生体内微量元素マッピング
マイクロ/ナノ領域の性質を明らかにする多彩な
イメージング手法の開発
粒子ビームが物質に入射した場合、量子現象にもとづいて非常多彩な二次的な粒子・放射線(量子)が発生します。
また、入射した後の粒子自体も物質との反応によって速度や運動方向を変化させます。
これらの現象で発生した量子の諸特性は物質の特徴を反映しており、
微小径のビーム照射点から発生した量子を計測・分析することでマイクロ/ナノ領域の物質の性質を知ることが可能です。
ビームをスキャンしながらこの計測と分析を各点で行うことで物質の性質を画像として得ることが出来ます。
多彩な分析の中で、本研究室では特に粒子線励起X線分析(Particle Induced X-ray Emission analysis: PIXE分析)を主要テーマとして研究・開発を行っています。ビーム照射によって物質からは特性X線が発生します。
このエネルギーは内部の元素固有のエネルギーをもつため、これらを計測することで構成元素の情報をイメージングすることが可能となります。
右図は技術を応用して計測した生体サンプルの分析結果です。
この図が示す通り、例えば、細胞内部の元素分布を画像として観察できます。 高解像力のイメージング性能もさることながら、この技術の魅力は多元素を同時に、かつ、ppmオーダーの精度で含有元素量を定量できる点です。
この特徴を活かし上記のIBIFとPIXEを組み合わせることで細胞内小器官に存在する微量元素量の測定を行う等、生物学を始めとして幅広い応用が期待できます。
3次元画像の再構成技術
世界で唯一のミクロンCTシステム
被写体の一般の写真機やレントゲン写真で撮影した画像と異なり、PETやX線CTで得られる画像は断層画像-被写体を輪切りにした断面の画像-です。
これらの画像は様々な方向から被写体を撮影したデータからあるアルゴリズムを元に「再構成」したものであるため、「再構成画像」と呼ばれます。
ガンマ線を効率よく検出するためには、半導体素子としてガンマ線の吸収効率が大きい材料、つまり、原子番号が高く、高密度な材料を採用する必要があります。
本研究室ではこの画像化技術を応用した様々な3次元的な量子イメージの構築技術を研究しています。その一例がマイクロ直径のX線焦点の形成によって実現したX線CT画像技術です。左図は本研究室で開発したμ-CTシステムで撮像した生物学における主要なモデル生物であるショウジョウバエのCT画像(体長:約2.5mm)です。このように本技術では実験用小生物や細胞(数十ミクロン)の3次元的な断層画像の取得が可能です。
粒子ビームを利用した量子イメージング技術の開発
量子ビームイメージングのための極小径のビームの形成と制御
粒子加速器で発生させた粒子ビームをマイクロ・ナノメートル径まで収束させたものをマイクロビーム/ナノビームと呼びます。
高度な技術を要するこれらの粒子ビームの形成と制御は微小領域の量子ビームイメージングに不可欠な土台といえます。
本研究室は粒子加速器を独自に運用・運営を行う東北大学において稀有な研究室であると同時に、国内においては3つのマイクロビームシステムを保有する唯一の研究組織です。
粒子ビームを用いた実験は主に東北大学工学部・高速中性子実験室で行われます。
この施設内に設置されたダイナミトロン加速器は4.5×106 V(450万ボルト)の高電圧を作り出して静電力によって水素やヘリウムなどの原子核(イオン)を高速に加速して粒子ビームを形成することが可能です。
この粒子ビームは長い加速管内を輸送されつつマイクロビームシステムのよってマイクロ~ナノオーダーの直径に集束されたのちに測定対象のサンプルへ照射されます。このときのビーム集束に用いられるのが四重極電磁石です。
ビームを形成する粒子同士にはそれぞれが持つ正電荷によって反発力が働きます。
四重極電磁石は反発力によって発散していくビームをローレンツ力で集束させる役割を担います。ビーム集束過程は光学レンズが光を焦点に集める過程と類似しているため、四重極電磁石は別名Qレンズとも呼ばれています。
