「光と色の不思議」
1. 虹はなぜ七色?
虹の原理?
夏の日に夕立があると、きれいな虹が見られることがよくあります(写真1-1)。虹は太陽の光が雨粒の中で反射屈折するために色が分かれると説明されています。しかし、実際に水の球による反射屈折を考えてみると、意外と複雑であることがわかります。ここでは、虹の原理について考えてみます。
写真1-1 虹
虹の色
普通に見られる虹は、内側から、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤、の7色です。しかし、色がはっきりしない場合もあり、何色が見えるかは個人差もあります。7色は、
「し(紫)ら(藍)せ(青)ろ(緑)お(黄)と(橙)こ(赤(紅))」
と覚える方法があります。
屈折の法則
光の色が分かれるのは屈折の法則によります。図1-1のように、水やガラスに光が 角度θで入射すると、屈折の法則により角度θ'の方向に光は進みます。θとθ'の間には、sinθ/sinθ'=nの関係があります。nは物質の屈折率であり、光の波長により違った値を持ちます。このため、同じ角度θで入射した光でも 色により屈折角θ'が異なります。
図1-1 屈折の法則
プリズムはこの原理を利用して色を分ける光学素子です。波長が短い光(紫や青)ほど屈折率が大きく、プリズムで大きく曲げられます(図1-2)。
図1-2 プリズムによる色の分解
球による反射屈折
次に球に光が角度θで入った場合の反射屈折(図1-3)を考えてみます。まず、表面で反射する光I-1があります。内部に入る光は屈折して角度θ'の方向に進みます。そして、反射することなく外部に出てくる光I0、内部で1回反射してから出てくる光I1、2回反射する光I2と、次々と反射した光が生まれてきます。ここでは、それぞれの光が進む方向αを入射光の方向を0°として表わします。つまり、α=0°が直進する光、α=180°が反対に戻って来る光です。
図1-3 球の中での反射屈折
光I-1は角度θによりあらゆる方向に反射されます。光I0はそのほとんどが0°に近い方向に進むため虹にはなりません。そこで、光I1と光I2について、θとαの関係をグラフにしたものが次の図2-1-4です。式としては、
α1=2θ−4θ'+180°、α2=2θ−6θ'
となります。赤と青の線は光の色の違いによる散乱角度の違いを示しています。
図1-4 水の球による光の散乱角度
光は一方向に散乱されのではなく、θの違いにより異なる方向に散乱されることがわかります。これはプリズムとの大きな違いで、このままでは虹が見える理由はわかりません。そこでα1が140°と220°付近で、α2が130°と230°付近で折り返している点に注目してみます。これは、この散乱角度αには、入射角度θが少々異なっても光が散乱されることを意味します。このため、他の角度αに比べて光が強くなります。光強度の散乱角度依存性は、θの変化(Δθ)に対するαの変化(Δα)から、
I∝ cos2θ×Δθ/Δα
と計算できます。実際には微分計算を行うことで次のようなグラフ(図1-5)が得られます。
図1-5 光強度の散乱角依存性
このように、ある角度に非常に強い光が散乱されることがわかります。1回反射光I1では、180°からのずれ角として、赤色光が42.36°に、青色光が40.67°に散乱されています。2回反射光I2は、I1よりは弱いものの、赤色光が50.39°、青色光が53.43°に散乱されます。
図1-6は、水球により虹が見える様子を簡単に示したものです。1個の球では、その一部分から光が強くくるだけなので、観測者には虹は見えません。しかし、たくさんの球があれば、青色を強く散乱する角度、緑色や赤色が強い角度に別の球があるため、虹をみることができます。
図1-6 球による虹(概念図)
虹ビーズによる実験
写真1-2は、 虹ビーズという商品名のプラスチック小球を貼り付けた黒い紙に光をあてた様子を示しています。 光源(電球)を中心として虹ができていることがわかります。内側が緑(電球の青は弱いのでよく見えない)、外側が赤 になっています。写真2-1-3はガラスの小球を用いたもので、ガラス球のひとつひとつが違う色になっていることがわかります。
写真1-2 虹ビーズによる光の散乱
写真1-3 ガラス小球の虹(色を強調)
主虹と副虹
図1-5をよくみると、2回反射光は1回反射光よりも角度が大きく、しかも赤と青の順が逆転していることがわかります。1回反射光による虹は主虹とよばれ、通常見える虹はこれです。2回反射光による虹は副虹とよばれます。しかし、主虹にくらべて暗いためになかなか見ることができません。図1-5からは、主虹の内側で光強度が0ではないことも読み取れます。写真1-4の虹では、主虹と副虹の色が逆であることがわかります。図1-6は、主虹と副虹の様子を模式的に示したものです。
写真1-4 主虹と副虹(写真1-1の色を強調)
図1-6 虹の模式図
氷のプリズム
虹は、空中の水の球(雨粒)による太陽光の散乱であることがわかりました。では、プリズムと同じ原理の自然現象はないのでしょうか。実は、氷の結晶がちょうどプリズムの役割をする現象があります。これは太陽の暈(かさ、halo)と呼ばれるものです。氷(雪)は、水の分子が図1-7のように折れ曲がっているため、六角形を基本とする結晶をつくります。地上に降ってくる雪は樹枝状のきれいな形をしていますが、高空では六角柱(図1-7右)の形をしています。
