シリーズ 青葉山 56  ハウチワカエデ 


 



床の花たちとけんを競うように、樹花も咲き始めた。


暗紅色の小さな花をつけているのはハウチワカエデ。一つの芽の中に花芽と葉芽が一緒に入っているため、顔を出す時期はほとんど同じ。両面を白い毛に覆われた若葉は時節吹く暖かな風の中で、銀色に光っている。


コマルハナバチ(ミツバチ科)が飛んできた。体長は2cmぐらい。ホバーリング(空中停止)をしながら、口器(こうき)を舌のように伸ばして蜜と花粉を食べている*。働きバチ(雌)や雄バチがまだ発生しないこの時期に活動しているところをみると、成虫越冬した「女王バチ」かもしれない。

 

 

(河北新報社提供 初出 1991.4.20)
 


ハウチワカエデ
Acer japonicum Thunb. ex Murray
カエデ科

最上台などの明るい林内にふつう。

*この写真はコマルハナバチが花にとまる寸前に、口器を伸ばし始めた瞬間を撮ったものでしょう。通常ホバリングしながら吸蜜することはありません。また、蜜はなめますが、花粉は幼虫のえさとして集めます。

 野生のカエデの仲間の花の色は紅色系ばかりではなく、黄色や緑黄色の小さな花をつけるもののほうがむしろ多数です。マルハナバチが訪花するというのもカエデの中ではめずらしく、これは花の色のほかに花のサイズがカエデの中では大きいこととも関係があります。ハウチワカエデでは花が咲くとき、雄花→雌花の順に咲く個体と雌花→雄花の順に咲く個体があるともいいます。枝を手に取ったときに調べてみてはいかが。