いです。

参加までの経緯

 自分は学部4年生から、笠田研究室で核融合炉のダイバータヒートシンクという機器に用いることを目標とした酸化物分散強化型銅合金(ODS-Cu)の開発に取り組んでおります。特に自分の研究分野はODS-Cuの微細組織に関係しています。合金のような金属材料では、微細組織は材料の強度や熱伝導性といった特性に直接関係する因子であります。特にODS-Cuにおいては、合金を強化するための酸化物粒子が微細かつ緻密に分散していることが材料に求められる高温強度や耐照射性といった特性を得るために必要とされています。これまで行ってきた実験では、作製した数センチメートル程度の大きさのODS-Cu試料のうち、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、ごく狭い領域でのナノスケールでの微細組織観察を行ってきました。その結果、微細な酸化物粒子が緻密に分散していることを確認し、合金開発の上で望ましい微細組織が形成していることが明らかにされました。しかしながら、これまでの実験結果から、ODS-Cuは不均一な微細組織を持っていることも明らかになっておりました。そのため、試料全体での酸化物粒子の分散の傾向などの微細組織の統計的な特徴を調べることが求められておりました。
 そんな中、笠田先生が「JAEAの募集する夏季休暇実習生向けの実習テーマの中に、中性子小角散乱(SANS)を用いた構造解析がある。」と紹介してくださいました。SANSでは、これまで実施してきた微細組織観察よりも大きな、数ミリ~数センチメートルの大きさの試料の微細組織、特にODS合金においては分散粒子の統計的分布を調べることができます。中性子ではなくX線を用いたものはX線小角散乱(SAXS)と呼ばれますが、基本原理はSANSと同様であり、こちらもこれまでより遥かに広いスケールでの試料中の分散粒子の統計的性質を調べることが可能です。SANSによってこれまで明らかにできていなかったODS-Cu試料全体での微細組織の特徴を明らかにできることが期待されました。また実習を通してSANSについての知識を身に着け、実験を行うことは自分にとって今後の研究の指針を得る上でもよい影響があることは疑いようのないことでした。
 実習に応募する上で、自分はちゃんと実習に取り組めるのかといった不安は少なからずありましたが、学部時代をぼんやりと過ごしているうちに終えてしまった後悔や、大学院にいるうちに何かしら人にない強み(のようなもの)を持ちたいという思いがあり、応募を決意しました。
 応募にあたっては、JAEAのWebサイトから夏期休暇実習生用の申込フォームを提出すると同時に、実習を担当してくださる方とのメールのやりとりやWebミーティングを行いました。その中で、自分のこれまでの研究の成果やこれからの課題、SANSに注目した理由についてスライドを作成して発表し、実習を通して学びたいことについて担当の方と共有しました。
 その後、無事に選考を通過し、令和4 年8 月18 日から9 月21 日までの期間、夏期休暇実習生として受け入れていただけることになりました。

実習開始から現在まで

 実習が始まってからまもなく2 週間が経とうとしていますが、ここでは実習の内容や東海村に来てからの生活について紹介しようと思います。

[実習について]

