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研究所若手アンサンブルプロジェクトインタビュー

アンサンブルプロジェクトでの人工臓器の研究開発 #002

  • 井上雄介 Inoue Yusuke
    東北大学加齢医学研究所
    助教
  • 山田昭博 Yamada Akihiro
    東北大学加齢医学研究所
    助教
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まず初めに自己紹介をお願いいたします

井上  まず加齢医学研究所(加齢研)の紹介から始めます。加齢研の前身は、抗酸菌病研究所で結核を対象とした研究所でした。現在は、生まれてから老化して死ぬまでの全領域を対象としています。研究所のテーマは、脳機能グループ、心臓病グループ、遺伝子なども扱う細胞グループ、そして癌グループの4つに分類できます。私は加齢研に入所して5年目で、メインの研究テーマは人工心臓を主体とした研究です。人工心臓ポンプの開発は世界的に完了しつつあり、今は人工心臓を使っている患者さんの合併症に対応する研究を行っています。人工心臓と生体の間の接合部での不具合や、長年にわたり人工心臓を使っていると血液が壊れてくるなどといった課題を研究テーマとしています。

山田  私は、大阪工業大学工学部生体医工学科を卒業後、2010年に東北大学医工学研究科の修士課程に入学し、加齢研の山家研に配属されました。そのときから行っている研究が、子供用の先天性心疾患のための人工心臓の開発です。普通の人工心臓と違う点は、血液ポンプではなく人工筋肉を応用している点で、新しい形の血液循環サポートデバイスです。
 血液循環サポートデバイスに関しては、その開発が研究所連携に支えられてきた側面があります。アンサンブルプロジェクトが開始される前の附置研究所の連携プロジェクトで、僕の研究の前身となる人工心筋デバイスの研究開発が行なわれていました。形状記憶合金で心筋収縮をサポートするというテーマで、加齢研の山家先生と熱流体を専門とする流体研の圓山先生との連携です。このアクチュエータ自体は熱で動きます。温めたり冷やしたりしないと動かないので、研究当初は入熱と排熱部分はペルチェ素子を使っていました。ペルチェ素子の制御方法について、熱の専門家である圓山先生にご協力いただき、研究を行っていたという経緯があります。今はペルチェ素子ではなく、アクチュエータに直接電流を印加し収縮制御をおこなっています。

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写真左から:山田昭博助教、井上雄介助教、
笘居高明准教授(多元物質科学研究所、WGリーダーとして取材に同席)
鈴木一行特任准教授(学際科学フロンティア研究所、WG前リーダーとして同席)

チーム編成の経緯を教えてください

笘居  井上先生は代表として数課題、アンサンブルグラントに採択された経験がおありですが、それぞれの課題を伺っても宜しいでしょうか?

井上  まず一つ目ですが、当時、材料の機械的強度を計測したかったのです。僕の開発している材料は堅い物質とか金属的な材料ではなく、人工的な繊維の布と生体組織の両方が入ったようなちょっと変わった材料だったので、通常のやり方では強度試験ができませんでした。そのため、生体のことを知っていて材料力学的強度評価もできるような先生を探して、アンサンブルのワークショップに行きました。その時、流体研の小助川先生が材料の発表をされていて、それも生体に親和性の良い蚕からとれる絹の糸の材料評価と、カーボンファイバーとが混じった材料の評価をされているという内容でした。そこで、ぜひ一緒に新しい材料の評価をしてくださいとお願いをしました。

笘居  井上先生側のニーズに対してパートナーを探していたところ、アンサンブルを通じて流体研の小助川先生と知り合ったということですね。その後、グラントへの申請が採択され、プロジェクトからのサポートを受けて、共同研究が開始されたわけですが、目的の強度試験はできましたか?

