アーカイブアーカイブ|東北大学附置研究所・センター連携体

  1. トップページ
  2. アーカイブ
  3. 研究所若手アンサンブルプロジェクトインタビュー
  4. 沿岸部地域向け避難誘導ドローンの開発

研究所若手アンサンブルプロジェクトインタビュー

沿岸部地域向け避難誘導ドローンの開発 #003

  • 高橋秀幸 Takahashi Hideyuki
    東北学院大学教養学部情報科学科
    准教授(前職:東北大学電気通信研究所 助教)
  • 杉安和也 Sugiyasu Kazuya
    東北大学災害科学国際研究所
    助教
  • 横田信英 Yokota Nobuhide
    東北大学電気通信研究所
    助教
Photo

まず初めに自己紹介をお願いいたします

高橋  2011年4月から2019年3月まで電気通信研究所のコミュニケーションネットワーク研究室に所属していました。現在は、東北学院大学教養学部情報科学科に勤務しています。

杉安  2013年から災害科学国際研究所で学位プログラム担当教員として着任し、現在は変動地球共生学卓越大学院プログラムに所属しています。災害科学国際研究所は、東北大学の中では2番目に新しい研究所で、2011年の東日本大震災の発災後に開設された研究機関です。東北地域はもとより世界各地の災害復興や防災に対して寄与、支援、研究することが研究所の大きな目標の1つです。私は、地域・都市防災の分野から、とくに津波からの避難行動の研究を専門として取り組んでいます。

横田  2014年から電気通信研究所で光通信用の素子の研究をしています。電気通信研究所は光通信の発祥の研究所で、八木・宇田アンテナの発明など世界的な成果を上げている特徴的な東北大学の研究所の1つです。アンテナや通信用の光ファイバーの光源用半導体レーザーなど、電波や光などを用いた通信用のハードの技術に強い研究所で、それを応用した人間同士の円滑なコミュニケーションやロボットと人とのコミュニケーションなどのソフト面、さまざまな情報のコミュニケーションに関わる研究を行っている研究所です。私は主に、光通信を意識して研究していますが、光通信用の素子を違う分野のセンサーなどに応用する研究にも興味を持っています。

アンサンブルプロジェクトを知ったきっかけは?

高橋  横田先生から情報系の分野は割と領域が広く、異分野の研究者とのコラボレーションにも繋がる可能性が高いのではないかと誘われて、第2回アンサンブルワークショップにポスターを出展したことがきっかけです。

杉安  僕も、最初は災害研のアンサンブルプロジェクト担当委員の先生からアンサンブルワークショップに誘われてポスターの展示をしました。そのとき高橋先生の研究を知って興味を持ち、お声がけしたのがきっかけでした。

横田  プラン先行というより研究仲間同士が知り合って、それぞれの研究テーマで何ができるだろうかと考えて、アンサンブルグラントに申請したというのが、そもそも3人で研究を始めたきっかけですね。

Photo
写真左から:杉安和也助教、高橋秀幸助教、横田信英助教、笘居高明准教授(多元物質科学研究所、WGリーダーとして取材に同席)

チーム編成の経緯を教えてください

高橋  杉安先生は出張が多くお忙しそうだったので、最初は、メールベースでの相談から始まりました。

杉安  その節は大変お手間をおかけしました。災害研は被災地の復興・防災支援のため、フィールドに出る機会に恵まれている研究所なのですが、例えば昨年の台風19号で被害に遭われた福島県いわき市は、我々のアンサンブルプロジェクトで主たるフィールドとしている地域です。採択が決まった後はキックオフミーティングをして、月1回のペースで集まっていましたね。 10月に開催された気仙沼の合宿研究会で、構想発表をしなければならなかったので、そこでゴールをどうするかという話し合いを密に持ちました。だから、あの合宿がなければダラダラとやっていたかもしれませんね。