参考 雪の結晶の研究はすでに江戸時代から行われています。(雪華図説、土井利位、1832年)
詳しくは、古河歴史博物館
をご覧下さい。
図1-7 水の分子と氷の結晶
図1-8 六角柱による光の屈折
六角柱は、正三角形のプリズムの一部分を切った形(図1-8)をしていますので、光は色の違いによって異なる方向に屈折します。太陽の暈は太陽の回りに同心円を描いており、屈折角度が小さい赤色が内側になります(図1-9)。
図1-9
太陽の暈(Halo)
2.光と色の3原色
色の3原色
色の3原色は赤黄青の3つで、これらから他の色を作ることができます。子供のころ絵の具が足りなくなった時に、混ぜ合わせることで足りなくなった色を作ったことがあると思います。図2-1は、色の3原色の混ぜ合わせを示したものです。
赤+黄=橙、黄+青=緑、青+赤=紫、赤+黄+青=黒
となっています。
図2-1 色の3原色
光の3原色
光の3原色は赤緑青(RGB)の3つで、色の3原色とは違っています。テレビ画面に眼を近づけてみれば、画面が赤緑青の3色で作られていることがわかります。光の3原色の混ぜ合わせは、
赤+緑=黄、緑+青=水色(シアン)、青+赤=紫(マゼンタ)、赤+緑+青=白
となっています(図2-2)。では、色と光の違いはどこからきているのでしょうか。
図2-2 光の3原色
人間の色覚
人間の眼は非常に優秀な光の検出装置です。月のない闇夜から日中の日向まで、非常に明るさの違う環境でもものを見ることができます。また、わずかな色の違いも敏感に感じることができます。ここでは、なぜ色を感じることができるかを考えます。
眼の中では、まず最初に網膜内の視細胞中にある色素が光を感じます。この色素はレチナールと呼ばれ、視細胞中ではタン白質と結合していてロドプシンと呼ばれています。この色素に光が当たると、図2-3のシス型からトランス型へと形を変えます。この変形が細胞を刺激して神経に信号を伝え、脳に伝わるわけです。最初の色素の変化は超高速(10-12秒)で高効率に起きるため、人間の眼は優秀な光検出装置となっているわけです。人間は、自分でレチナールを作ることができないので、図2-3の下に示したβ-カロテンを2つに分解してレチナールを作ります。だから、野菜(特にニンジン)はしっかり食べましょう。
図2-3 レチナールとβ-カロテンの構造(CとHは省略)
ところで、光を感じる視細胞は1種類ではありません。異なる種類の視細胞では、それぞれ感じる光の色が違っています。図2-4は、光の波長(色)の違いによる視細胞の感度を 模式的にグラフにしたものです。
図2-4 視細胞の感度の模式図
この図から光の3原色が理解できます。黄色の光は赤と緑の間にあるために、R細胞とG細胞の両方を刺激しています。3原色による黄色の表現は赤+緑であり、赤と緑の光が両方あれば黄色の光がなくてもR細胞とG細胞の両方が刺激されます。脳では、RとGの両方の細胞から信号を受けとると黄色の光と認識するので、赤+緑の光で黄色が表現できるわけです。
緑+青で作られるシアンも同様ですが、青+赤はちょっと事情が複雑です。R細胞は短い波長にも感度をもっているため、紫の光ではB細胞と同時にR細胞も刺激されます。このとき、R細胞は赤色の時と同じように信号を脳に伝えます。そこで、青と赤の光を同時に使えば、紫色という青色よりも短波長の光も表現できるわけです。
光の3原色は人間の眼がもっている細胞によって決まっています。つまり、ちがう視細胞をもつ動物(昆虫や宇宙人?)にとっては、3原色は違ったものになるはずです。同じ人間でも3種類の視細胞の比率が異なっている場合には、同じテレビ画面を見ても違った色に見えることがあります。
光の3原色の実験
身近な材料で光の3原色の実験を行うには、コマに色をつけてまわします。コマの表面に3原色を塗り速く回転させれば、眼は全体の平均を信号としてとらえます。これは、色素分子の最初の動きは非常に速いのですが、神経から脳への伝達速度が遅い(ミリ秒)ためです。このため、動きが速いものを使えば、光を足しあわせた効果が得られます。
LEDには3原色の明るさを別々に変えることができるものがあります(写真2-1)。これを用いると、3原色の組み合わせで様々な色を作ることができます。
写真2-1 光の3原色実験装置
色の3原色は光の引き算
色と光の3原色の違いは、絵の具などの色は光の引き算であることが原因です。図2-5はシアン色の絵の具の見え方を示したものです。白色光から赤色が引かれてシアンとなっていることがわかります。
図2-5 絵の具のシアンと白色光
色の3原色は、厳密には
白−赤=シアン(青)、白−緑=マゼンタ(赤)、白―青=黄
の3色でなりたっています。混ぜ合わせた場合には、
シアン+マゼンタ マゼンタ+黄 黄+シアン シアン+マゼンタ+黄 |
=白−赤―緑 =白−緑−青 =白−青−赤 =白−赤―緑−青 |
=青 =赤 =緑 =黒 |
となります(図2-6)。
図2-6 色の3原色(光の引き算)