In Focus特集

【後編】特別対談 株式会社ispace 代表取締役 CEO & Founder袴田武史氏×東北大学 吉田和哉教授

前編に引き続き、ispace代表取締役 CEO & Founder袴田氏と吉田教授との特別対談をお送りする。後編では2人の出会いそして、これからの夢について語ってもらう。

宇宙イベントでの出会い、参加のきっかけ

思い出を語る袴田CEO(左)、吉田教授(右)
青山
お二人の出会いはある宇宙関連のイベントでしたね。
吉田
実はGoogle Lunar XPRIZEという月面探査をゴールとした国際的なレース(競争、大会)がありますよというアナウンスを2007年の早い段階から聞いていました。ただ達成しなければならない目標は本当にレベルが高く、とても一人でできることではないと感じましたので、自分が参加することはないだろうと思っていました。そんな時に国際宇宙大学(吉田教授が1998年以降非常勤講師を務めている大学)でつながりのあった人物から、ぜひ一緒にやろうと声をかけてくれました。彼らはヨーロッパで仲間を集めており、日本での協力者が欲しい。今度日本に行くので、興味のある人を集めて欲しいということだったので、まずは話を聞くイベント(講演会)を開こうという流れになりました。2010年の頭かな…?
袴田
ちょうどセンター試験のころですね。
吉田
そのイベントは東大の本郷キャンパスでやったのですが、声をかけて集まったのは50人強くらい。結構な人数が集まって、講演会が終わった後、興味を持った人で残って飲み会に行って…。
袴田
朝まで(笑)
吉田
夜が明けるまで熱く語りあった(笑)
袴田
熱く語ったつもりは無かったけどなぁ。
自分が覚えているのは(このイベントの前に)自分の知り合いの結婚披露宴で同じテーブルのある方が、吉田教授がローバー(月・惑星探査車)をやろうとしているという話で盛り上がっていて。「日本でも資金調達したいんだ。手伝って!」と言われたのが一番最初のきっかけでした。
実は、自分も吉田先生に近い感覚で…「非常にコストのかかるプロジェクトで、それを自分一人で前を進めるのは無理だなぁ、日本でそんなに数十億もすぐ集まらないよ」と思っていました。だから様子見だった、面白そうだけど(笑)
一同
(笑)
袴田
そのあと、じゃあ、その”イベントの企画”はやってやるかとなって、イベント当日に初めて吉田先生にお会いしました。

Google Lunar XPRIZE

吉田
Google Lunar XPRIZEは、月に行って軟着陸してローバーを走らせるという、達成すべきゴールのコンセプトは単純明快なんです。だけど、主催者が月に連れていってくれるわけではない。月に行く手段も自力で準備しなければならない。技術も重要ですが、技術だけでは達成できない。袴田さんが言われたように自分達で資金調達して、ロケットを作るのか、ロケットの技術を買ってくるのか、着陸船はどうするのか…そういうのを全部組み合わせないと達成できないというレースなので、みんながみんな自分一人ではできないと思っている…。
でもそれを可能にする方法を考えることに意義がある!そういうところからスタートしましたよね。
袴田
朝まで飲んだ時には最終的に10人くらいいて、何となく日本でもちょっと議論を進めましょうかとなって、5人ぐらいが最後に手を挙げて、週末毎にミーティングをやりましょうとなりました。誰がリーダーというわけではなく始まった。
吉田
そうそう。
私もいろいろと相談をしていく中でクラウドファンディングでお金を集める方法とか、スポンサーシップとかいろいろなアプローチがあるんだなと知った。「私一人ではできないけど、私が持っていない能力を持った人とチームが組めれば、きっとできるかもしれない!」そうやって、だんだん気持ちが高まってきたのは確かでしたね!

