鉄系超伝導体Ba1-xKxFe2As2のホール効果と特異な電子相の形成

鉄系超伝導体Ba_1-x K_x Fe₂As₂のホール効果と特異な電子相の形成

　組成を精密に制御した鉄系超伝導体Ba_1-x K_x Fe₂As₂の純良単結晶を育成し、面内の輸送特性を明らかにした。多軌道系であるため解釈が難しいことが予想されたが、我々は2バンドのボルツマン方程式により常磁性相のホール係数が良く再現できることを見出した。詳細な解析を通して、電子面の方がホール面より有効質量が軽いが、散乱を受けやすいという特異な結果を得た(図1)。

図1: Ba_1-x K_x Fe₂As₂のホール係数

　さらに、電気抵抗率とホール係数の温度依存性の解析を通して電子相図を構築し、新たに“隠れた秩序相”を発見した(図2)。この未知相は最適ドープ領域の約100K以下で発達し、この温度以下でホール係数が増加から減少に転じると共に、光電子分光スペクトルの12meV付近に超伝導とは無関係の擬ピーク構造が現れる。その微視的起源として、磁気励起などのボゾンと結合した重い電子状態形成を提案している。

図2: Ba_1-x K_x Fe₂As₂の電子相図

<参照文献>

1. “Doping dependence of Hall coefficient and evolution of coherent electronic state in the normal state of Fe-based superconductor Ba1-xKxFe2As2” 
   Kenya Ohgushi, and Yoko Kiuchi, Phys. Rev. B 85, 064522 (2012).
2. “Orbital-Independent Superconducting Gaps in Iron-Pnictides” 
   T. Shimojima, F. Sakaguchi, K. Ishizaka, Y. Ishida, T. Kiss, M. Okawa, T. Togashi, C.-T. Chen, S. Watanabe, M. Arita, K. Shimada, H. Namatame, M. Taniguchi, K. Ohgushi, S. Kasahara, T. Terashima, T. Shibauchi, Y. Matsuda, A. Chainani, and S. Shin, Science 332, 564 (2011).
3. “Variation of Electronic State in Ba(Fe1-xCox)2As2 Alloy as Investigated by Transport Properties”
   Naoyuki Katayama, Yoko Kiuchi, Yoshitaka Matsushita, and Kenya Ohgushi, J. Phys. Soc. Jpn. 78, 123702 (2009).