29 Nov 2018

幾何学的位相を用いた光学キャビティの連続掃引

大野誠吾

光学キャビティ

ファブリペロー(Fabry-Pérot, FP)共振器をはじめとする光学共振器は、内部に共振する波長の光のみを選択的に閉じ込めることから、基礎科学にとどまらず、レーザーをはじめとした現代社会の基盤技術の根幹を成している。 共振器内の実行的な光路長を、例えば共振器を構成する鏡の位置をピエゾ素子等で変えることで、その共振周波数は変えることができるが、その場合ピエゾ素子は鏡の移動量に限界があることから、連続的に掃引できる周波数範囲は限定的であった。またピエゾ素子の制御電圧の安定性が、共振周波数の安定性に直結する。その他有効的な共振器長を変える方法も提案されているが、いずれも何らかの物理量を変化させることから共振周波数を連続的に掃引する範囲には限界がある。さらに、連続的な掃引には共振器長を連続的に伸長もしくは短縮させる必要があるが、それに伴い共振周波数間隔も必然的に変化する。これは、周波数軸上で等間隔に並ぶ共振周波数をスペクトルの「ものさし」として利用する際、長さの単位が変わることを意味しており、精密な計測にはその補正が必要である。本研究の目的は、光学共振器においてその共振周波数を連続的かつ途切れなく掃引する方法を提供することである。それにより、光学共振器の共振周波数を原理としたレーザーシステムや光コムなどに新たな波長掃引の自由度を提供する。

幾何学的位相シフタの導入

共振周波数を新たに掃引する方法として、幾何学的位相シフタを共振器内の光路中に挿入する。

concept
図1 FPキャビティ内部に2枚のλ/4板(固定)とその間に回転可能なλ/2板が配置してある。

幾何学的位相シフタとは、それを構成する光学素子の回転を通じて入射した光が出射後に受けるPancharatnam-Berry位相を制御するための光学系であり、入射直線偏光に対して45度傾いた2枚のλ/4板、それに挟まれたλ/2板からなる。λ/2板は光軸に垂直な面内で任意の角度θに傾けられる。幾何学的位相シフタにより作用を受けた光の位相は、光学素子の回転角に応じてシフトし、結果的にFP共振器の透過光のスペクトルは、

にて与えられる。ただし、はミラーの反射率であり、は光源の波数、はキャビティ長のうち、波長板の位相遅延以外の長さである。δ内のθの項を除いてよく知られているFP共振器の透過スペクトルの式と一致する。この共振器の共振の条件は、nを正整数としてδ=2πnで与えられるから、共振条件を角度θを変えることで自由にシフトさせることができ、1/2波長板を光軸の周り1回転させた場合、共振条件を4回満たす。

実験

波長1.5umのシングルモードレーザーに対して、図1と同様の光学系を構築し実験を行った結果を図2に示す。

spectrum
図2 透過強度の位相シフタ回転角、およびピエゾ電圧依存性。下はピエゾ電圧を25Vとしたときの回転角依存性。

キャビティミラーの片方はピエゾ素子にマウントし、従来のようにキャビティ長を掃引できるようにした。横軸はλ/2板の回転角であり、縦軸はピエゾ素子への印加電圧である。これをみると1回転により、4回共鳴条件を見たいており、位相板の回転によってキャビティモードが連続的に掃引できていることがわかる。 論文では図1の以外の配置としてλ/4板を2枚用いる構成の位相シフターについても、実験、考察をした。この場合の透過率のδはで与えられる。また、回転する位相板の仕様が適切な波長からずれていた場合についても数値的に考察を行った。その場合、連続的な掃引ができなくなりモードがスプリットする。 本手法は、FP共振器の調整だけでなく、レーザー、光コムなど幅広い分野で応用が期待でき、また角度と周波数の変換手法を提供するものと考える。

謝辞

Funding

成果

論文

特許申請