反転対称性の破れた金属Pb2Ir2O7 の物性
空間反転対称性の破れた導電性物質は伝導電子に働くスピン軌道相互作用のため、逆ファラデー効果といった特異な輸送特性を持つ可能性が理論的に指摘されている[1]。また、パイロクロア型イリジウム酸化物A2Ir2O7は、大きなスピン軌道相互作用によりトポロジカル絶縁体やディラック半金属になっている可能性が議論されている[2]。空間反転対称性の破れた導電性パイロクロア型イリジウム酸化物Pb2Ir2O6O’xは、これら二つの性質を同時に満たす、豊かな物性の舞台となる可能性のある物質である。我々は、構造・電子物性を詳細に測定し、空間反転対称性の破れにより生じたキラルな伝導電子に関する情報を得た。
結晶構造はPb2O’とIr2O6の二つのネットワークに分解することが出来るが、構造解析から空間反転対称性の破れが主にPb2O’ネットワークで生じていることが明らかになった。一方、伝導を担うIr2O6ネットワークでは静的な空間反転対称性の破れが小さいにもかかわらず、伝導電子の関与する巨大な第二次高調波発生を観測した。第一原理計算による電子構造の解析から、Pbの6s軌道とOの2p軌道のエネルギーレベルが近いために、Irの5dバンドにO’の2p軌道が強く混成し、キラルな伝導電子が生じることで巨大な第二次高調波が生み出されていることを明らかにした(図1)。
図1: (a) パイロクロア構造、(b) 第二次高調波発生の入射光と出射光の偏光依存性。(c) 第一原理計算により求められた電子構造。Ir 5d軌道(α,β)とO’ 2p軌道に強い混成が見られる。
<参照文献>
- V. M. Edelstein, Phys. Rev. Lett. 80, 5766 (1998).
- D. Pesin et al., Nature Physics 6, 376 (2010), X. Wan et al., Phys. Rev. B 83, 205101 (2011).
- “Mechanism of enhanced optical second-harmonic generation in the conducting pyrochlore-type Pb2Ir2O7-x oxide compound”, Y. Hirata, M. Nakajima, Y. Nomura, H. Tajima, Y. Matsushita, K. Asoh, Y. Kiuchi, A. G. Eguiluz, R. Arita, T. Suemoto, and K. Ohgushi, Phys. Rev. Lett. 110, 187402 (2013).