光の回折干渉とホログラフィー」

1.光の回折干渉

光の回折

 回折とは波が壁などの裏側にも回り込む現象で す。ホイヘンスの原理では「新しい波頭は旧波頭の各点を中心として次々と生まれる」として表現されます。これは、図1-1のように各波頭から円を描いて結ぶことにより図示できます。


1-1 ホイヘンスの原理

 

光の干渉

 光は波の性質をもっており、2つの光が重なり合ったときには図1-2のように干渉が起こります。ヤングは図1-3のような配置で光の干渉を観察し、光が波の性質を持っていることを確かめました。

 

図1-2 波の干渉。左:強め合い、右;弱め合い。


1-3 ヤングの干渉実験

 図1-3では、2つのピンホールを抜ける ときの光は同じになります。スクリーン上の点Q では、2のピンホールからの距離の差が波長λの整数倍であれば光は強め合います。差が波長の半分ずれていると、光は弱め合います。こうして、スクリーンには間隔λzdで光の強弱(干渉縞 )ができます。 図1-4は、ヤングの干渉実験のシミュレーション結果です(授業では動画で示します)。左側から来た光が2つのピンホールを通ると、右側では、干渉により光の弱い部分(濃淡がはっきりしていない部分)ができます。

  

図1-4 2つのピンホールによる干渉

 

回折格子

 回折格子 はたくさんのスリットが等間隔に並んだ構造をしています。各スリットからの距離が波長の整数倍となる位置では、すべてのスリットからの光が強めあいます。明るくなる位置は、ヤングの干渉実験と同じで間隔λzdになります。つまり、波長によって明るくなる位置が違うため、回折格子を通った光は色が分かれて見えます。CD,DVDなどは情報を記録したトラック(溝)が等間隔に並んでいるため、反射された光に色がついてみえます。
  
 

図1-5 回折格子による回折光

写真1-1 CDの色

 

回折を利用した精密測定

 スリット による干渉は、スリットが一つであってもおきます。これは、スリットの広がりの各部分からの光が干渉するためです(図1-6)。このとき、中心からの距離がλzaの整数倍の位置が暗くなります。aはスリットの幅です。

  

図1-6 単スリットによる回折

 スリットとは逆に、細い線が光を遮っている時にも回折がおこります(図1-7)。このときに回折光が暗くなる位置は、単スリットと同じλzaになります。これをバビネの原理といいます。授業では、回折の応用として髪の毛の直径測定を行います。

  

図1-7 細線による回折

 

薄膜干渉

  光が空気中からガラスや水に入る時には、わずかですが反射が起きます。厚さが薄い薄膜では、膜の表と裏の反射光が干渉をします。図1-8のように光の波長により強めあう場合と弱めあう場合があります。シャボン玉や油膜に色がついてみえるのはこのためです。シャボン玉では、膜厚が変化するにつれて色が変わる様子がよくわかります。

1-8 薄膜による干渉

写真1-2 シャボン玉

 

モルフォ蝶

 自然界には、回折・干渉をたくみに利用している生き物がいます。写真1-3はモルフォ蝶です。モルフォ蝶の鱗片は、回折格子と薄膜が組み合わさった構造をしており、鮮やかな青色の光沢を作り出しています。

写真1-3 モルフォ蝶

 

2. ホログラフィー

ホログラフィー

 ホログラフィーとは、光の回折と干渉を利用して立体画像を記録再生する方法であり、レーザーの発明により実現されたものです。最近では、印刷技術の進歩により本の表紙やカード等にもホログラフィーが印刷されるようになっています。ここでは、ホログラフィーの基本原理について解説します。

 

立体視とホログラフィー

 物が立体に見える理由は、図2-1に示すように左目と右目で異なる像を見ているためです。脳がこの違いを認識することにより立体感が得られます。


2-1 左右の目で見える像の違い

 通常の立体映像では、左目と右目で見えるべき像をあらかじめ2種類用意しておきます。これらを別々に左目と右目に見ることで、立体的な像を認識します。左目と右目の区別には、特殊なゴーグル(めがね)を用います。古くは、青色と赤色のセロハンを貼っためがねが使われました(図2-2)。最近では、偏光の違いを利用しています。また、液晶 などを用いて左と右のシャッターを交互に開き映像をそのタイミングに合わせる方法も用いられています。

 