共同研究の成果や苦労話について教えてください

杉安  研究タイトルのとおり「沿岸部地域向けの避難誘導開発」の手段として、ドローンが使えないかという検討から始まりました。それまで、災害現場でのドローン活用は、地震や津波などの被害状況を把握・評価するダメージアサイメントの手段として、すでに活用されていましたが、これは被害が発生した事後の場面に限定された活用でした。
 そこで、地震の発生直後から被害を及ぼす要因(津波)が近づくまでの緊急対応(避難行動)しかできない事前の時間帯に、ドローンを活用できる余地があるのではないかという思いがありましたが、プログラミングや新しいパーツの開発などの知見が、僕にはまったくなかったため、そこは高橋先生と横田先生から解決策を出していただきました。
 3人で集まりながら、ドローンで避難誘導するための検討に入り、小さなドローンを避難者に対して見つけてもらいやすいように看板をつけることにしました。それから、ドローンで避難者を安全なところまで誘導する。これは高橋先生が主体となって進めていただきました。また、ドローン側から避難者を見つけやすくするための手段として、携帯電話から可視光線を出して認識させる。これは、横田先生の研究分野として研究していただきました。

高橋  比較的安価な小型のドローンが市販され始めた時代からドローンを利用した研究は行っていました。当時、利用していたドローンは、屋外では風に煽られるなどの危険があり、屋内での使用がメインでした。情報系の分野の研究者の間では、徐々に同じようなドローンを使用する方が増えていましたが、僕自身は、比較的安価なドローンの性能や安全性に限界を感じ、ドローンを扱う研究から少し疎遠になっていた頃でした。杉安先生と議論を行い、高価ですが屋外でも安定して飛行可能なドローンが市販されている状況も踏まえて、屋外の使用に耐えうるドローンであれば杉安先生の考える災害対応にも利用できるのではないかと思い、災害時に利用できそうな機種選びの検討を行い、アンサンブルプロジェクト予算のすべてをほぼドローンの購入に充てました。
 また当時は、屋外で、しかもドローンで可視光を活用するという前例がなく、横田先生による屋内での可視光による避難誘導の研究テーマをヒントに、可視光を用いたドローンによる避難救助にもチャレンジすることにしました。

横田  最初は、高橋先生と杉安先生で取り組んだ方が良いのではないですかと言いました。ただ、自分がグラント申請をお勧めした手前、自分の研究分野が生かせるのであれば参加しようと、アイデアを考えました。可視光を使った情報通信というのは実例がほとんどないし、災害が発生した特殊な環境下で、高価な装置を使わずにスマートフォンのようなその辺であるもので、しかも可視光でやる、というように色々条件が揃ってくると、研究として面白いテーマになる。それなら関わることができるだろう。ということで可視光の活用というキーワードが出てきました。

笘居  ファーストステージはどこまで進んだのですか?

高橋  屋外でドローンを自動で制御できる段階までです。僕は、複数のドローンが避難所まで自律的に避難誘導できるようなマルチエージェントシステムを考える。ファーストステージでは、人間が手動で操作せずに、自動で離陸を行い、指定した場所まで飛行して離陸するところまでができるようになりました。また、実際に被災地のいわき市でドローンの飛行実験や誘導看板をドローンに取付ける際の課題整理などを行いました。

杉安  誘導看板をドローンに搭載できるよう避難の目印にするコンセプトはできあがりました。後は、その看板の形状・デザインなど、搭載するための具体的な検討を進めていきました。実際はそこからが大変で、空気抵抗を受けにくく、一方で避難者には見えやすくするには看板を大きくしなければならない、しかし、大きすぎると安定して飛行できないという試行錯誤が続きました。

横田  屋内での実証試験を通して、情報伝達が可能なことは分かりました。しかし、高価な装置を用いないという制約があるので地図のような大きなデータまでは扱えないという知見も得られ、まだまだ問題山積という段階でしたね。

笘居  グラントのファーストステージでは、最初に考えたアイデアが実現できそうだというところまでは見えてきたということですね。ファーストステージの成果を発展させるセカンドステージの申請では一旦不採択となり、その後再応募して採択されたという経緯がありますが、その間も活動はされていたのですよね?

高橋  ファーストステージの直後は、本プロジェクトを継続するための予算が全くありませんでした。しかし、各自研究を継続していて、アンサンブルグラント以外の予算の申請も積極的に行なっていました。ファーストステージへの申請直後の段階から、杉安先生、横田先生とこの研究テーマは科研費にも応募できる内容ではないかと考え、10月の採択発表までの間に、学外の先生も含め参画者を募り、科研費の基盤Bに挑戦しました。(平成30年度に科研費 基盤研究(B) 特設分野採択)
 ファーストステージ直後(翌年度)のセカンドステージの申請は不採択でした。本プロジェクトの内容は、各自の研究テーマの延長線ではなく、継続するための予算もなく困っていたのですが、僕の場合は、年度途中から情報科学研究科の予算のお陰で、実証実験でいわき市に行くための出張費など最低限の予算が工面できるようになり、杉安先生も所属先の関係で出張費程度はなんとか工面できる状況となり、運良くプロジェクトを継続することができました。

