梯子格子を有する鉄系超伝導体関連物質A Fe2Se3の電子物性
二本足梯子格子を有する鉄系超伝導体関連物質A Fe2Se3 (A = Ba, Cs)を合成し、電気抵抗率・磁化率・反射率・比熱・中性子散乱・メスバウワー分光などのプローブで電子状態を調べた。
どちらの系も低次元系における電子相関効果増大のため絶縁体的挙動を示すが、電荷ギャップは混合原子価状態にあるCsの方がBaより大きいことが判明した。Baでブロック型、Csでストライプ型の磁気秩序を示すが(図1)、それぞれ鉄系超伝導体母物質2-4-5系、1-2-2系の磁気構造に対応している。特に興味深いのは、フェルミ面のネスティングにより誘起されると考えられてきたストライプ型秩序が絶縁体において実現している点であり、混合原子価状態における過剰ホールのリガンドへの束縛、あるいは軌道秩序が関与していることが示唆される(表1)。
図1: A Fe2Se3 (A = Ba, Cs)の磁気構造
表1: A Fe2Se3 (A = Ba, Cs)の比較
Ba | Cs | |
鉄の形式価数 | 2+ | 2.5+ |
空間群 | Pnma | Cmcm |
電荷ギャップ | 0.13 eV | 0.34 eV |
磁気転移温度 | 255 K | 175 K |
磁気構造 | ブロック型 | ストライプ型 |
スピン方向 | ladder面に垂直 | leg方向 |
モーメント長 | 2.8 μB | 1.8 μB |
<参照文献>
- “Block magnetism coupled with local distortion in the iron-based spin-ladder compound BaFe2Se3”
Yusuke Nambu, Kenya Ohgushi, Shunpei Suzuki, Fei Du, Maxim Avdeev, Yoshiya Uwatoko, Koji Munakata, Hiroshi Fukazawa, Songxue Chi, Yutaka Ueda, and Taku Sato, Phys. Rev. B 85, 064413 (2012). - “Stripelike magnetism in a mixed-valence insulating state of the Fe-based ladder compound CsFe2Se3”
Fei Du, Kenya Ohgushi, Yusuke Nambu, Takateru Kawakami, Maxim Avdeev, Yasuyuki Hirata, Yoshitaka Watanabe, Taku J Sato, and Yutaka Ueda, Phys. Rev. B 85, 214436 (2012).