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#05建物を通してこれからのエネルギーのあり方を考える

2024.3.19 更新

青葉山キャンパスを仙台城跡方面に進むと、左手にひと際目を引く木造校舎があります。それが『エコラボ』。環境科学研究科の教育とコミュニケーションの拠点です。 エコラボの名称が意味するのは、Ecology(エコロジー)+Collaboration(コラボレーション)+Laboratory(ラボラトリー)。 現代的外観と木造の暖かみを併せ持つこの建物は、2019年に東北ではじめて『ZEB』認証を取得しました。建設当時、建物委員会委員長としてプロジェクトに携わった土屋範芳東北大学名誉教授と、学内外で建物のZEB化推進に携わる環境研究推進センターの大庭雅寛特任准教授に、エコラボの設計や設備のほか、本学が目指す新環境エネルギーシステム構築に向けた取り組みについてお聞きしました。

東北で初、指定国立大学でも初となる『ZEB』認証を取得

土屋先生(以下敬称略) ZEB(ゼブ)とはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
人が活動する限り、建物の中でのエネルギー消費を完全にゼロにすることはできませんが、“省エネ”によって使うエネルギーを減らし、太陽光などの“創エネ”で使う分のエネルギーをつくることで、エネルギーの消費量を正味ゼロにすることができます。
ZEBには、その建物のエネルギー消費量(収支)によってZEB Ready(ゼブ・レディ)、Nearly ZEB(ニアリー・ゼブ)といった4つのクラス分けがありますが、ここ「エコラボ」は省エネ+創エネで年間のエネルギー消費量±ゼロを達成していることから、その中でも最上位のフルゼブと言われる『ZEB』認証を受けています。

大庭先生(以下敬称略) 東北大学には2019年2月に東北初、また指定国立大学としても初となる『ZEB』認証を受けたこの「エコラボ」をはじめ、片平の「環境制御実験棟」、青葉山の「化学第2新棟」、設計段階で既に認証を受けこれから建設予定の「放射性同位元素実験室」と、いわゆる『ZEB』認証を受けた建物が4ヵ所あり、その他にも、Nearly ZEBを達成している「北青葉山センタースクエア」、ZEB Readyの「環境科学研究科本館第Ⅰ期棟」、片平の「環境低乱風洞実験棟」と、7つの建物が認証を受けています。この数は全国の大学の中でもトップで、東北大学は大学施設におけるZEB化のフロントランナーと言えます。

環境に優しい、人に優しいがコンセプト。建物自体が実験場

土屋 環境科学研究科は2003年に設立された独立研究科で、ここを建てるときには、そのシンボルになるような建物を建てたいという思いがみんなにありました。シンボリックなものってどういうものだろうというと、「環境に優しい、人に優しい」ということですね。エコラボは2010年に竣工しましたけれど、その当時はまだZEBという概念は一般的ではなく、「これからのエネルギーはどういう風になっていくのかということを、この建物を通して実験しよう」というねらいでした。完成から13年が経った今でもまだ木の香りがしますが、建物に使われている木材は主に、宮城県大崎市川渡(かわたび)にある農学部の演習林で定期的に間伐される杉の無垢材を使い、地産地活や環境負荷にも配慮しています。
2011年の東日本大震災の時は、青葉山キャンパスの他の建物の多くが大きな損傷を受ける中、この建物は木ならではしなやかさで揺れを持ちこたえ、全く壊れませんでした。また太陽光パネルと蓄電池の独立した電源を持っていたため、みんなが明かりと電気を求めてこの建物に集結し、ここが環境科学研究科の復旧拠点になりました。その経験は、独立した電源を持ち自己完結できる建物の重要性を改めて認識させられる出来事になりました。

大崎市鳴子温泉川渡にある東北大学農学部の演習林で伐採した木材を使用
東日本大震災発災当日の夜。エコラボ内では電気を使うことができた

土屋 “建物自体が実験場”ということで言えば、この建物はよく言う高気密高断熱ではなく、中気密中断熱という考え方をしています。つまり外界と遮断した閉空間を作るのではなく、外の環境と、家の中の環境を調和させて、快適さを作り出していこうというもの。
吹き抜けを利用した自然換気で、夏は暑い空気が上に上がって開いた扉から外に出ていくようになっており、冬はその扉を閉めて、地下から送り出される地中熱のシステムで温めています。地中熱というのは、地下の温度が年中通して15~16℃とほぼ一定であることに着目し、その地下と空気のやりとりをすることで、外気と地下の温度差を利用して、それほどエネルギーを使わなくても、夏は涼しく、冬は暖かい快適な温度がつくれるという仕組み。
実はこの建物の下には、大人が立って歩けるくらいの深くて大きい地下ピットがあります。もともとは、将来的な設備の拡張性を確保するために設けられた空間なのですが、そのフレキシビリティがこの建物の地中熱の活用につながっているというわけです。

