シリーズ 青葉山 19  オオバジャノヒゲ 


 
白のじゅうたんを敷き詰めたような早朝の林。雪に覆われた植物を踏みつけないように歩いていくと、オオバジャノヒゲを見つけた。

 

(C) Kahoku Shimpo.  

名前の由来になった「ひげ」に似た細い葉は雪の下。わずかに顔を出している花茎(かけい)の先には、雪をかぶった黒紫色の果実のような種子*がついていた。しかし、こうした姿を見られるのもあと数日。周囲の同種は、もうほとんどが種子を落とし、春に新しい命が生まれてくる日を待っている。

 

山林の日陰に生えるユリ科の多年草**。根は昔から、せき止めなどに効く薬草、「麦門冬」としても知られている。

 

(河北新報社提供 初出 1991.2.13)


オオバジャノヒゲ
Ophiopogon planiscapus Nakai
ユリ科
暗い林床にふつう。

* 一見果実ですが、多汁組織は種皮が変化したもの。緑の葉に紫紺の玉(ぎょく)の組み合わせは、彩りの乏しい冬の山や庭の貴重な下生えです。本シリーズでも冬の画題の少なさ(!)を救ってくれています。

** 一まとまりの葉のかたまり(株)は独立しているわけではなく、ストロン(走出枝)で別の株とつながっています。その株もさらに別の…。ストロンが伸びながら株を増やしていきます(栄養繁殖)。ストロンの接続が切れても、それぞれ根も葉もあるから、株は独立して生きていけます。それぞれをラメットと呼び、その集合体がクローンです。

 クローンという言葉、かつては生物学の専門用語であり一般的ではありませんでした。30年ぐらい前から一部の小説の中に見られるようになりましたが、まだマイナーな言葉でした。一気にポピュラーになったのが、ご存じのように97年初めの「羊のドリー」から。このあとに報じられた、ひしと抱き合う「サルのクローン」は生物工学的には意味が異なりますが、心理的インパクトを与えたのはむしろそちらでしょう。(→羊のドリーあるいはポリーについてもっと知りたい方は、つくった本人のぺージへ、あるいはもっと広くこちらへ)。
 なお、バイオテクノロジーでつくられた遺伝的に全く同一の個体群全体についても、個々の個体についても、クローンと呼んでいる場合が多いようです。区別のために、後者はクローン個体と呼んだ方がいいでしょう。

 昔、この植物の個体群から、50cm×50cmの面積を堀り出そうとしたことがあります。ラメットとラメットのストロンのつながりを切らずにすべて完全に掘り出そうとしたのですが、半日かかってあきらめました。がんじがらめにからまりあった根、根、根…。オオバジャノヒゲの地下は無数のストロンと根がからみあったマットのようになっていました。