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研究内容Research

研究の概観Overview

 光と物質の線形・非線形の相互作用を高度に利用・開拓することにより、新奇な物理現象の解明と物質機能の創出を行っています。特に、電子の電荷を基にした現代エレクトロニクスを超え、電子のスピン(磁石の性質)を組み込んだ量子物性機能を探索しています。
 例えば、対称性や光応答を人工操作した磁性メタマテリアル、磁性体と誘電体の特徴を兼ね備えるマルチフェロイック物質、電磁気学では禁止されている磁気モノポールなどを実現するメゾスコピック人工磁性体、さらに、特異な性質を有する磁性体・誘電体・金属・半導体・絶縁体などを舞台に、独自開発した光技術を用いることで、将来のテクノロジーを支えうる新しい物理原理や光物質機能の開拓を目指しています。
 具体的には、
 光により電子スピン(スピン配列・スピン流)を制御する新規光スピントロニクス原理の開拓
 高度な光イメージング技術を用いた量子物性機能の解明
 特殊なスピン配列を利用した電気磁気制御技術の開発
 磁性と誘電性を結合する電気磁気光機能(光のダイオード機能・波長変換機能・光電変換機能)の創出
など、光(フォトニクス)−電気(エレクトロニクス)−磁気(マグネティクス)を多元的に融合・変換する最先端の光物質科学を開拓します。

               

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光物性とはSolid State Photo-Physics

 光は電磁波の一種であり、物質中の電子やイオンなどと相互作用することにより、反射や屈折、吸収や発光などの光学現象が引き起こされます。このような光と物質の相互作用の仕方は物質の種類(例えば、金属・半導体・絶縁体)によって異なるため、逆にそれを調べることで物質内部の様々な情報を得ることができます。光物性の中心的課題は、まさに「光を探針として物質の性質(物性)を解明する」ことにあります。この方法論を用いて、様々な物質の微視的・巨視的性質が明らかにされ、量子論の誕生から発展、さらには現代社会を支える機能性物質の開発に多大な貢献をしてきました。最近では、ナノテクノロジーを駆使した微視的な構造設計により、自然界に存在する物質ではあり得ない光学特性(例えば、負の屈折率・透明マント)を実現することも夢物語ではなくなってきました。
 一方、近年のレーザー技術の発展により、光を「探針」として利用するだけでなく、より能動的に物質の電気的・磁気的・光学的性質を瞬時に「制御」する手段としても研究されています。これにより、将来の超高速エレクトロニクスの基盤技術となる光スイッチとしての応用も期待されています。

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対象とする物質系Target Materials

メタマテリアルMetamaterials

 自然界の物質では不可能な光応答を可能とする人工物質。近年の微細加工技術の発展により、光(電磁波)の波長よりも小さな構造を持つサブ波長人工物質(メタマテリアル)を作製し、物質固有と考えられてきた光(電磁)応答を人工的に制御することが可能となってきました。このようなメタマテリアルを使うと、例えば、負の屈折、完全レンズ、クローキング(透明マント)など、これまで不可能だった新しいテクノロジーの開発が期待されています。

メゾスコピック人工磁性体Mesoscopic Artificial Magnets

 メゾスケールで特異な電子スピン配列を実現した人工磁性体。ナノ(10-9)〜マイクロ(10-6)メートルの間のメゾスケールで磁性体の形状や大きさ・配列などを人工的に操作すると、電磁気学では禁止されている磁気モノポール(磁気単極子)をはじめ特異な磁気状態を実現することができます。このような新奇な電子スピン配列のモデルシステムを実現し、その基礎特性を詳細に調べることで、新しい秩序・原理に基づいた物理法則の発見と新規な量子物性機能の開拓が可能になります。

マルチフェロイック物質Multiferroics

 強誘電性(Ferro-electric)、強磁性(Ferro-magnetic)、強弾性(Ferro-elastic)などの性質を複数有する多機能物質。フェロイック(Ferroic)とは、物質中の電気的、磁気的、弾性的な偏りが巨視的に向きを揃え、長距離秩序を作っている様子を指します。複数の異なる秩序がある場合をマルチフェロイック(Multi-ferroic)と呼び、そのような性質を持つ物質をマルチフェロイック物質(マルチフェロイクス)と呼びます。最近では、強誘電体であり同時に磁気秩序も示す物質を指すことが多くなっています。
 マルチフェロイック物質の重要な性質は、秩序間の相互作用によって一つの秩序を外場で変調させたとき、別の秩序も変化することです。このような特性により、従来材料とは異なる画期的な機能を持った電気磁気デバイスや、新しい原理の光エレクトロニクス機能など、従来の科学技術ではなし得なかった新機能の創出が期待されています。

磁性半導体Magnetic Semiconductors

 半導体の持つ電気的な性質と磁性材料が持つ磁石の性質(スピン)を併せ持つ物質。磁気的性質と電気的・光学的性質が絡み合っているため、磁気秩序を制御することで電気的・光学的性質を制御したり、逆に、電気的・光学的に磁性を制御することが可能になります。次世代スピン機能物質の有力候補として注目を集めています。

強相関電子系物質Strongly Correlated Electron Systems

 電子の電荷・スピン・軌道自由度の制御により新物性が発現する物質。電子の密度が非常に高い物質では、半導体や金属の自由電子のように自由に振る舞えず、電子同士が互いに強く相互作用し合います。このような物質系を強相関電子系と言います。銅酸化物をベースとした高温超伝導や、マンガン酸化物における超巨大磁気抵抗効果は強相関電子系物質が示す多彩で劇的な現象の典型的な例で、電子が持つ電荷・スピン・軌道の自由度を制御することで、従来の半導体エレクトロニクスを凌駕する電子デバイスになる可能性を秘めています。

