研究内容

未来志向の錯体化学 〜錯体化学の新時代へ〜

research scheme

 錯体化学は、有機配位子が持つ構造設計性・構造多様性と金属イオンが持つ電子状態(電荷・スピンなど)の多様性を活用できることから 「目的の物性や機能性を狙って創る」ことに長けた研究分野であると言えます。 特に、金属イオンが有機配位子によって連結された「配位高分子」においては、それぞれの金属イオンが持つ電荷やスピンの間には、 協同性(ある種の集団心理のようなもの)が働くことから、それを利用することで個々のイオンでは実現不可能な機能を創出することができると考えています。

 当研究室では、分子の合理的デザインに始まり、配位子の有機合成、金属イオンとの錯形成、ナノ材料構築、多様な手法によるキャラクタリゼーション、 理論計算による現象解明、性質や機能性の評価、デバイスとしての応用など科学の幅広い領域をカバーしています。 各々の興味に応じて有機も無機も物性も理論も何でもできる恵まれた環境です。学際的な視野を活かした国内外の共同研究を通して、 化学分野だけでなく他分野との境界領域の研究を盛んに行いインパクトのある研究成果を多数残しています。

実際に我々は以下のような機能性物質の開発・研究を行っています。

1. 低次元配位マテリアル(ナノマテリアル・ナノシート)

2. 水素貯蔵物質

3. 多孔性分子導体(Porous Molecular Conductor)

4. 光で機能を発揮するナノ材料や分子マシン

それぞれの詳しい説明は以下の各項をご覧ください。


低次元配位マテリアルの構築の新展開

 モノマーを二次元的に重合させることによって得られる分子性ナノシートを如何に精密合成するか,これは化学者の長年の夢の一つです。 技術の飛躍的な進歩とともに,分子性ナノシートの構築例が近年増えてきています。 二次元物質として先行するグラフェンや遷移金属ジカルコゲニドなどの無機ナノシートの発展と将来性から, 基礎科学的興味のみならずナノマテリアルとしての分子性ナノシートへの期待もより一層高まっています。

「分子性ナノシート」は有機分子・金属イオンから二次元構造を直接構築する新ナノ材料候補ですが、現状ではその機能創出と応用展開は不十分です。 また、半導体・金属のナノワイヤ構造は縦型トランジスタの活物質やがんマーカー捕捉素材, 後者は10 nm プロセスルールまでにも微細化された集積回路の配線などへ利用されています。 一次元ポリマーの単一分子鎖「分子性ナノワイヤ」は金属・半導体ナノ材料よりもさらに微小,かつ太さや組成が一様な究極のナノ材料となり得ます。 その一方で,一次元ポリマー鎖1 本の単離・取扱・応用は未成熟であり,今後の飛躍が望まれる技術です。

 当研究室ではこれまで、グラフェン類縁体の「グラフィジイン」や光機能性を示す金属錯体ナノシートといった二次元材料を 液液界面を反応場として用いて構築し、その物性を解明してきました。また、太さが1 nm程度の分子性ナノワイヤ群の合成に成功し、 そのフォトニックワイヤとしての利用可能性を示しています。このように我々は解決すべき学術的問題点も考慮しながら、 社会・産業に破壊的イノベーションをもたらす機能性低次元マテリアルの応用展開を追究しています。

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水素貯蔵物質の開発

 水素は極めて大きい重量エネルギー密度を有するため、次世代のエネルギーキャリアの本命として期待されていますが、 常温・常圧での貯蔵が困難であるという問題を抱えています。現在、液化水素、水素吸蔵合金、超高圧水素、有機ヒドリドなどの貯蔵方法が 有望視されていますが、これらの手法いずれの場合も水素の貯蔵や取り出しに多くのエネルギーを要するため、 温和な条件で可逆的に水素を吸着・放出する(エネルギーロスの小さい)材料が求められています。 当研究室では、錯体化学を基盤として新たな水素貯蔵物質の開発を行っています。


多孔性分子導体(Porous Molecular Conductor)の開発

 分子性導体は低次元電子系に由来する多様な電子状態を持っており、わずかな外部環境の変化で金属が絶縁体に転移するなど、面白い性質を持っています。 これまでは、光・圧力・温度といった外部刺激によって電子状態をコントロールしてきましたが、分子という外部刺激をを与えるとどうなるのでしょうか。 それを知るためには、分子性導体の結晶に、分子がアクセスできる穴を作る必要があります。

 そこで我々は、分子サイズの規則的なナノ細孔を持つ多孔性配位高分子 (MOF) と 分子性導体を融合することで、多孔性分子導体(PMC) という新たな物質群の開発を行っています。PMCは、導電性を支配する「πラジカル」、 d電子由来の機能性を持つ「金属錯体」、それらと分子が相互作用する場を提供する「ナノ細孔」という三要素を持っています。 これらの要素をフルに利用できる新しい構造体の構築と新奇物性・機能の発現を目指して研究を進めています。

PMC

光で機能を発揮するナノ材料や分子マシンの開発

 太陽から降り注ぐ無尽蔵の光エネルギーを活用することは科学者たちにとって最大の課題の一つです。 効率よく光を吸収する錯体や分子は、光エネルギーを用いて様々な機能を発揮することが可能です。 太陽電池や人工光合成、光反応開発などが光を活用した応用例です。当研究室では、光エネルギーを伝達する分子ワイヤや、 光で駆動する分子マシンの開発・応用に取り組んでいます。 これまで発光現象を深く理解することで、ナノスケールでの光エネルギー伝達挙動の解明や、錯体を用いた光電変換、 分子マシンを用いた新しい3Dディスプレイ機構の発明などを達成してきました。 このように、分子レベルで設計された新規ナノ材料の開発・物性開拓によって光の有効活用に貢献します。

nanomat

装置

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