シリーズ 青葉山 98  ヤマホタルブクロ 


 

 


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cmほどの花が、うつむいて重たげに咲いている*。花はうっそうとした茂みから顔を出し、降り続く雨にぬれていた。

中をのぞくと、細かな毛がびっしりと生えている。その中心に雌しべがあった。雄しべが雌しべより先に熟する両性花。

雌しべは雄しべが能力をなくしてから熟し、姿を見せる。自分の花粉では種ができない「自家不和合性」**の性質を持った花だ。

トラマルハナバチが飛んできた。花の内側の毛は、訪れた昆虫を確実に雄しべに押しつけ、花粉を運んでもらう役目を持っているのだろう***。

 

 (河北新報社提供 初出 1991.7.1)

 

ヤマホタルブクロ
Campanula punctata Lam. var. hondoensis (Kitam.) Ohwi
キキョウ科

園内での現状は不明(1959年採集の標本あり)。
ロックガーデンに植栽されています。→花の写真

基準変種のホタルブクロ(Campanula punctata Lam.)は草地にまれ。二の丸苗圃にやや少数生える。

* この花に下から接近し、花の内側の毛をたよりに潜り込み、奥の蜜を吸うといった難しいことができるのはマルハナバチの仲間です。

** 雄しべと雌しべの成熟の時期がずれているだけでなく、もし自分の花粉が雌しべの頭(柱頭)についたとしても種子はできないようになっています(自家不和合性)。自殖を避ける、二重の仕組み。

*** ちょうどトラマルハナバチの背中に花粉がつくような花冠の大きさをしています。

「つかまえたホタルを入れておく袋」という美しい名前。なお、属名Campanulaは「小さな鐘」の意で、科名(キキョウ科、Campanulaceae)にも用いられています。宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の登場人物カムパネルラの名は、おそらくこの科に属する植物からイメージしたものでしょう。