杉安  当時、僕の所属していた大学院は、災害対応の支援活動も取り組みの一環としてあったので、そこからご支援をいただきました。それから、2016年11月に発生した福島県沖地震の際、津波警報が出たにもかかわらず避難しなかった人や、避難に車を使った人がいたことで、もう一度リスクコミュニケーションについて研究し直そうという機運が高まり、僕の所属する学会からも活動費をもらうことができて、僕自身はもちろん横田先生にいわき市に来ていただくための旅費もそこから捻出できました。

横田  私はそもそもお金のかからない研究課題でしたので、あまり影響なく進めておりました。

笘居  いわき市の防災訓練にも参加されていましたよね。ドローンによる避難誘導は実施したのですか?

高橋  防災訓練とドローンの飛行実験、試験的な新しいドローン活用の試みについては同時並行的に実施していますが、現段階では、安全性を最優先にしているため防災訓練時にドローンによる避難誘導を導入するところまでは出来ていません。なお、ドローンの機種選択の際には、標識を搭載できる性能や飛行距離、飛行時間などを検討した上で選定していますが、ドローンを用いた防災訓練については、経験やノウハウもない状態から始めているので、制御不能や墜落等をはじめとする不慮の事故への不安が常にあり、近隣住民の方にご迷惑をお掛けしないように細心の注意を払って実施しています。
 ドローンの制御に関しては、標識を取り付けると風に煽られて荷重が変化し、飛行が不安定になるといった問題もあり、今後解決すべき課題がまだたくさんあります。

杉安  僕たちのフィールドである福島県いわき市薄磯地区は、人口集中地域指定を受けていないのと、沿岸部に以前あった街並みが津波で被害をうけ、集団移転をした地域なので、法的にも地理的にもドローンを運用しやすい地域でした。
 また、最初から避難訓練にドローンを使ったわけではなく、訓練と同時平行で行っているうちに徐々に住民の方々に興味を持っていただき、ここ2回くらいは消防団の方々の協力も得ながら、避難行動に関する本格的な実証実験ができるようになりました。
 このあたりは、工学の分野というよりも、むしろ社会学の分野になってきます。地域コミュニティとの関係醸成が必要ですからね。ドローンの活用を検討しはじめる機運まで持って行くことができたのでうれしく思います。

横田  防災訓練の参加者以外の方々もドローンの存在に気づいていましたので、ドローンには注意を引きつける効果があると感じられました。

笘居  地域との連携が図れたのは、杉安先生の地域連携基盤のおかげですね。

このプロジェクトからいろいろ派生した取り組みを教えてください

高橋  たまたまテレビ局からドローン関連の取材を受けて、僕たちの取り組みを紹介したところニュースで取り上げていただきました。そのとき同時に放送されたのが、(株)空むすびさんでした。その後、直接連絡して連携を図ることになりました。同じドローン防災繋がりで、地元仙台を拠点とする者同士で連携も図りやすく、うまく行けば宮城県や東北にも貢献できるということで、「産学官連携フェアみやぎ」や「みやぎ地域連携マッチング・デイ」に共同出展や補助金の事業へ応募するなど、今も継続して連携を図っています。

横田  企業と連携することで、利益を得ることも想定した新しい研究課題が生まれたように思います。

杉安  あと、ICT分野の国際会議に、僕たちが中心となり防災・減災をテーマとしたセッション企画を提案し採択されました。

高橋  たまたま開催地が日本で企画セッションを募集する国際会議があり、特別な費用も掛からないことから2人に相談して企画・申請を行うことになりました。理系・文系を問わず実践的な防災・減災をテーマとした企画が新鮮だったようで、多くの論文投稿があり、開催当日も早朝のセッションにもかかわらず、参加者の多いセッションとなりました。セッションの発表でも実際の現場での活用を目指した研究が多かったため、そして、現在、様々な大規模な災害が発生しているため、多くの方に興味を持って参加していただけたのではないかと思います。
 もし、杉安先生、横田先生とのコラボがなければ、現在も実験室内でのみ実施可能な研究テーマに取り組んでいただろうと思います。実際の実証実験フィールドに出て現場を知ると、実験室レベルでは想定外の課題に直面したり、実用に耐えうるシステムに仕上げるのがどれほど難しいかということを実感できます。また、現場にも行く機会も増えて、現場の方々との意見交換や現場を知ることの大切さも改めて認識させられました。

