木の上を、ホンドテンが渡って行った。午前3時、下弦の月がミズキの幼木を照らし、林の中に青白い光が差し込んでいる。白い顔。金色の見事な冬毛だ。
山地性で、樹上の小鳥やリス、ネズミなどを素早く捕らえる肉食獣。えさとなる小動物がいない森では、決して生きることができない。極めて自然に敏感で、警戒心の強い生き物だ。
数百メートル先にはビル街の明かりが見渡せ、街の騒音も聞きとれる丘陵。テンの生息が確認されたことは「手つかずの自然」が脅かされながらもまだ残っていることの何よりの証拠となる。
(河北新報社提供 初出 1991.2.6)