「レーザーによる光速測定」

1. 光速測定の歴史

ガリレオの実験 「新科学対話」(1638

 遠く離れた2地点で、ランプを使って光が往復する時間を測定

    方法  1.    Aがランプのカバーをはずして光を送る。
             2. Aのランプが明るくなったら、Bもランプのカバーをはずす。
             3.    Bのランプが明るくなるまでの時間をAが計測。

   結果 光速が速すぎて失敗


図1-1 ガリレオの実験

 

木星の衛星の食 (レーマー、1676) 初めての光速測定

    周期的であるべき木星の衛星の食(木星の影に入ること)が、地球と木星の位置関係(合か衝か)により時間がずれる。

    結果   214300km/s


図1-2 木星を利用した光速測定

 

恒星の光行差 (ブラッドレー、1725

  地球の公転運動により、恒星の見かけ上の位置が移動することから光速を求めた。

   原理 自動車や電車から見える雨は斜めに降ることから速度を求める。

  結果   299042km/s


図1-3 光行差による光速測定

 

回転歯車 (フィゾー、1849)地球上での初めての測定

  回転歯車で断続した光パルスをつくり遠距離を往復させる。回転速度の変化により往復後に歯車を通過できるかで明暗が変わる。

  計算方法
 
   歯の周期: n×N      n :歯車数、 N :回転数 
   光の往復時間    光速  c=2L/Nn

 結果  315300±500km/s

 
図1-4 回転歯車による光速測定

 

回転鏡T(フーコー、1862

 遠距離を往復した光を回転鏡で反射させる。鏡が静止している場合と回転している場合では反射光の位置が異なる。

  計算方法
   
距離L1の往復時間     2L1/c 
   その間の鏡の回転角度  2
L1ω/c
   反射光の方向変化     Δθ=4L1ω/c
   反射光の位置       Δx=L2Δθ = 4L1L2ω/c

   結果   298000±500km/s

  
図1-5 回転鏡による光速測定

 

回転鏡U(マイケルソン、1926

 八角柱の回転鏡を用いて断続した光パルスを作り出し、遠距離(数十km)を往復させる。
 回転速度により、往復後の反射光の方向が変化し明暗となって観測される。

  結果  299796±4km/s  この種の方法では最も精度が高い結果。

 
図1-6 回転鏡による光速測定

 参考 マイケルソンは干渉計を用いた実験により、光速が地球の動きにかかわらずどの方向でも一定であることを確かめた。これは、アインシュタインの相対性理論の基となる重要な実験である。(マイケルソン・モーレーの実験)

 

レーザーによる測定 (エベンソン、1973

   安定化したレーザーの周波数波長の精密測定
   周波数 原子時計との比較
   波長λ  干渉を用いて精密計測
    λにより、光速を計算

  結果  299792458.0±1.2m/s  誤差は、長さ基準の不確かさによる。

 
図1-7 波の速度と波長・周波数

参考 1983年からは、1mは光が1/299,792,458秒間に真空中を進む距離と定義されている。
    従って、光速は
299792458m/sの定数値となっている。

 

光速測定実験の持つ意味

 光速測定 距離と時間から光速を求める。 c=2L/t

  距離測定 光速と時間から距離を求める。 L=ct/2

  時間制御 距離と光速を用いて正確な時間間隔をえる。 t=2L/c
                 (時間分解分光への応用)

 

2. 半導体レーザーによる光速測定

原理

 市販の半導体レーザーから短パルスを発生させ、光パルスが教室内を往復してくる時間をオシロスコープを用いて測定します。

  半透鏡で分けた光が短い距離の伝播で戻ってくる場合(P1)と長い距離を伝播してから戻ってくる場合(P2)の時間差Δt=t2-t1を測定して、伝播距離の差ΔL=2(L2-L1)から、c=ΔL/Δtとして求めています。

図2-1 実験原理

写真2-1 光速測定装置

 

実験装置

半導体レーザー TOSHIBA, TOLD9442M
             
 自作回路(図4-2-2)でパルス発振させている。
              ナノ秒パルス発生にDigital Delay(RSコンポーネンツで購入)を用いた結果、
              安定性が向上しました。(2005年改良)

光検出器   浜松ホトニクス社 フォトダイオード(S5973)
             
信号が微弱なのでμPC1651Gを用いて増幅しています(図4-2-3)。

オシロスコープ IWATSU SS-7610(100MHz帯域)
         距離を伸ばせば10MHz帯域のオシロスコープでも測定可能です。

実験装置の特徴
   (1)
数ナノ秒のパルス光源および検出器を安価に作成した。
   (2)反射鏡にコーナーキューブプリズムを用いることで、簡単に調整ができる。
   (3)伝播距離は巻尺でその場で測定する。
   (4)信号をスクリーンにリアルタイムで投影し、実験の進展を見る。

 
図2-2 半導体レーザー駆動回路


図2-3 光検出回路

 

実験結果の例

 図2-4は実際の測定例です。2つの光パルスの時間差はΔt=10.5nsであり、伝播距離の差ΔL=1.55mからc2.95×108m/sと求めることができま す。この装置では、約5%の精度で光速測定が可能です。


写真2-4 光速測定の例