Plasma Actuator

-プラズマを利用した気流制御デバイス-

プラズマアクチュエータとは


私たちの身の回りには, 流体力学による知見を利用した技術が数多く存在します. 空気抵抗を減らすことによって航空機や自動車の燃費を向上させることができ, 環境への負担を減らすことができます. 我々の研究グループでは, 「イオン風」を利用した気流制御技術に着目し, その実用化に向けた研究に取り組んでいます. 「プラズマアクチュエータ」は電極と誘電体のみで構成されるデバイスで, 可動部がなく, 非常に薄い(0.1 mm程度)ことが特徴です. 電極に高電圧を印加すると空気中での放電によってイオン風が発生します.

航空機は, 翼の形に流れを沿わせることで揚力を発生させますが, 気流がはく離してしまうと揚力が大きく低下し, 空気抵抗が増大してしまいます. このような状況でも, プラズマアクチュエータを用いてイオン風を起こすことで流れを付着させて大きな揚力を生み出し, 抵抗を減らすことができます.


放電から流れが発生するまでの数値シミュレーション


次世代の気流制御デバイスとして期待されるプラズマアクチュエータですが, まだ旅客機などに載せて空気抵抗を減らせるほどの強いイオン風を発生させることができず, 性能の飛躍的な向上が求められています. プラズマアクチュエータの性能を向上させるためにはイオン風が発生するメカニズムを明らかにし, 強いイオン風を誘起することができる電極や誘電体の配置の仕方や素材, 印加する電圧の波形を工夫することが求められます. 私たちの研究室では, プラズマアクチュエータにおける放電現象のレベルからイオン風が発生するまでの過程を一貫して計算できる数値シミュレーションモデルの開発に取り組み, 性能向上の鍵を握る物理現象を明らかにすることを目的とした研究を行っています.

プラズマアクチュエータが起こす複雑な放電構造を数値シミュレーションによって再現し, イオン風発生メカニズムの解明を目指します.

放電計算の結果を利用して, プラズマアクチュエータが作るイオン風の数値シミュレーションを行います.


性能向上に向けた実証実験


空間上の粒子にシート状のレーザー光を照射することで, 気流を可視化することができます.

数値シミュレーションで得られた知見に基づき, 飛躍的な性能向上を実現する新しいプラズマアクチュエータを提案し, その実証実験にも取り組んでいます. 私たちの研究室では, イオン風の発生に適した駆動用電源の開発や, 誘電体表面上の電荷の挙動を解析する手法を用いたプラズマアクチュエータの電気的特性の解明をテーマとしています. また, 粒子画像流速測定法によるプラズマアクチュエータの流体力学的特性の評価に関する実験を行っています. 放電工学的側面・流体力学的側面の双方からの解析を通して, これまでにない革新的なプラズマアクチュエータの開発を目指しています.


低電圧で駆動できる高集積プラズマアクチュエータの提案


現在のプラズマアクチュエータでは, イオン風を発生させるためには高電圧 (通常 10 kV 以上) を印加する必要があり, 高圧電源の使用が不可欠です. 高圧電源は扱いが難しいため, 実用化するためには低い電圧でも駆動できる扱いやすいプラズマアクチュエータを開発する必要があります. 私たちの研究室では, 従来は単一で用いられてきた2枚の電極で1組のプラズマアクチュエータ素子を小型化し, それを多数並べることで大幅な駆動電圧の低減が可能であることを示しました. 現在は, この手法を用いて素子の更なる小型化・高集積化をすることで数百ボルト程度の電圧で駆動可能なプラズマアクチュエータの開発に向けた研究に取り組んでいます. 実用的なプラズマアクチュエータを開発し, 電気自動車や電動航空機への搭載を可能にすることで空力性能を大幅に向上させる能動的気流制御技術の確立に向けた研究を進めています.

プラズマアクチュエータ素子を集積化することで低電圧での駆動を可能にします.