2-2 立体視の原理          図2-3 ホログラフィーの視野

しかし、このような方法では用意された方向からしか見ることができません。これに対して、ホログラフィーでどの方向からでも立体的に見ることができます。像の横や後ろに回って見ることも可能です(図2-3)。

 

ホログラフィーの原理

 ホログラフィーでは、コヒーレントな光(レーザー光)を物体に当て、その散乱光(物体光)とレーザー光(参照光)を同時に写真乾板に入射し、その干渉縞を記録します。像の再生には、レーザー光(再生光)を現像した写真乾板に当て、干渉縞による回折光を観察します。干渉縞には物体光の強度と位相の両方が記録されるため、立体像の再生が可能となります。

(1)作成方法

 図2-4のようにレーザー光を2つに分けて一方を物体に照射し、参照光と物体光を干渉させて干渉縞を写真乾板に記録します。


2-4 ホログラフィーの作成

 

(2)再生方法

 図2-5のように現像した写真乾板に参照光と同じ再生光をあて、干渉縞により起きる回折光を観測します。このとき回折光は図2-4の物体光とまったく同じ になります。つまり、物体の像が再生されるとことを意味しています。ただし、図2-5の場合には、光は写真乾板の観測者側にのみ存在し、物体の位置に光はありません(点線)。このような像を虚像と呼びます。 撮影・再生の方法を工夫すると、像を乾板よりも観察者側に作ることができます。この場合には、像が乾板から飛び出して見えます。


2-5 ホログラフィーの再生

写真2-1 ホログラフィ

 

白色光再生ホログラフィー

 一般的には、ホログラフィーの再生は作成のときと同じレーザー を用います。通常のホログラムを白色光で再生すると像がぼやけてしまいますが、蛍光灯などの白色光(いろいろな波長の光が混ざっている)でも再生可能なホログラフィーが工夫されています。

イメージホログラム

 イメージホログラムでは、図2-6のように作成時にレンズなどを用いて物体の像を乾板上に作 ります。この場合には、波長の違いによる像のずれが小さくなるため、白色光でも像を見ることができます。しかし、奥行き感(立体感)に欠ける欠点があります。


2-6 イメージホログラムの作成

 

リップマンホログラム

 白色光再生が可能で、なおかつ立体感のあるホログラフィーにリップマンホログラムがあります。よくインテリア等で展示されているものは、大体がこのタイプです。

 リップマンホログラムでは、図2-7のように参照光と再生光を、物体の反対側から乾板に入射します。このとき、写真乾板には図2-8のように膜厚方向にも干渉縞ができます。


2-7 リップマンホログラムの作成


2-8 乾板乳剤中の干渉縞

 このホログラムに白色光を入射すると、厚さ方向の干渉縞により反射される光の波長が決まります(ブラッグ反射)。このため、観察される像は単色化されてずれがなくなります。

 

立体テレビの可能性

 最後にホログラフィーによる立体テレビの可能性について考えてみます。

(1)カラー
 3原色のレーザーは既に実用化されています。半導体レーザー化することが現在の課題となっています。

(2)撮影方法
 レーザー光により照明して、干渉をCCD検出器で撮影します。ホログラフィーに必要な分解能(1ミクロン以下)をもち大面積の検出器の開発が必要です。ただし、自然光での撮影は不可能か もしれません。

(3)表示方法
 液晶ディスプレィが使用可能です。しかし、分解能はまだ十分ではありません。

(4)情報伝達
 高速の情報伝達が必要です。例えば、分解能1ミクロン、面積50×30cm、カラー、光強度8bit、位相情報8bit、画面数30/秒とすると、約2×1012bit/秒の伝送速度が必要とな ります。

 現在の光ファイバーの伝送速度が(1011〜1012bit/秒)で すから、画像の圧縮技術の進歩を考えれば十分に対応は可能です。

 

参考書〈他にも多数あり〉

「光工学」飯塚啓吾(共立出版)
「ホログラフィー入門」J.-Ch.Vienot, P.Smigielski, H.Royer、辻内順平、中村琢磨訳(共立出版)
「ホログラフィーのはなし」本田捷夫(日刊工業新聞社)
「光学の原理TUV」M.Born, E.Wolf、草川徹、横田英嗣訳(東海大学出版会)
「光学」村田和美(サイエンス社)
「光学」石黒浩三(共立出版)