Hypersonic Flow Instability

-極超音速流の境界層における不安定モードの数値解析-

極超音速流と乱流


極超音速流とは,一般的にマッハ数 5 以上の流れを表します.極超音速で飛行する機体には,かつて運用されたスペースシャトルのように大気圏再突入を行う機体や,近年研究が進められている極超音速旅客機などがあります.これらの極超音速機が飛行中に強い加熱を受けることはよく知られていますが,特に機体の周りの流れが大きく乱れた,乱流と呼ばれる流れになると加熱がより促進され,機体に悪影響を及ぼします. そのため,極超音速機は熱防御システム (Thermal Protection System: TPS) によって加熱から守られています.しかしこの TPS は機体の重量増加を招くため最小限の設置とすることが求められます.TPS の設置を最小限とするには機体の加熱を正確に予測する必要があり,そのためには加熱に寄与する乱流に遷移する領域を正確に予測する必要があります.

乱流遷移のプロセスの一つとして,流れのわずかな乱れ (擾乱) が機体表面付近において特定の周波数で大きく発達し,乱流遷移を引き起こすというものがあります.この擾乱が発達する現象は流体不安定性と呼ばれます.身近に不安定性が見られる例として蛇口から流れる水があります.蛇口から出た水は,初めは真っ直ぐに流れますが次第に波打ち,最後は小さな粒の集まりになります.これはプラトー・レイリー不安定性と呼ばれる現象によるものです.他にも様々な不安定性がありますが,本研究で対象とする極超音速流では Mack の二次モード不安定性と呼ばれる圧力波 (音波) の成長が支配的であり, 乱流遷移に大きく関わっていると考えられています.極超音速風洞における実験では二次モード波特有のロープ状構造が確認されており,本研究で実施した数値シミュレーションにおいても右図のように再現されています.


不安定波の非線形性


極超音速境界層において二次モード不安定性は乱流遷移に大きく寄与することはよく知られており,線形安定性解析と呼ばれる不安定波の成長率を予測する手法も確立されています.しかし近年では,二次モード波とより低い周波数の波が非線形な関係となる,つまり両者が掛け合わされる現象も確認されており,この非線形性が乱流遷移に関わっている可能性が示唆されています. 本研究では不安定波の非線形性が波の成長にどのように関わっているのかを数値シミュレーションを用いて調査しています.