オリビン型硫化物Mn2A S4における多重臨界現象
オリビン型硫化物Mn2A S4 (A = Si, Ge )(図1)はC-type反強磁性体であるが、a , b , c 各方向の磁気異方性が拮抗しているという特徴がある。磁化容易軸であるb軸に磁場をかけると、数テスラ程度の低磁場で、低温ではc 軸方向に高温ではa 軸方向にスピンがフロップする。その結果、磁場-温度相図に、3本の一次転移線が合わさる三重点や、2本の一次転移線と2本の二次転移線が合わさる非自明な多重臨界点が現れる。スピンフロップ相では、磁気対称性の要請により弱強磁性が発生している。そのため、スピンフロップ磁場の小さい最低温とT N 近傍で、静磁化率が増大を示す(図2)。本系は、自然に存在する最も美しい多重臨界現象の舞台の一つである。
図1: Mn2SiS4単結晶。気相成長法により育成した。
図2: Ising型反強磁性体のスピンフロップ相図。(左) 通常の系では、スピンフロップ磁場は、温度上昇と共に単調に増加する。一次転移線(二重線)は、2本の二次転移線(一重線)と共に、bicritical point(BP)で終結する。(右) Mn2A S4(A = Si, Ge)では、二つのスピンフロップ相が存在するため非自明な相図が現れる。多重臨界点1(MP1)では、2本の一次転移線と2本の二次転移線が合わさる(1本の一次転移線と1本の二次転移線が接しているとも言える)。多重臨界点2(MP2)では、3本の一次転移線がぶつかる。SF1相及びSF2相は弱強磁性を伴うため、静磁化率に異常な振る舞いが現れる。
<参照文献>
- “Anomalous Magnetic Properties near the Spin-flop Bicritical Point in Mn2AS4 (A = Si and Ge)” K. Ohgushi and Y. Ueda, Phys. Rev. Lett. 95, 217202 (2005).
- “Spin-flop Multicritical Phenomena in Mn2AS4 (A = Si and Ge)” K. Ohgushi and Y. Ueda, J. Magn. Magn. Mater. 310, 1291 (2007).