わくわくする宇宙開発

青山
以前吉田先生から、スタートした当初「わくわく」というのを大事にしていたと伺っていたのですが、どんなわくわく感を持っていましたか。
袴田
昔の資料に確か「わくわくする宇宙開発」ってありましたね。
吉田
袴田さんが掲げるキーワードの一つだったんですよ。
袴田
やっぱり民間でどんどん広がっていく自由な宇宙開発というのをイメージしていたと思うんですね。もう一つの要素が、技術的な「わくわく」だけではなくて、活動としても社会に貢献して、世の中の技術者以外の人も「わくわく」する。
青山
伝えやすいワードですごく効果的だったのかなと思います。
袴田
その当時、ボランティアで集まってきた人はそれなりにいたので、そういう意味ではうまくいったのかもしれないですが、まぁ今考えると幼稚な言葉だったのかな。(笑)
青山
いやいや(笑)
吉田
「わくわく感」を共有することをモティベーションに、チームHAKUTO※1には様々なタレントを持ったボランティアの人たちにもたくさん参加いただきました。私たちはこれを「プロボノ※2チーム」と呼んでいましたが、異業種のエキスパートがそれぞれの得意なものを持ち寄って、すごく良い活動ができているなという感じでした。
袴田
プロボノはかなり画期的でしたね。
吉田
そう考えると、時代を先取りすることをいろいろやってきたなと思います。
袴田
そうですね。計画してやった訳ではないけどお金がないので(笑)
一同
(笑)
吉田
クラウドファンディングしかり、プロボノしかり、今となっては社会課題解決の新しいアプローチとして知られるようになった概念を、僕らが先取りして実践してきたというのはすごいなと思いますね。
チームHAKUTOでの思い出を振り返る袴田CEO(左)と吉田教授(右)
  • ※1Google Lunar XPRIZEに参加していた当時のチーム名。ispaceが運営していたチームである。日本から参加していた唯一のチームであった。
  • ※2職業で得たスキルや経験を活かし社会貢献活動に取り組むこと。ラテン語の”Pro bono publico(公共善のために)”が語源である。

これからの夢

青山
ここからはお二人のこの先の夢について伺いたいと思います。人の輸送はこれからだとは思いますが、袴田さんは月に行きたいですか。
袴田
そのうち行くんだろうなとは思います。
ただ、今行きたいかというと、今はあまり行きたいとは思っていないかな。
青山
それはなぜでしょうか。
袴田
月というよりも宇宙なんですけれども、三半規管が弱いので(笑)
宇宙酔いしやすい…(笑)そこを何か技術とかでカバーできるようになれば、ispaceが進める月面事業を現地で見届けることになるかと。
青山
なるほど、三半規管のことは私たち若者でどうにかしますね(笑)
宇宙に行ってみて、こんなことをやってみたいなというものは袴田さん個人として何かありますか。
袴田
一般的ではありますが、地球を見るというのはいいと思いますね。
まぁ、我々のビジョンでもありますが、単に宇宙に活動圏を広げていくというのではなくて、地球に住み続けるために、やっぱり宇宙を活用しなければいけないって考えています。
吉田
このテーマは以前からだいぶ議論してきているのですが、「人類が地球環境を汚染してしまい、地球に住みにくくなったから宇宙へ行きましょう」というのは違うよねと思っています。地球をより良くするために貢献すべきであって、その思いは袴田さんと共通していると思います。
青山
ありがとうございます。
私個人としては宇宙まで生活圏が広がっていくと、地球がリゾート地のように扱われるんじゃないかなと思ったりもしますね。
インタビューに答える袴田CEO
青山
吉田先生の研究室としてのこれからの夢を教えてください。
吉田
宇宙探査や宇宙開発に求められる技術、特にロボット技術をつくっていくことが研究室としての一貫した大きなゴールです。だからこそ、Google Lunar XPRIZEに参加して、ここまで袴田さんと一緒にやってきました。
昨年、内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」にも採択してもらいました。月面を探査し人が住めるような拠点を構築することを、自己進化型のAI×ロボット技術で実現するという大きな研究課題に向かっています。予期せぬ状況に適応してロボットが自ら形を変えていったり、組み合わせを変えて新しい形態に変形する能力をもったロボットを多数月面に送り組むことにより、様々な夢を実現していくシナリオを考えています。
青山
今回のミッション1にもローバーが搭載されていましたし、ミッション2でもispace独自のローバーが載る予定ですよね。
吉田
ispaceには探査ロボットを運ぶ担い手として、ぜひ様々な研究者が開発したロボットを次々と月に運んでもらいたいと思っています。月へ頻繁にアクセスできるようになってくると、多数のロボットを送り込んで、資源採掘や月面拠点の構築をますます加速させることができるので、我々の活動が掛け算で進んでいくことになると思っています。
青山
お二人はチームHAKUTOのころからローバーの技術面で関わりがあります。これからも東北大学の吉田先生とispaceの袴田さんとで切磋琢磨してという部分もあるでしょうし、今後も協力して何かできたら面白いですよね。
袴田
我々はインフラの事業がメインなので、プラットフォームを作っていきます。これからの月の開発を進めるときに、やはり全ての解を我々が持っているわけじゃないので、トライ&エラーも必要なんですよね。それをいかに早く安くできるかが重要だと思っていて、その環境を東北大や、世の中の研究者に提供していくことが使命だと感じています。
青山
使命だと感じているというのがカッコいいですね。
東北大学にはサイエンスパークという構想があって、新しい理系の研究施設を多く呼び込んで活発に研究していきます。そこでは新領域として宇宙が主要な柱の一つとして期待されていますので、ぜひ仙台にも来ていただけたらなと思います。
Google Lunar XPRIZE時の写真。