井上   はい。生体材料、高分子材料、ハイブリット材料という3種の材料を比較した結果、僕らの材料が一番良いということが分かりました。この共同研究は、論文化もでき、強度評価に貢献していただいた小助川先生にも、もちろん共著で入っていただきました。
 もう一つは、センサーの組み合わせと複合材料の元となる人工材料を変更する手法です。ハイブリッド材料は優れた特徴をもっていましたが、作製時の歩留まりが30%くらいと悪かった。その歩留まり率を上げるため、僕が作っているハイブリット材料を改良するという内容で、高分子材料を研究しておられる甲斐先生(現AIMR助教)との共同研究に展開し、最初のグラントの採択を頂きました。僕は、これまで布系ポリエステルを足場として使っていましたが、いまいち成果が良くなかったので、甲斐先生の手がけられている生体に埋め込むことができる多孔質のポリマー材料をご提案していただいた。そして、それを何十種類も作っていただき、それを僕が生体適応性を評価しつつ第1ステージが終わって、第2ステージではさらに血糖センサーと組み合わせて、体内に埋め込んだときに血糖値がどれくらい測れるか、またその寿命を評価しました。これもよい成果が得られ、材料としては2本の論文ができています。センサーの方はまだ論文を書いているところですが、今JSTから年に1000万円ほど予算をいただいて研究を継続しており、今後の発展性も期待できるテーマだと考えています。

笘居  もともとは機械と生体をつなぐ生体親和性材料の開発がメインだったと思いますが、血糖センサーというのは、どちらから出てきたアイデアだったのですか?

井上  両方ですかね。共同研究は人工心臓との接合部の材料開発として開始しましたが、僕は、体内で血糖を長く測れるセンサーを作っていましたし、甲斐先生は体表からアプローチして血糖を測るセンサーを作っていました。たまたま血糖というテーマが一緒で、それが融合して良い感じになったということですね。

笘居  次に山田先生はいかがでしょうか。

山田  循環補助デバイスの研究は、その後加齢研が主導でおこなってきましたが、テーマが大人用の人工心筋から小児用の循環補助に変わって、デバイス開発を進める上で熱の放出が問題になってきた。そこで、困っていたときアンサンブルのワークショップに参加して、岡島先生と出会いました。当初、岡島先生は圓山先生のところの研究者だとは知りませんでした。たまたま熱の課題を解決するために相談をしていたところ、元々同じプロジェクトを進めていた教授の門下生同士だったということでした。

笘居  子供の心臓の補助になるようなデバイスですね。これは形状記憶合金を使っているから、熱の流れをちゃんとコントロールしなければならないということで、熱の流れを解析できるプロフェッショナルを探していたところ岡島先生と知り合った。でも、実はアンサンブルプロジェクトの前からやっていた共同研究に近かった、と。

山田  元の鞘に戻った形ですが、若手同士が知り合ったきっかけはアンサンブルプロジェクトです。

笘居  これは、成果としてはどこまで行ったのですか?

山田  まだ論文化には至っていませんが、これまでの研究でよい成果が得られており、科研費助成もいただいています。また、新しい体内埋め込み型の人工臓器を開発している別の研究テーマで、その熱の解決につながるかもしれないと注目されています。

笘居  冷却に関しては、体内デバイス全般の課題でしょうから、同じアプローチで解決できるのではないかということですね。

山田  あとは、別のテーマで流体研の早川先生とレーザー技術を応用した研究をしました。早川先生は、爆発や燃焼などの高圧高速の燃焼場で、流れの早い領域を非接触で解析・計測するという技術を持っている先生ですが、それを生体情報に応用できないか、と。流れという意味では体内を流れる血流も同じなので一緒に研究を進めてみましょうか、という話になりました。当初思い描いていたような成果は出ませんでしたが、チャレンジングな取り組みを支援してもらったのは有難かった。

笘居  今は、岡島先生をヘッドとして、新たなプロジェクトが進行中ですよね。

井上  これも良いテーマです。実際に人工心臓を作っているメーカーと岡島先生と我々で共同研究が始まっています。明確に成果がこれから出てくると思いますね。

共同研究の成果や苦労話について教えてください

井上  学内とはいえ、青葉山と片平と星陵と、研究所の連携は場所が離れているので、お互いに行き来しなければいけないのは大変です。でも打ち合わせを定期的にやるように心がけました。研究の進捗に応じて打ち合わせをするのではなく、定期的な打ち合わせ日程を先ず決めた。そして、研究をそれに合わせていくというふうにやっていきました。

山田  全く知らない者同士なので、どのような実験施設で何を研究しているのかイメージがつかめない。それぞれの実験設備を見学してお互いを知るために行き来して、理解を深めていきました。

笘居  データのやりとりだけでなく、研究現場でのコミュニケーションも重要視されていたということですか?

