本研究室では、学際的アプローチにより新しい微小材料システムを創出することを目指した研究を行っている。具体的に、マイクロ/ナノ材料が有する優れた物理的諸特性を十分に活用するために、ジュール熱を用いた金属細線等の接合・切断手法を開発している。金属細線同士の接触部に一定直流電流を付与した際、接触部はジュール熱により局所的に溶融し、その後、同部は自発的に凝固する。この現象を支配する因子を発見することにより細線同士を高確度に接合することに成功している(図1)。またジュール熱を利用した金属細線の省エネルギー熱処理手法を開発して結晶組織を制御している。さらに当該ジュール熱接合・切断手法を活用して、電極チップ上に極微小電磁気素子として機能する自立型マイクロリングを作製する等、細線等の素材から新しい微小材料システムを創出することに取り組んでいる。
金属薄板/細線に熱電機能を付与する研究を行っている。一部以外を電気的に絶縁した鉄薄板にアルミニウム薄膜を蒸着して異種金属界面を形成することで、薄板の長手方向の温度勾配に起因して発電する独自の薄板型熱発電機を作製すると共に、当該異種金属界面の酸化により性能が向上することを見出している。また同様の原理に基づく、熱電マイクロワイヤを作製することにも成功している。
水と被検査物との間に高分子薄膜等を挿入し、薄膜と被検査物との固体接触界面に圧力を付与した状態で高周波数超音波を高効率に伝達する独自のドライ超音波法を開発し、これにより電子部品の水非接触下における高分解能内部可視化に成功している(図2)。さらに当該超音波伝達系等で生じる音響共鳴を利用した各種超音波材料評価手法を開発し、高分子薄膜や塗膜の検査に応用している。
微細材料から次世代材料システムを創出するには、これら材料の物理的諸特性を正確に把握する必要がある。機械的特性評価に関して、極微小力を計測する荷重センサを試作して金属極細線等の材料試験を実施している。また周期的な磁場変動により材料表面層に流れる渦電流を利用した渦電流顕微鏡法や、マイクロスケール電位差法により、微細材料の電気的特性を評価することに成功している。
長期に亘り成長する毛髪や爪は様々な情報を記録しており、これらの物理的諸特性は今後様々な分野で活用される期待が大きい。機械的特性の一例として、毛髪や爪の外形寸法によらない曲がりにくさを表す指標を提案して様々な処理や含有金属イオン量の変化が毛髪や爪の曲がりにくさに及ぼす影響を評価することに成功している。また毛髪の形状を決定づける因子の解明に取り組んでいる。
本研究室では、熱可塑性樹脂、炭素繊維やナノフィラーを含有した熱可塑性樹脂複合材料およびそれらのリサイクル材の物性評価や先端計測(物性・構造を観る)およびシミュレーションを利用した新材料の設計と、それに基づく新材料の創製を網羅する循環材料設計学を構築・開拓し、グリーンマテリアルシステムの創成に向けた研究開発を行っている。3D積層造形による付加製造や異種材料への直接接合を進めることで、切削・接合工程の削減が可能となる。また、素材のリサイクルを考慮した材料設計も重要であり、NanoTerasu等を利用した放射光計測により、熱可塑性樹脂の溶融・固化による材料劣化挙動の理解を進める。これらの研究を通して、プラスチックのライフサイクルを作り替え廃棄やロスのない部材で資源循環できる仕組みを構築し、循環型社会形成に向けた取り組みに貢献していく。
3Dプリンタを用いた樹脂、金属、複合材料の造形技術により、高強度・高剛性な材料が短時間で立体造形できる。本研究では、金属基板上に炭素繊維/熱可塑性樹脂複合材料を直接造形したハイブリッド材料を開発し、接着剤を使わずに高い接着強度を発現させることに成功している。金属基板の3D造形や表面化学修飾による化学的・物理的相互作用の制御についても検討している。
無機材料と接着剤(熱硬化性樹脂)との界面強度を、新規に開発した接着強度試験法と有限要素解析により評価することに成功している。接着基板の凹凸形状による物理的相互作用の影響についても検討している。また、この評価手法を熱可塑性樹脂複合材料/金属ハイブリッド材にも展開し、異種材料間の接着・剥離メカニズムの解明を目指している。
製造業の再生プラスチック使用量に目標設定・使用実績の報告義務化が進められており、高品質な再生プラスチックの需要が急速に高まっている。本研究では、物性評価や放射光X線計測により再生プラスチックの物性・構造が変化するメカニズムを観て理解し、分子シミュレーションを活用しながら劣化抑制や機能性付与を志向した新材料の創製を目指している。
熱可塑性樹脂を母材とした繊維強化複合材料の高効率リサイクルの実現に向けて,リサイクル工程を繰り返すことに伴う母材樹脂の物性・構造、繊維の長さや配向分布の変化を、赤外分光法や放射光X線回折・CTによって評価する。ここで得られる数値データをシミュレーションに入力して複合材料の力学特性を解析することで、樹脂や繊維の劣化に伴う力学特性発現メカニズムを明らかにする。