学生に向けて

青山
皆さんが学生に期待すること、こんなことを経験してほしいことがございましたら、ぜひ教えてください。
袴田
勉強しなさい(笑)
青山
大事ですね(笑)。
一同
(笑)
袴田
まぁ、勉強しなさいってやつと違う方向で…やっぱり2つの考え方はあります。ローカルで生きていくことと、グローバルに生きていくこと。
やはり特に東北大にいらっしゃる学生さんたちは、日本がこれから国際競争力をつけていくために、ローカルとグローバルの2つの中では、グローバルで活躍しないといけないんですよ。
そのときは多様性の世界なので、その世界でいかに人や組織をリードできるか。それは完全にはできてなくてもいいんだけど、そういうのも触れる経験を積んでいってほしいなと思います。
青山
ありがとうございます。それは何かご自身が通われたジョージア工科大学大学院での経験とかも含まれていたりするんですか。
袴田
そうですね、やはりそういったことができる日本人が少ないので…
そういう場に出ていって自分で発言できるように。世界は、日本人が静かなのでみんな話を聞きたがっているんですよ。ありがたいことに吉田先生含め、先代の方々が日本の信用をしっかり作ってくれたので、ちゃんと聞いて、リスペクトしてくれるんですよね。なので、発言すれば、ちゃんと一緒にやる機会がすごくあるんですよ。
それをしっかりと感じられる経験をして欲しいなと思います。
青山
ありがとうございます。吉田先生いかがでしょうか。
吉田
袴田さんのおっしゃる通りですね。
日本人ってシャイで、私もそうですけれども、国際的な場で自分を表現したりアピールしたりするのって、あまり慣れてないんです。ぜひ若いうちにいろいろな経験を積んでほしいなって思いますね。すなわち、失敗を恐れずに挑戦するということ。日本人って失敗したくないとか、みんなと同じでいれば大丈夫という内向きな安全志向が強いですよね。「人とどれだけ違っているかが自分の魅力だ」という突き抜けた価値観、マインドセットを持ってほしいなと思いますね。
インタビューに答えると吉田教授
青山
最後に言い残したことがあれば、お願いします。
袴田
自分の中で言うと、やはり吉田先生と出会えたことが大きな転機で、これが上手くいい形になったと思っていますね。
吉田
私も袴田さんとの出会いがなければ、今日のような状況は全くなかったと思いますし、そもそも民間で月面着陸をめざすなどということを考えるチャンスさえなかったと思っています。そういう意味ではGoogle Lunar XPRIZEがいいきっかけを与えてくれたし、本郷のあの飲み屋で想いを共有したことが、我々の人生を大きく変えたんじゃないかなって思います。ありがとうございました。
袴田
ありがとうございました。
青山
本日は貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。
株式会社ispace

文責:東北大学総務企画部広報室
取材・記事:広報室学生広報スタッフ 青山敦
写真:大学院工学研究科 吉田研究室 澤健太

関連リンク
株式会社ispace HP(https://ispace-inc.com/jpn/
吉田研究室 HP(http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/
MOONSHOT ウェブページ(https://www.jst.go.jp/moonshot/index.html
Driving Force #31青山敦(https://www.eng.tohoku.ac.jp/driving_force/vol31.html

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