井上  そうですね。作製上のプロセスが分かっているから、後にどの程度までなら変更できるといったリミテーションが分かる。大事なことですね。

山田  無茶な注文がなくなるから。お互いにストレスがないことも利点だと思います。

笘居  確かに他の仕事もたくさん抱えて、独自の研究もある中で、スケジュールありきで研究をすすめることは良いのかもしれないですね。

山田  費やせる時間というのは限られていますからね。

アンサンブルプロジェクトに対する感想をお願いします

山田  アンサンブルプロジェクト以前にも、附置研究所の連携プロジェクトがあり、そこに参加したこともありました。当時学生だったので細かいことは覚えていませんが、シンポジウムがあって、各研究所からの口頭発表があったと思います。当時は若手中心ではなくて、教授の先生方が中心に活動されていたイメージがあります。5年前に始まったアンサンブルプロジェクトから、完全に若手が主体になり、グラントが始まったり、若手中心のワークショップが開催されたり、方向性が大きく転換しましたよね。

笘居  最初は鈴木先生を委員長として、若手の共同研究をエンカレッジするために何が出来るだろうと、私含め当時の委員たちでかなり密に話し合いました。グラントや合宿形式の研究会などは、その中で出てきたアイデアです。2年前から委員長を引き継いでいますが、私個人としては、このアンサンブルプロジェクトを通じて、いろいろな研究所、研究分野の人と知り合うことができました。得がたい経験をさせてもらったと思っています。みなさんはどうでしょうか?

井上  本当にそう思いますね。僕は、北海道大学と東京大学にもいましたけれど、自分の研究分野外の人と知り合って交流できたことは、東北大学以外ではありませんでした。この5年間で人脈の幅がすごく広がったし、特に流体研のように、自分が学んでいないことがまだまだ世の中にはたくさんあることを知って自分の知識の幅も広がったと思います。

山田  テレビで見聞きする程度の話題でも、実際に研究している人の話であればなるほどと聞けるし、たとえそれが研究につながらなくてもおもしろいと思いますね。私もプロジェクトの委員として活動していましたが、委員会のついでに他の研究所の施設を見学に行くのが、工場見学みたいで面白かったです。特に、流体研の大型の実験装置やサイクロトロンなど、普段なかなか見ることができない大きな実験施設に感動しました。加齢研の見学では、動物実験用の手術室に皆さん、興味を惹かれていたようですね。

鈴木  ミーティングするにしても、ただ打ち合わせだけではモチベーションがあがらない。そこに行った先の研究所の見学が加わるとプラスアルファがあって、行ってみたいとなる。

笘居  人が分かって、その人がいる場所のことが分かると、少し離れた分野でもその研究のことがより深く分かるようになる。「こんな研究している人いない?」と聞かれたとき、パッと答えられるのはプロジェクトを通じて得た、生きた人脈かなと思います。

鈴木  私の所属する学際研でも、若手の先生の中には、専門外の人たちと話して何になるのかという雰囲気が無いわけではない。でも、もしかしたらその中に、将来の共同研究のパートナーやもっと大きな枠組みを一緒に作っていく先生がいるかもしれない。自分の分野だけで育った人よりも、幅広い人と付き合ってきた経験が、将来役に立つだろうということを、たまに話します。アンサンブルプロジェクトについても、同じことが言えますよね。

井上  とても良いプロジェクトだったと思います。研究費が付いたことで、真剣に研究に取り組むことができた。今後もプロジェクトの継続と発展を期待しています。

山田  研究者ネットワークは財産だと思いますし、プロジェクト委員をするとより広がりやすいと感じます。運営側にも積極的に参加してほしいですね。

  • 井上雄介
    井上雄介 Inoue Yusuke
    東北大学加齢医学研究所 助教
    東京大学大学院医学系研究科を2011年に修了し、博士(医学)を取得。東京大学医学系研究科および、工学系研究科特任研究員を経て2015年より現職。専門は生体医工学、循環生理学、材料工学。人工心臓を基軸として、微小循環への影響、生体と機械のインターフェースとなる材料開発、せん断による出血合併症を研究対象としている。
  • 山田昭博
    山田昭博 Yamada Akihiro
    東北大学加齢医学研究所 助教
    東北大学医工学系研究科を2015年に修了。博士(医工学)。日本学術振興会特別研究員、加齢医学研究所博士研究員を経て2016年より現職。専門は医工学、電気工学。小児先天性心疾患と人工心臓を基軸として、臨床応用を目的とした医療機器開発、大動物実験、非臨床試験をテーマとして研究を行っている。