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非線形スピンフォトニクスNonlinear Spin Photonics

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    独自開発した高度な非線形光学技術を用いることにより、多彩な電気・磁気秩序の高感度検出・イメージング・光制御を可能とする新技術「非線形スピンフォトニクス」を開拓します。
 光と物質の非線形相互作用を積極的に開拓・利用することにより、物質中の多彩な電気・磁気秩序の検出やドメイン構造の可視化、電子エネルギー準位の導出やこれらの物理量の超高速ダイナミクスの解明など、最先端物質の物性機能を明らかにすることができます。また、メタマテリアルを用いて非線形磁気光学機能を人工的に制御する方法や、光によりスピン流(スピンの流れ)を生成・制御する新規な手法の開拓、および、電子スピンを用いた新型太陽電池の研究を行っています。

  キーワード: 非線形(磁気)光学、磁気光学、波長変換、対称性、(磁気)プラズモン、磁気モノポール、磁気トロイダル、多極子、イメージング、ドメインエンジニアリング、光電流、スピン流、反強磁性スピントロニクス、キラリティ(カイラリティ)

参考

ナノ磁石で発現する磁気の渦を非破壊・非接触で直接検出する手法を開発(メゾスコピック人工磁性体)
    [APL 2022, プレスリリース 2022]
マルチフェロイック(反強磁性)ドメインを可逆的に光スイッチングする新原理を発見(マルチフェロイック物質)
    [Nature Photon. 2016, プレスリリース 2016]
マルチフェロイックドメインの電場・磁場制御と実空間観察による新しい電子機能の発見(マルチフェロイック物質)
    [Science 2015, 固体物理 2016, プレスリリース 2015]
非線形光学応答における巨大なファラデー効果の観測(磁性半導体) [PRB 2012]
空間反転対称性を持つ磁性体における磁化誘起第二高調波発生の観測(磁性半導体) [PRB 2010, JAP 2011]
磁化と電気分極の超高速ダイナミクスを同時に測定する技術を開発(マルチフェロイック物質) [PRB 2009]
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超高速光磁気制御Ultrafast Opto-Magnetism

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    次世代の高度通信・情報化社会の構築に向け、現在、既存エレクトロニクスに電子スピン機能を取り入れるスピントロニクスが注目を集め、電気・磁気デバイスの新しい駆動原理の創出や低消費電力・高密度デバイスの実現に向け盛んに研究されています。そこでは、機能創出の主役となる電子スピンをいかに高速かつ効率よく制御できるかが重要です。これまで電子スピン(あるいは、磁性体の磁化)の制御に利用されてきた磁場による制御速度はすでにその限界に近づきつつあり、どれだけ速く電子スピン機能を制御できるのかは学術的のみならず産業的にも重要な課題になっています。
 このような状況の中、近年の超高速光学技術の発展と相まって、スピンを高速に制御する手段として光が注目されています。我々のグループでは、既存技術の枠組みを超えた、超短光パルスによる超高速磁気制御を可能とする新原理・新技術を研究しています。

  キーワード: 光スピン制御、スピン流、超高速ダイナミクス、磁気光学、非線形(磁気)光学、光誘起相転移、イメージング

参考

スピン流の伝搬方向や大きさを光パルスの偏光状態により完全制御する新原理を開拓(磁性メタマテリアル)
    [Nature Commun. 2022, プレスリリース 2022]
テラヘルツスピンラチェット効果を発見(磁性メタマテリアル) [PRB 2023]
磁気相互作用の大きさを光パルスにより1兆分の1秒レベルで増減することに成功(磁性半導体)
    [Nature Commun. 2015, 応用物理 2019, プレスリリース 2015]
電気・磁気秩序の動的振る舞いを10兆分の1秒レベルで独立計測する技術を開発(マルチフェロイック物質)
    [PRB 2009]
光誘起反強磁性-強磁性転移の実現(強相関電子系物質) [PRL 2007, PRB 2008, JPSJ 2009]
超高速スピンダイナミクスの検出(強相関電子系物質) [PRB 2003, PRL 2007]
リラクサー磁性体における永続的光誘起磁化の実空間観測(強相関電子系物質) [APL 2002]
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電気磁気光学効果Magneto-Electro-Optics

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    空間反転対称性が破れた磁性体においては、従来の磁気光学効果や電気光学効果とは異なる、磁性と誘電性の結合した特異な電気‐磁気‐光機能が発現します。電場や磁場で制御できる光の吸収・反射・発光・屈折・回折や非相反光学応答(光を入射する方向により光学応答が異なる効果:極端な場合、物質を一方から眺めると透明で、もう一方から眺めると真っ黒に見える)など、これまで知られている光学応答とは異なる興味深い現象が予想され、また実際に観測されています。
 マルチフェロイック物質やメタマテリアルを用いて、効率的に電気磁気光学効果を増強する方法を研究しています。

  キーワード: 電気磁気光学、非相反光学、磁気光学、電気光学、電気磁気効果、時間・空間反転対称性の破れ、磁気モノポール、磁気トロイダル、多極子、磁気カイラル

参考

光吸収における電気磁気光学効果の観測(マルチフェロイック物質) [PRL 2004]
発光における電気磁気光学効果の観測(マルチフェロイック物質) [APL 2006]
人工構造を用いて電気磁気光学効果の増強に成功(マルチフェロイック物質) [PRL 2006]
共鳴X線電気磁気散乱の検出に成功(マルチフェロイック物質) [JPSJ 2005]
結晶中の空間反転対称性が破れたサイトのスピン情報を元素選択的に検出(酸化物磁性体) [PRB 2005, PRB 2009]
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