光物性物理研究室・吉澤グループ

 

研究内容

有機π電子系

 色素など可視域に吸収をもつ有機分子では、共役π電子がその物性を決める大きな役割をもっています。物質の構造により共役π電子系は異なる次元性をもつ ため、物理学において注目を集めてきました。下図は、1次元、2次元および3次元的なπ電子系をもつ物質の代表例です。

   

 光合成系では、1次元π電子系のポリエン骨格をもつカロテノイド類と、2次元的なπ電子系をもつクロロフィル類が重要な役割を果たしています。光合成細菌中のカロテノイドとバクテリオクロロフィルの構造です。

 

これらの色素分子は、さらに色素蛋白複合体を形成しています。下図左は、LH2とよばれる複合体 の構造です。カロテノイド(赤)とバクテリオクロロフィル(黄、紫)がきれいな環状構造を作っています。下図右は、LH2複合体とLH1複合体が平面的に配列した構造 です。

 光合成系の初期過程では、LH2中のカロテノイドに吸収された光エネルギーがバクテリオクロロフィルに受け渡され、さらにLH2からLH1複合体へと移動していき、最終的にLH1の中央にある反応中心(RC)に到達します。この過程はフェムト秒(10-15秒)からピコ秒(10-12秒)の超高速かつ高効率であり、構成色素のエネルギー準位や複合体の構造がエネルギー移動の メカニズムにどのように影響しているかが注目されています。 このような特徴的な構造をもつ物質の励起状態ダイナミクス を研究することで人工の光合成系を含めた新たな光機能材料の開発を目指しています。

 上でも示したカーボンナノチューブは、炭素原子が円筒 状の形状をしており1次元的な特徴をもっています。この筒の中に色素分子を内包することで、光学特性を変えることができます。本グループでは、カロテノイドを内包したカーボンナノチューブ (下図)の超高速光学応答を調べ、カーボンナノチューブとカロテノイドの間の相互のエネルギー移動を研究しています。

 これらの有機π電子系の物質は構成する分子や配列構造を変えることで多彩な物性を示すことが期待されています。それらを系統的に調べる新しい光機能性を見いだしていくために、本グループがもつ広い波長域をカバーする分光装置を駆使して研究を進めていきます。

 

分光装置

 有機π電子系における超高速現象を測定 するためには、超短パルスレーザーを用いた時間分解分光装置が必要です。本グループでは、チタンサファイアレーザーをベースとしたフェムト秒波長可変光源を開発し、可視から近赤外までの広い波長域の 励起光を用いて研究を行っています。エネルギーの異なる複数の超短パルス光を用いて線形・非線形光励起を行うことでと、物質の任意のエネルギー準位を励起したり、物質中にコヒーレントな振動を作ることができます。このような状態を調べることで、通常の分光法では測定できない物性の本質を知ることができます。

 分光実験室

 測定法としては、吸収分光・発光分光・ラマン分光の3種類を用いています。特に、時間分解誘導ラマン分光法は本グループが世界で初めてフェムト秒のラマン分光を可能とした方法です。

 「出前授業」の中にも、超高速分光法と光合成研究の紹介があります。