 自分は現在試料サイズや実験装置のマシンタイムの都合により、SANSではなくSAXSを用いたODS-Cuの微細組織観察を中心に実習に取り組んでいます。SANSとSAXSは測定に用いる放射線が中性子かX線かという違いはありますが、その基本原理は共通となっています。持ち込んだ複数の種類のODS-Cu試料についてSAXS測定を実施し、得られたデータを解析することが大まかな実習内容となっています。
 平日のスケジュールとしては、現状8時半までにはJAEAの建物内に用意していただいた自分のデスクに着いて、そのまま昼休みまでは作業に取り組んでいます。12 時から13 時は昼休みとなっており、その時間で昼食を済ませて午後は作業に戻ります。自分の場合、帰宅は19 時すぎであることが今のところは多いです。現在の実習内容としては持ち込んだ試料をSAXS測定に適した厚さに調整することが中心となっています。今後の実習では調整した試料を用いて、本格的にSAXS測定とデータ解析を行うことになると思われます。また、SAXS測定装置の操作についても職員の方から教えていただきたいと思っています。試料調整から測定、データ解析までを自分で行い、SAXS測定に関するノウハウを身に着けたいと思います。作製してきた試料について、測定で何がわかるのか楽しみです。
 実習中には、JAEA構内の様々な施設についても見学することができました。特に、研究用の原子炉であるJRR-3を見学させていただいたことが印象的でした。JRR-3では発生した中性子を中性子導管と呼ばれるパイプを用いて隣接するビームホールという建物まで輸送し、SANSをはじめとする様々な実験に利用しています。ホール内では巨大な中性子導管や実験装置がいくつも並んでおり、非常に迫力のある光景でした。また、ビームホール内にあるSANS用の装置SANS-Jでは、中性子導管と試料の間の空間は大気中に開放されており、空気中での中性子の直進性の高さを身をもって感じることができました。将来的には自分もSANS-Jを用いて実験してみたいと強く感じました。
 また、JAEAでSANSやSAXSを利用した研究に取り組まれている研究者の方々に対して、実習に取り組むにあたり自分の研究内容の紹介をプレゼンする機会をいただきました。プレゼンを通して、ODS-Cuのコンセプトや微細組織に関する質問をいただきました。自分としてはそれらの質問に的確に回答できたと考えています。自分の研究に対して興味を持っていただけたようで、嬉しかったです。

試料を研磨する齋藤の図

[その他生活について]

 東海村での生活では、JAEAの寮の一室を借りて生活しています。間取りは6畳で、床は畳張りとなっております。食事は平日の朝晩は寮の食堂でいただいています。休日は朝食の提供はありませんが、夕食は提供があります。寮内ではWi-Fiが使用可能で、インターネットの利用も問題なく行えています。
 ただし、大学のある仙台市と比べるとだいぶ田舎です。買い物に行くのも車がないと正直不便と感じることもあります。自分は東海村に来てから自動車運転免許を取る必要性を強く感じ、仙台に戻ったら自動車学校に通おうと思いました。
 週末は原則として実習は休みとなっているので、自分はSANSやSAXSについての勉強に充てるようにしています。新型コロナウイルスの感染が再び拡大しつつあるため、感染対策の観点から観光など、出かけることはしておりません。実習期間中に新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてくれれば、近隣の大洗町にある水族館にだけは行ければいいなと思っています。

 
総括

 実習参加までは実際にどのようなことをするのかイメージがつかめず、不安もありました。しかし、いざ始まってみると新しく行う実験に対して学ぶべきことも多く、刺激に満ちた日々が過ごせていると思います。また、研究室での生活と異なり、仕事として研究に取り組まれている方々に囲まれて生活することで、いつも以上に緊張感をもって作業に取り組めていると感じています。自分は将来研究関係の道に進みたいと考えているため、プロの研究者の方々に囲まれて生活する経験ができてよかったと感じています。皆さん自分の研究に関して深く理解されていて、自分もそうなれるように頑張りたいと思いました。
 また、自分の実習や実験に助力くださっている方々は皆さんとても親切な方々で、実験中に生じた些細な疑問にもお答えくださいました。自学することはもちろん必要ですが、周囲の方々ともコミュニケーションをとり、実習期間内でできるだけ多くのことを学びたいと思います。
 これからの実習では、いよいよ本格的にSAXSを用いた測定やデータ解析に入っていきます。仙台に帰るまでにできるだけ多くのことを学ぶことができるよう、体調に気を付けながらも頑張りたいと思います。余談ですが、実習初日の昼に担当の方にご案内いただいた海鮮料理のお店で食べたアジのなめろう丼が美味しかったので、また食べに行きたいと思います。実習終了後に、実習全体の総括を書かせていただきたいと思います。

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