研究概要

 高橋(英)・横山研究室では、環境問題の解決を目指して、ナノ材料 を合成し、表面やサイズを制御することで発現する特異な機能を、環境・エネルギー・資源分野に応用する研究を行っています。 ナノ材料としては、金属・硫化物・酸化物やこれらの複合材料を対象に、大きな環境負荷をかけないように設計された溶液プロセスを用いて合成した上で、その機能を最大化することを目指しています。

(1) 無機ナノ粒子の合成と太陽電池・燃料電池への応用 

 金属ナノ粒子は、溶液プロセスで合成されることが多いですが、高価かつ毒性のある有機溶媒や、高温・高圧を必要とする反応を基礎とするため、環境負荷の高いプロセスとなっています。理想的には、安全安価な水、室温、大気圧環境下といったような環境負荷の低い反応場での合成が望まれますが、様々な問題が存在します。大きな問題の一つは、水中では前駆体となる金属イオンは単一イオンもしくは錯体としてではなく、複数のイオンもしくは錯体として存在し、さらに反応中間体も同様かそれ以上に複雑な状態で存在することです。前駆体と中間体の状態が変化すれば、反応性が変化するため、最終的に得られるナノ粒子の形状やサイズに影響します。そのため、前駆体や中間体の金属イオン・錯体状態を計算予測や分析機器による評価を行うことで制御し、望んだ形状のナノ粒子合成を検討しています。現在は特に、無機太陽電池(CIGS・CZTS)や固体高分子形燃料電池の触媒材料となる、金属・酸化物・硫化物などのナノ粒子の合成や薄膜化に取り組んでいます。

【現在のテーマ例】
・太陽電池(CIGS・CZTS)の全層をナノ粒子の塗布と焼結により形成する手法の開発
・燃料電池触媒の高活性化を目指したPtナノ粒子の形状制御および異種金属との合金化
・無機薄膜の新規かつ低環境負荷な溶液成長法の開発と太陽電池への応用

(2) Cuナノ材料の合成と光学・電子デバイスへの応用

 Cuは金属の中でも、Agに次ぐ高い電気伝導性を持ち、展延性に優れることから、多くの電子デバイスの配線などに使用されています。情報化社会が進む現代において、次世代の電子デバイスには、小型化とフレキシブル性が求められ、Cu配線にも種々の機能が求められています。特に、これまでの固く耐熱性のある基板上への配線化から、柔らかく耐熱性のない基板へ配線化が求められるため、Cuナノ粒子が持つ低温での焼結特性に着目し、Cuナノ粒子をインク化、印刷技術を用いて塗布し、低温熱処理によってマイクロサイズの配線を形成することを検討しています。さらに、ナノ粒子のみでは、フレキシブル性に乏しいことから、フレキシブル性の優れたCuナノワイヤを合成し、応用を試みています。Cuナノワイヤは薄膜化することで透明性を示すことから、太陽電池や光学デバイスの必須材料である高性能な透明導電膜材料としての応用も検討しています。

【現在のテーマ例】
・Cuナノ材料の複合化によるフレキシブルCu配線の形成
・Cuナノワイヤを基軸にした高性能な透明導電膜の創出

(3) Feナノ材料の合成と接合材料およびウィルス検出材料への応用

 Feは現代社会にありふれた材料ですが、ナノ化することによって、融点は1500℃から降下し、低温で焼結する材料となり、また磁性に変化が現れます。低温焼結性を用いて、鉄関連材料の結合材料として機能することが出来れば、高温処理なしに鉄材料を補強することが可能となります。またこれまでに鉄の磁性を用いた様々なウィルス濃縮が行われていますが、鉄ナノ粒子はより短時間で効率的なウィルス濃縮の可能性を秘めていることから、濃縮のためのFeナノ粒子の最適形状を模索しています。ナノ粒子の形状制御に加えて、Feナノ粒子は酸化しやすい材料であることから、機能を発揮することができるような表面修飾法の開発も同時に行っています。

【現在のテーマ例】
・Feナノ粒子の合成と表面制御による接合材料への応用
・Feナノ粒子の合成と無機物質の表面被覆によるウィルス高速濃縮の実現

(4) 金属錯体制御技術を基礎とした有価金属回収

 高橋(英)・横山研究室では上述のように、溶液中の金属錯体を制御し、前駆体・中間体を制御することで、目的のナノ材料を合成することを検討しています。この金属錯体制御技術をさらに展開し、鉱石や廃棄物などに含まれる有価金属を優先的に溶液中に溶解させ、錯体化させる技術を開発し、効率的に有価金属を回収することも検討しています。