研究概要

 
 人類は、様々な材料を利用することで生活を豊かにしてきました。しかしながら、材料の利用による人体への悪影響や環境汚染などの問題も生じていて、生命や環境に与えるリスクも顕在化しています。
 そこで我々の研究室では、環境科学・材料科学・生命科学を融合し、生命や環境に調和を生み出す環境調和材料の創製に取り組んでいます。



1. 生体を修復する材料(生体材料)の創製


 当研究室では、骨の欠損を修復するためのセラミックス人工骨の創製に取り組んでいます。

 骨は自己修復機能を持ち、軽度の骨折では自然に治癒することができますが、大きな欠損が生じた場合には
骨移植によって骨再生を補助する必要があります。患者自身の骨を移植する自家骨移植は優れた骨再生を示しますが、患者さんの負担などへの懸念から自家骨に匹敵する骨再生能力を有する人工骨の開発が求められています

 我々の研究室では、骨の無機成分であるリン酸カルシウムの結晶相や組成, 多孔構造を制御して、高い骨再生能力を有する人工骨の創製に取り組んでいます。
 例えば、骨再生を促進させる吸収性人工骨を目指し、生体吸収性の高いα型リン酸三カルシウム(α-TCP)に
骨再生を促進することが報告されているケイ酸を含有させる合成法を開発しました。動物への移植実験から、ケイ酸含有α-TCP顆粒の周辺では新生骨が旺盛に形成されており、材料設計により生命システムに働きかける人工骨が得られることを明らかにしました。



 最近では、骨再生能力の高い顆粒を骨格としてつなぐことで、大きな骨欠損を治療できるリン酸カルシウムセメントの創製にも取り組んでいます。骨再生のためには、細胞や組織が侵入するためのマクロ気孔(100μm程度の大きめの気孔)や、比表面積を大きくし吸着特性や溶解性を向上させるミクロ気孔(1μm程度の小さな気孔)が必要です。そこで、ミクロ気孔を有する直径数百μmの球状顆粒をつなぐことで、球状顆粒間の隙間によりマクロ気孔を形成し、マクロ気孔とミクロ気孔の両方を有するセメントを作製しています。


 また、これらの人工骨に薬剤を担持することで骨再生能力の向上や抗菌性の付与など、人工骨の機能化にも取り組んでいます。これらの研究は、入院期間の短縮や薬剤使用量の削減などによって、医療による環境負荷を低減する「環境低負荷医療」にも貢献できると考えています。


2. 微生物担体の創製


 微生物は、環境浄化や物質合成などに広く利用されています。これらのバイオリアクターでは、微生物を担体に高密度に固定することで微生物の働きを向上させることができます。これまでの生体材料の研究を通して、生体に対して親和性の高い材料は、微生物に対しても親和性が高いのではないかと考えました。

 例えば酸化チタンは、生体との親和性の高さなどから人工関節や歯科インプラントに用いられていますが、酸化チタンは表面の親水性が非常に高く、特定の微生物が付着しやすい傾向があることを明らかにしました。

 また、こういった材料と微生物の付着性が、生体内や自然環境のような雑多な条件でどのように変化するのか明らかにしようとしています。材料表面と微生物の付着性について普遍的な知見を得ることで、微生物の付着を制御できる材料の設計につながり、微生物担体の創製だけではなく、微生物による感染症の予防などにも貢献できると考えています。


 

 

 

 

 

3. 環境浄化材料の創製

 当研究室では廃棄物を原料として、リン酸カルシウムを基礎とする環境浄化材料の創製を行っています。

 水酸アパタイトは代表的なリン酸カルシウムであり、非常に優れた有機物吸着能力とイオン交換能力を持っています。廃棄される家畜骨を種々の温度で加熱処理することで、活性炭と水酸アパタイトの複合体である骨炭を作製し、フッ化物イオン(F-)除去能力の高い材料の作製に成功しました。

 また、炭酸カルシウムを主成分とするカキ殻を、リン酸イオンを含む水溶液中で処理することで、表面に水酸アパタイトを形成した材料を作製しました。未処理のカキ殻はF-をほとんど除去できないのに対し、カキ殻表面に水酸アパタイト微粒子を形成させることで優れたF-除去能を示しました。

 リン酸カルシウムは生体に対して親和性の高い材料であることから、自然環境中で利用しても環境への負荷が小さい物質であると考えられます。