集束と共に、ビーム分析技術はビームの制御によって支えられています。
前述のとおりビーム集束には磁力が用いられていますが、ビームの制御にはビームの軸を縦・横の両方向で挟み込んだ電極を用いた電場の力を利用しています。この静電力を利用することで集束ビームを高精度で制御することが可能で、自由にビームの軌跡を描くことが可能です。このような技術を元にビーム分析は微小なビームを分析対象のサンプルをスキャン(走査)することで実現します。
マイクロイオンビーム分析の為の
ビーム自動集束システムの開発
本研究室では、イオンビーム径を1μm程まで絞ることにより、高空間分解能なイオンビーム分析を可能にしています。上述のようにイオンビームは四重極レンズと呼ばれる電磁石によって集束させていますが、イオンビームを1μm程度まで細く絞る作業は非常に難しい作業です。
四重極レンズは、ビームの進行方向に直交した二つの直交座標xとyについて、一度に一軸方向にしか集束作用を及ぼしません。もう一つの軸方向に対しては発散レンズとして作用します。
そこで、本研究室のビームラインではx軸方向用の四重極レンズとy軸方向用の四重極レンズを直列に配置しビームの集束を行っています。
片方の四重極レンズの集束は、もう片方の集束作用へ影響を与える為、二つのパラメータを交互に変更しながらビームを集束させていきます。
マイクロイオンビーム分析を行う際は、実験の前にビームを絞る作業が入りますが、これまでこの作業には数時間の時間を要しており、貴重なマシンタイムを消費していました。
そこで、本研究室では金属メッシュをイオンビームで走査した際に放射される二次電子の収量曲線からビーム径を自動計算し、その情報を四重極レンズに流す電流量にフィードバックさせるシステムを開発しております。四重極レンズに流す電流量を変化させると、四重極レンズ内部の空間の磁場強度が変化し、光学レンズでいう焦点距離を調節することが出来ます。
この自動集束システムによってビームの集束は1時間以内で行えるようになりましたが、今後このスキャン系を応用した新しいデータ収集システムの開発へとつなげる為、現在も研究開発に取り組んでいます。
MPPCを用いた放射線評価
宇宙機用半導体デバイスの放射線耐性試験のための低エネルギー重粒子線照射場の開発
宇宙では大気という遮蔽物質がないため、地上と比較して高エネルギーの放射線が大量に存在します。これらの放射線は電子機器の誤作動や故障を引き起こすことがあるため、宇宙で使用する電子機器は放射線に曝されても誤作動を起こさない性質、放射線耐性が求められます。
放射線耐性試験は宇宙空間を模擬した高エネルギーの放射線を作り出すことができる特別な施設で行われますが、これらの施設の使用機会は限られている上、施設の使用には膨大な使用量がかかります。このため、宇宙で使用する機器に用いられる部品は、現在使用されているものより高性能・低コストな部品が開発されても採用されるまでには長い期間と多額の費用がかかるという問題があります。この問題を解決するためには、従来よりも低エネルギーの放射線を用いた放射線耐性試験法を開発することで試験を行うことができる施設数を増やすこと。さらに、放射線による誤作動や故障の発生メカニズムを解明することで、試験を行わなくても放射線耐性のおおよその評価を行うことができるようにすることが必要です。
本研究室では、この2つの解決法のために必要な放射線照射場の開発を行っています。
照射線場の評価にはMPPC(Multi Channel Photon Counter)と呼ばれる光検出器を用いています。
MPPCは複数のAPD(アバランシェフォトダイオード)から成る半導体素子で、降伏電圧以上の逆バイアスをかけたAPDに光が入射すると相互作用により発生した電子がアバランシェ増倍し電流が流れます。
次にクエンチング抵抗に電流が流れることにより電圧降下が発生し逆バイアスは降伏電圧以下になりアバランシェ増倍は止まります。この電流信号を電圧に変換し入射した光を計測します。