フォトニックデバイス工学 北村研究室 東北大学大学院工学研究科 電子工学専攻物性工学講座

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研究内容

光を自由自在に操る光ナノ構造:フォトニック結晶の技術をベースに、ScienceとEngineeringの両方から光の真理を探究

ベクトルビーム・光渦ビーム光源の開発

 顕微鏡や光記録、レーザー加工などにおける分解能・感度・精度の限界は、焦点の大きさや、焦点深度、焦点での光と物質の相互作用で決まります。一般的なガウシアンビームを集光した場合、その焦点は、1波長程度の大きさを1波長程度の空間にしか形成できません。そこで、ビーム断面内で円周方向に空間的な偏光分布を有するベクトルビームが注目を集めています。

 径偏光ビームと呼ばれる、ビーム断面内で放射方向に電界の偏光の揃ったベクトルビームに着目すると、集光した際に、ビーム進行方向に偏光した成分が光軸上に強め合います。ビーム形状を、ドーナッツ形状から狭リング形状へと制御すると、このビーム進行方向に偏光した成分のみを取り出し、「長焦点深度・微小集光(半波長以下の集光点を形成しながら数波長に亘ってボケない)」が実現します。北村らは、これを世界に先駆けて理論提案・実験実証しました。また、このような新奇集光特性を形成する径偏光・狭リング形状ビームを、外部光学素子を用いずに、単一素子で出射する新たなフォトニック結晶レーザーを発明しました。

 そのほかにも、フォトニック結晶レーザーのフォトニック結晶の設計や面発光特性の利用により、様々な空間的な偏光分布、位相分布を有するビームを、単一素子で生成することに成功しています。このような光の物理量が空間的に高度に制御されたビームを単一素子で得る研究は、世界的に見ても大変ユニークな研究で、幸いにも、国内外の多くの研究者により引用いただいています。

 更なる発展研究を、2024年度より科学技術振興機構 創発的研究支援事業のもとに遂行予定です。

歪フォトニック結晶による新奇光伝搬

 光(電磁波)の伝搬は、透明な媒質中において屈折率により制御されます。そのため、媒質内での光の操舵は、レンズに代表されるように、空間的な屈折率分布によって行われています。誘電率と透磁率の双方を制御することにより、任意の屈折率を実現可能な人工構造体は、メタマテリアルとして盛んに研究され、負の屈折や光学迷彩(クローキング)などで一世を風靡してきました。しかし、狭義のメタマテリアルは、透磁率を制御するために、一般にサブ波長の共振器からなり、金属などの損失の大きな材料によって構成されています。一方で、フォトニック結晶は、2種類以上の異なる誘電体から構成される光の波長程度のナノ周期構造であり、その周期的な誘電率(格子点)配列が光に対するバンド構造:フォトニックバンド構造を形成します。そのため、フォトニック結晶内を伝搬する光の方向は、フォトニックバンド構造よって決定する光の群速度ベクトルの方向となります。

 北村らは、フォトニック結晶を構成する格子点に対して、連続的かつ格子周期の数%以下のわずかな変化を与えた「歪フォトニック結晶」を提案しました。この歪フォトニック結晶面内では、光を入射すると、平均屈折率が一様であっても、歪方向とは逆の方向に光の軌跡を曲げたり、蛇行させたりすることができます。また、この現象を微分幾何学の観点から考察すると、通常のフォトニック結晶が平坦な空間であるのに対して、歪フォトニック結晶は歪んだ空間であると捉えることができます。一般相対性理論は、「光は曲がった空間の測地線を進む」という原理に基づいていることから、測地線方程式を解くと、その光軌跡に良い一致が見られます。つまり、歪フォトニック結晶は、光に対して、疑似的な重力を与えているといえます。

 このような歪PCを用いた光軌道制御に関する研究を、2020年度‐2023年度より科学技術振興機構さきがけ「トポロジカル材料科学と革新的機能創出」のもとに遂行しています。

フォトニック結晶レーザーにおけるCyber-physical Systemの構築
(京都大学野田研究室との共同研究)

 フォトニック結晶レーザーの作製プロセスに多くのノウハウが存在します。その作製過程における格子点3次元形状を高精度にモデリング、ニューラルネットワークを用いて結晶再成長前から再成長後の空孔の変形を予測できるシステムの開発も実施しています。