笘居  従来に無いセッションを立ち上げたということは、とても意義深い成果ですね。そのシンポジウムでは、横田先生が学会賞を受賞されたのですよね。

横田  あれも、防災という物珍しいトピックが入って、色々な人に刺激になったということもあるのではないかと思っています。

杉安  横田先生は謙遜されますが、国際会議に投稿された666件の中の上位2位に入ったわけですから、すごいことだと思います。

高橋  このように僕らの取り組みが注目されたのは、これはあまり良いことではありませんが、近年、未曾有の災害が増えていることも一因かなと思います。

杉安  先の東日本大震災は、低頻度大規模災害といわれる1000年に1度程度の頻度ながら、発生すると大きな被害をもたらす災害でした。ところが近年、地球温暖化の影響等もあり、大型で強い勢力を保った台風が、勢いを衰えさせることもなく、そのまま日本列島を縦断するような状況も生じています。これはいわば多頻度大規模災害ともいうべき現象なのですが、地震・津波に限らず、大雨・台風・洪水のような水害や、火山噴火、あるいは今ニュースをにぎわせているコロナウイルスなどを含めてもいいかもしれません。私たちの周辺には様々な災害に見舞われる可能性が内在しておりますが、その発生をコントロールすることは困難です。大切なのは、そのような多様な災害に見舞われたとしても、各々で柔軟に対応し、元の生活に帰還できるような準備をしておくこと、いわゆるレジリエンス力を高めてこくことが重要なのだと思っています。

プロジェクトに対する感想をお願いします

高橋  アンサンブルワークショップや合宿形式の研究会などを通じて、普段の学会発表等では交わることのない異分野の様々な研究者や外部の方々とも交流の機会を得ることができました。特に、合宿形式の研究会を企画・開催いただいたことによって、共同研究のきっかけ作りという観点だけでなく、同じ東北大学で研究に励む研究者同士の交流が深まり、若手研究者同士の団結力も強まったように思いました。現在もアンサンブルワークショップで知り合った研究者を中心に交流の輪が広がっています。多忙な中で様々な企画・運営を行っていただいている研究所若手アンサンブルプロジェクトWG委員の皆様には感謝の念に堪えません。

杉安  僕だけでこの研究を続けていたら、おそらく現場と研究室との往復に終始して、ドローンを使う発想はできても技術的に実現することは難しかったかもしれません。また、研究者や企業関係の人との連携もうまく図れなかったのではないか思います。
 今、福島県いわき市の災害対応に関する委員会活動を2つほど担当させていただく機会にも恵まれました。このプロジェクトの取り組みに注目していただいて、行政からご相談をいただく機会も増え、自分の活躍の場がさらに広まったと実感しています。

横田  私はアンサンブルプロジェクトの委員を担当させて頂きましたので、研究分野が全く異なる非常に多くの先生方と知り合う機会が得られましたし、異分野融合研究がどのように生まれ、発展するのかを身近で知ることができました。また、共同研究の立ち上げに加わることを通じて、プロジェクト活動にも良いフィードバックを与えられたように思います。

  • 高橋秀幸
    高橋秀幸 Takahashi Hideyuki
    東北学院大学教養学部情報科学科 准教授(旧東北大学電気通信研究所 助教)
    東北大学大学院情報科学研究科修了。博士(情報科学)。東北大学電気通信研究所産学連携研究員・教育研究支援者、助教を経て、2019年度から現職。専門は、マルチエージェント、ユビキタスコンピューティング。特に最近は、IoTや防災・減災向け情報システムの研究開発に取り組んでいる。
  • 杉安和也
    杉安和也 Sugiyasu Kazuya
    東北大学災害科学国際研究所 助教
    筑波大学大学院システム情報工学研究科修了。博士(社会工学)。非常勤研究員を経て、2013年から現職。専門は地域・都市防災。国内外の津波、台風等の被害・復興調査に従事。福島県いわき市にて、総合防災訓練の運営支援・監修、台風19号における災害対応検証委員会 副委員長を担当。
  • 横田信英
    横田信英 Yokota Nobuhide
    東北大学電気通信研究所 助教
    奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科修了。博士(工学)。2014年から現職。光デバイスとその通信応用に関する研究に取り組んでいる。