※デジタルのレントゲン画像の動画
上記においてより高い画質(解像度やノイズ強度、等)を達成するうえで重要となってくるのが、各モダリティの画像撮像原理が抱える物理的な性能の限界です。右図は、これまでの研究開発で作製した小動物用PET装置です。小動物用装置は基礎医学の知見発見や新薬の創薬などを目的としており、通常の臨床用装置よりも高い解像度が必要とされます。この装置では、臨床用の核医学画像装置では当時活用されていなかった半導体検出器の導入に加えて、ユニークな装置構造の採用によって物理的上限に迫る解像度の達成に成功しています。このように、「物理的限界にせまる」、または、「限界を超える」ためには要素技術を結集させ、ときには、新たな計測原理を導入する必要があります。例えば、ある画像性能について10倍の向上を目指すとします。単一の新規技術の開発を通じてこれを達成することは困難ですが、仮に、新たなイメージセンサの導入で約2倍の性能アップ、画像処理ソフトウェアの改善で2倍アップ、さらに、新しい補正手法などの考案で2倍アップできれば、総合して8倍の性能向上が得られることとなり、1ケタの性能向上の可能性が視野に入ってきます。本研究室は「システム(=ハードウェア+ソフトウェア)」の理解に基づいた研究開発を重視していますが、その理由はこのような大幅な性能向上への展望が期待できるためです。以下は、現在進めている主要なテーマです。
医用画像モダリティでの主な計測対象であるX線・ガンマ線用の放射線検出器や、それらを組み込んだイメージセンサを開発しています。特に、化合物半導体を材料とする高性能の検出器の構築に向けた研究を進めています。化合物半導体は高い物体透過能力を持つX線・ガンマ線に対しても吸収能力を示すため、これを材料に用いることで高い検出感度の検出器を作製することが可能です。
そして、このような材料を用いた検出器作製では、集積回路を形成するものと同様の半導体プロセス技術が活用されます。これらの技術ではナノメートルのスケールでのパターニングが可能です。このため、単一の半導体ウエハ上に多数の微小な検出素子を配置することが可能であり、高解像度の画像取得のためには極めて有利となる良好な位置分解能が獲得できます。さらに半導体検出器に共通する特徴である高いエネルギー分解能(=放射線エネルギーの計測精度)は様々な分析や解析に有益です。これらの有用な性能群を有する検出デバイスは、以下に示す高性能の医用画像システムの構築を目的とする研究テーマにおいての有力なハードウェア要素となりえます。
PET(陽電子断層撮影法)の画像は、患者の体内にトレーサーと呼ばれる放射性薬剤を投与して取得されます。トレーサーからは陽電子(電子の反粒子)が放出され、体内の電子と結合を起こした後に消滅する代わりに2本のガンマ線を同時に放出されます(この現象を対消滅現象と呼びます)。これら2本のガンマ線は放出方向はほぼ180度反対方向であり、これらをリング状に配置した検出器列で同時に計測することで「陽電子の消滅位置(≒トレーサー分子の位置)が2つのガンマ線の検出点を結んだ線分上に存在するという情報を得ることができます。この線分を応答線と呼び、この情報をもとに画像が作成されます。
応答線の持つトレーサの位置情報の精度には物理的な制約がありますそして、PET装置にとって達成可能な解像度はこの制約の影響によって小動物用装置で1㎜弱、臨床用の装置では2㎜前後に制限されます。本研究室では新たなデータ計測手法の導入といった計測原理上の改善や、新規のシステム構成要素の開発を通じて前述のような物理的な限界を超える解像度(=超解像度)の装置開発を目指しています。
「全身をめぐる血管を経由して医療器具を送り込めば、”メスで開腹・開胸・開頭すること無しに”多様な部位にアクセスできる」というコンセプトのもとで低侵襲の手術を実現しているのが画像支援下手術(IVR(Interventional radiology)、カテーテル手術)です。この手術では、X線透視画像(レントゲン画像のリアルタイム動画)を視ながら血管を介してカテーテルなどの医療デバイスを患部まで輸送して様々な疾患を治療します。その一方で、他の画像モダリティと比較して、連続的なX線画像の撮像による放射線被ばく量は高く、その低減が求められています。本研究室では、被ばく量低減に向けた有効な情報と考えられるX線透画像内での物体の抽出/特定技術の開発を行っています。画像の視認性は手術の安全性に大きく関わっていると考えれれます。物体情報の活用によってX線照射量を減らしてもこれまで通りの画像の視認性を保つことができれば手術の安全性を損なうことなく、低被ばく化が実現するものと予想されます。
IVRの手術中に撮影された透視画像内からカテーテルの像が存在する部分を抜き出したものです。このような処理をセグメンテーション(領域抽出)と呼びます。透視画像は数百万以上の画素数のフレーム(1コマ)が1秒間当たり30フレーム程度のスピードで切り替わる高解像度の動画です。一方で、セグメンテーション処理とは、いわゆる物体検出処理の一種であり(例えば、「画像の中に”猫”がいる場所を四角のボックスで囲む」、など)、1つ1つの画素について検出対象の物体が含まれているかを判断するものです。これを手術の安全性を担保しつつにリアルタイムに、かつ、高精度で行うには高度で高負荷な計算機処理が必要ですが、機械学習をベースとする処理技術の台頭によって負荷軽減が可能となってきています。
上記はソフトウェア(AI)を活用した領域抽出ですが、ハードウェアの活用によっても同様のことが可能です。通常のX線画像は皆さんが知っているようにグレースケールの濃淡のみで表現されていますが、エネルギー計測精度の高い半導体X線イメージデバイスを活用することで画像を材質ごとに「色分け」することが可能となります。例えば、「骨だけを別の色に塗る」「心臓(心筋)だけを塗る」といったこともできるようになります。