【プレスリリース】薄い被覆の接合強度の測定に成功 「マイクロメートルサイズの超微小試験技術を駆使する」

【発表のポイント】

  • マイクロメートルサイズの試験片を作製・評価可能な超微小試験技術(※1)によって、鉄鋼材料に被覆した0.2mmの薄いタングステン被覆の接合強度の測定に成功しました。
  • 爆発接合法(※2)によって鉄鋼材料に被覆されたタングステンの界面せん断強度(※3)は、タングステンや鉄鋼材料のせん断強度よりも強いことが定量的に明らかになりました。
  • 様々な被覆材料の界面強度を測定可能な技術であり、様々な機器で活用が進むマルチマテリアル技術の安全性評価に貢献できる可能性があります。

【概要】

薄く被覆された材料の界面接合強度は、被覆層の大きさに制限があるため、通常の強度試験では正確に測定することが困難です。東北大学金属材料研究所のWu Xiangyu氏(東北大学大学院工学研究科 博士課程学生)および笠田竜太教授らの研究グループは、京都大学エネルギー理工学研究所の小西哲之教授ら、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の外本和幸教授ら、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の安堂正己主幹研究員らとの共同研究により、鉄鋼材料に対して爆発接合法によって被覆したタングステン箔の界面接合強度を、超微小試験技術であるマイクロ引張試験およびマイクロせん断圧縮試験によって明らかにしました。

本研究成果は、未来のエネルギー源として開発が進められている核融合炉の厳しい環境に耐える被覆技術の評価法に関連するものですが、様々な被覆材料の界面強度の測定に応用可能であり、高機能化や軽量化を目指して様々な産業機器で活用が進むマルチマテリアル技術の安全性評価に貢献できる可能性があります。

本成果は2021年9月2日に、Materials Science and Engineering: A誌にオンラインで公開されました。

【詳細な説明】

○研究背景

発電・輸送機器に用いられるガスタービンの高温部品の遮熱コーティングから、未来のエネルギー源として期待されている核融合炉の第一壁まで、過酷環境に耐えるように製作された異種接合材料の開発と利用が進んでいます。異種接合材料は、機械的特性と熱的特性が一致していないため、高応力や高温条件下で使用される場合には、接合界面での破壊が懸念されます。機器の寿命や安全性の評価のためには、接合界面の接合強度を知る必要があります。しかし,薄く被覆された部品では、接合界面や被覆層の大きさに制限があるため、通常の強度試験技術では、接合界面強度を正確に測定することは困難です。

最近、集束イオンビーム(FIB)加工装置(※4)やナノインデンテーション装置(※5)の応用により、マイクロピラー圧縮試験、マイクロカンチレバー曲げ試験、マイクロ引張試験、マイクロせん断試験など、微小領域の強度特性を評価するための様々な超微小験技術(Ultra-Small Testing Technology: USTT)が模索されていますが、異種接合材、被覆材の界面強度測定への適用性については検討が必要でした。

○成果の内容

今回の研究では、0.2mm厚のタングステン箔を鉄鋼材料に被覆するために、熊本大学の外本教授らが開発した水中爆発接合法を適用しました。接合界面からFIB装置を駆使してマイクロメートルサイズの引張試験片や圧縮試験片を作製し、ナノインデンテーション装置等によって一軸引張試験、一軸圧縮試験、せん断圧縮試験を実施して、荷重‐変位曲線を取得しました。得られた結果から、次のような結論が得られました。

  • マイクロ引張試験と電子顕微鏡観察によって,接合界面に隣接して形成した細粒の鉄鋼材料の引張強度が、鉄鋼材料母材よりも強く、タングステン被覆部よりも弱いことが明らかになりました。
  • マイクロせん断圧縮試験で得られたタングステン被覆部のせん断強度は、せん断変形部面積が小さいほど高くなることがわかりました。また、マイクロせん断圧縮試験では応力集中が大きいため、タングステン被覆部のせん断強度は、一軸圧縮試験結果から推定される値よりも高くなることがわかりました。
  • タングステンと鉄鋼材料の接合界面に対するマイクロせん断圧縮試験では、せん断変形部面積を1μm2まで小さくすると、タングステン被覆部よりも高い強度を示しており、界面領域のせん断強度を評価できたと言えます。 
  • 以上の結果から、超微小試験技術である水中爆発接合法によって得られたタングステンと鉄鋼材料の接合部の界面せん断強度を評価することが可能であることを示しました。
図 超微小試験技術による界面強度の直接評価の流れ

○意義・課題・展望

被覆技術は、構造材料単体では耐えきれない過酷環境に対して耐性を付与する重要な材料技術です。超微小試験技術によって、被覆材の界面強度を測定可能であることを実証した本成果は、今後の被覆材開発における安全性、耐環境性評価を定量的に可能とするため、構造計算と組み合わせることによって飛躍的に推進することが期待されます。今後、様々な被覆材や環境要件を想定して、更に取り組むべき課題として、異なる接合技術によって作製した被覆材界面強度の評価や、高温測定が挙げられます。今回の研究は、未来のエネルギー源として開発が進められている核融合炉の厳しい環境に耐える被覆技術の評価法に関連するものですが、様々な被覆材料の剥離強度測定に応用可能な技術を提供しており、マルチマテリアル技術の適用における安全性評価に貢献できる可能性があります。

○発表論文

雑誌名:Materials Science and Engineering: A

英文タイトル:Bonding Strength Evaluation of Explosive Welding Joint of Tungsten to Ferritic Steel using Ultra-Small Testing Technologies

全著者:Xiangyu Wu, Sosuke Kondo, Hao Yu, Yasuki Okuno, Masami Ando, Hironori Kurotaki, Shigeru Tanaka, Kazuyuki Hokamoto, Ryosuke Ochiai, Satoshi Konishi, Ryuta Kasada

DOI:10.1016/j.msea.2021.141995

○専門用語解説

※1超微小試験技術

マイクロメートル以下の試験片や試験機を用いた材料特性評価技術の総称。

※2爆発接合

爆発によって発生するエネルギーを用いて接合する技術。他の技術では接合しがたい異材の接合も可能になる。

※3せん断強度

ある面と平行方向に、その面上ですべり運動を起こすために必要な応力をせん断応力といい、せん断応力をかけていったときに破壊に至る強度をせん断強度という。

※4集束イオンビーム加工装置

細く絞ったイオンビームによって、材料表面の微細加工を行う装置。

※5ナノインデンテーション装置

超微小荷重での押込硬さ試験を行うための装置。荷重と変位を計測可能なことから、マイクロピラー圧縮試験などの超微小試験技術にも応用されている。

○共同研究機関および助成

本成果は、東北大学金属材料研究所の笠田竜太教授らと、京都大学エネルギー理工学研究所の小西哲之教授ら、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の外本和幸教授ら、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の安堂正己主幹研究員らの共同研究によるものです。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)「超微小試験技術による照射脆化のミッシングリンク解明」(19H02643)、熊本大学産業ナノマテリアル研究所共同研究の支援を受けて実施されました。

<本件に関するお問い合わせ先>

◆研究内容に関して

東北大学金属材料研究所

原子力材料工学研究部門

教授 笠田 竜太

TEL: 022-215-2065

Email: r-kasada_at_imr.tohoku.ac.jp

◆報道に関して

東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班

TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482

Email:imr-press _at_ imr.tohoku.ac.jp

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