エコラボの内部。2階まで吹き抜けになっており、木の香りが漂う
地下にあるパイプから地中熱を利用して建物の温度を調整

宮城、東北におけるZEB化のモデルルームとして

大庭 ZEB化するにあたり、空調設備や換気設備に関しては、もともと省エネ化されていたため改修の必要はありませんでしたが、照明に関しては蛍光灯が多く使われていたためLED化を図りました。このLED化だけで52%の省エネとなり、この段階でZEB Readyの基準を達成。一方、創エネに関しては、もともとあったこの建物の太陽光に加え、隣接する工場棟の太陽光パネルがつくる電気を一部導入することで52%の創エネとなり、結果52%の省エネ+52%の創エネ=104%で基準を上回り、2019年「エコラボ」は東北地方で初めて、また指定国立大学として初めて『ZEB』認証を取得することができました。
我々としてはこのZEB化の流れは、これからの建物を考える上でますます重要になってくると考えています。
そこで東北大学モデルとして、まずは学内の建物のZEB化を推進していくとともに、その考え方を民間に広げ社会実装していくため、2020年に大学主導で「みやぎZEB研究会」を設立しました。昨年、その研究会の会員様である2つの会社がこのエコラボを見学されて建てた新社屋が、『ZEB』認証を取得されています。

四方の窓から太陽光が差し込み、明るい館内。照明のLED化で大幅な省エネに
隣接する工場棟の太陽光パネルがつくる電気を一部導入し創エネ

土屋 以前はZEBと言っても知らない人がほとんどでしたが、ここにきてZEB認証を受けた建物が学内に7棟、民間で2棟となり、徐々にではありますが認知されはじめてきました。今後さらなるZEBの普及を図るためには、その牽引役として、また宮城・東北におけるZEBのショールームとして、この「エコラボ」が果たす役割はますます重要になってくると考えています。

ここから新しいエネルギーの「価値」を考えていく

土屋 エネルギーはこれまで、国や電力会社が与えてくれるものでした。コンセントにプラグを挿せば電気が使える、私たちはそんな社会を明治維新から150年かけてつくってきました。ただ、エネルギーを取り巻く環境の変化や、エネルギーを創る・蓄える科学や技術の進化を考えると、近い将来、これまでとはかなり違った、多様なエネルギーシステムの社会になると我々は予測しています。
そうなった時に、自分たちはどうやってエネルギーを得てくるのか、どういうエネルギーが欲しいのか、どんな使い方をしたいのか、一人ひとりがエネルギーの「価値」を考えて選択する時代がやってくる。そこで我々は、持続的で心豊かな社会を築くために、これからのエネルギーはどうあるべきか、どう向き合っていくべきかを考える「エネルギー価値学」というものを立ち上げました。
そこでは、先端的な科学や技術だけではなく、それらを社会実装していくために人文・社会科学的な知見も取り入れ、学際的な領域から新しいエネルギーの全体像というものを提示していきたいと考えています。そんな新しい「価値観」が浸透していくことで、私たちの社会は次のステップに移行していくのではないでしょうか。

PROFILE

土屋 範芳 TSUCHIYA Noriyoshi

東北大学名誉教授、工学博士。前環境科学研究科長、エネルギー価値学創生研究推進拠

点拠点長。現八戸工業高等専門学校長。主たる研究分野は地球資源工学およびエネルギー学。日本南極地域観測隊(地学)として3度の南極観測にも参加。地域エネルギー利用、地中熱利用を加えたZEBの推進、廃棄物と廃熱を利用した二酸化炭素の固定化、また地質汚染の評価と対策などの地域連携に取り組んでいる。

PROFILE

大庭 雅寛 OBA Masahiro

東北大学大学院環境科学研究科環境研究推進センター副センター長、特任准教授。理学博士。主な研究分野は地球化学。メタンハイドレートの成因に関する研究で、平成15年度海上基礎試錐「東海沖~熊野灘」に参加。特定の生物が生合成する有機分子をマーカーとして用いた環境変動解析にも従事。現在URAとして、地域連携を主軸に、大学の知を社会実装する業務に携わる。

取材・原稿/泉 英和
写真/齋藤 太一

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