メタマテリアル物理のすすめ

当研究室では光物性物理を研究しています。 光物性とは物(主として固体)の性質を調べるために光を手段として用いる研究分野ですが、 われわれは流行の物質に光をあててみるのではなく、 光と物質との相互作用が本質的に面白い物理を示すような系を作り出し、 分光的手段で研究しています。 私のモットーは、「小さい効果を感度を上げた実験を工夫して測定してゆく」とは対極の 「ある効果が大きいような物質をデザインする」ことであり、 かつその効果が「変わっている」ことがテーマ選びの重要な要素です。

私は学生時代より低次元半導体の励起子を研究してきましたが、 東北大で研究室を立ち上げるにあたり、 現在急速に研究が発展しているメタマテリアルの物理に重点を移しました。 研究の矛先は変えましたが、構造(空間配置)が物理を変えるという意味においては共通です。

メタマテリアルは光の波長よりも小さな、 しかし原子よりは十分に大きな構造によって 通常は自然界に存在しないような光応答をする人工物質です。 そこでは通常生じ得ない、負の屈折率さえも存在します。 負の屈折率があると、光の位相は進行することによって巻き戻されますから、 そのような物質は光に対して「反物質」として振舞います。 これによってさまざまの「異常な」物性が展開します。 これらはもちろん物理の法則に反しているわけではありません。 ただ、私達がこれまで経験したことのない状況であるため、 これまでの常識があまり通用しないのです。 通常の結晶は固体物理学のホームグラウンドとなり、 豊かな物理を生み出しました。 メタマテリアルはは近年の超微細構造作製技術によって、 ようやくかなり自由に作製することができるようになってきました。 このような空間で光はどのように物質と相互作用し、振舞うでしょうか? ここには大きな未知の世界が広がっています。 2014年3月からは准教授の松原さんが加わり、 電気と磁気が交差する様々な現象についても、 探求を深めてまいります。 また最近ではトポロジーが関係した現象についても注目されるようになってきました。

光物性物理のもうひとつの魅力は 自分の好奇心に基づいて自由に研究を行うことができるという点です。 測定対象や測定装置は自分の手の届く範囲にあります。 巨大プロジェクトの歯車にならない、等身大の知的活動がここにはあります。 当研究室では、そのような研究を将来にわたって遂行するために必要な知識とテクニックと哲学を 実際の研究を通して学んでゆきます。

我々の研究グループは現在、日本の大学において、 メタマテリアルの物理に関する研究を本格的に行っている唯一の研究グループです。 我々のグループでは 電磁場シミュレーションを用いた構造設計、 微細加工による世界で唯一の試料の作製、 光学顕微鏡・原子間力顕微鏡を用いた構造の確認、 スペクトル測定、非線形光学測定、 観測された現象に対する解析といった一連の研究を できるだけ、各自が体験することを通じて、 広い研究経験を自ら積むことと、 同様の体験をした研究室の同僚との活発な議論を踏まえて、 今まさに成長しつつある、メタマテリアル物理の建設を体験していただくことにより、 卒業後も物理を開拓してゆける学生を育ててゆきたいと考えています。 メタマテリアル物理の研究に興味がある諸君の研究室への参加を歓迎します。 もっと詳しく知りたい方は、石原t-ishihara@tohoku.ac.jp までご連絡ください。

追記
メタマテリアルの参考書として
図解 メタマテリアル-常識を超えた次世代材料- (萩行、田中、高野、上田 共著)
メタマテリアルの技術と応用(石原 監修)
の二冊を上げておきます。後者はやや専門的です。
また総括的な書籍の日本語訳として
メタマテリアルハンドブック 基礎編、応用編(萩行、石原、真田 編 講談社)
があります。