同窓の広場 Alumni Interviews大学で育まれた「東北愛」を胸に、地域貢献につながる投資事業の立ち上げへ
2025.05.29 更新
東北を拠点に地域発・地域着のスタートアップ支援や投資を行うベンチャーキャピタル「スパークル株式会社」。その代表取締役である福留秀基さんは、大阪府出身ながら東北に大きな愛情と期待を有し、仙台に会社を立ち上げました。その発端は、東北大学で学んだ学生時代にありました。在学時には混声合唱部に在籍し、OBである小田和正さんが作詞・作曲を手掛けた校友歌『緑の丘』を受け取った世代でもあり、小田さんから合唱指導を受けたことも。学生時代の思い出と、現在の仕事についてお伺いしました。
東北の中で自分は「異分子」。個性の活かしかたと外在化が学びに。
私は大阪府堺市の出身です。幼い頃からプログラミングやハードウェアの改造が好きでした。中高一貫の甲陽学院に進んだのですが、歴史や言語などの文系科目にも興味が向いて、大学進学の方向性に悩んでいました。京都大学のオープンキャンパスに参加したのですが、ピンとくるものがなく…。大阪人の気質と言いますか、東京への敵対心みたいなものもあり、むしろ自分の力で何かを興すならより遠い地方の方がおもしろいんじゃないかと、東北や九州の大学を検討したんです。そして参加したのが、東北大学のオープンキャンパスでした。たまたま、京都大学出身の吉信達夫先生(大学院医工学研究科教授)が面談を受けてくださって、私が悩みを打ち明けると「東北大学には真面目な人が多いし、ちゃんと勉強に打ち込める。きみは東北大の工学部に来た方がいい」と言ってくださって。私自身も東北大に同じような印象を感じていたので、この出会いを大事にしようと、受験を決意しました。
入学して感じていたことは、「私は良くも悪くも異分子なんだなあ」ということ。関西と東北では、方言だけでなくコミュニケーションの取り方やパーソナルスペースがまったく違う。中高一貫の男子校出身ということもあり、コミュニケーションがストレートすぎたり乱暴だったりするところがあったと思います。いわゆる「関西ノリ」はありましたね。でも、大学生活の中で多様な文化や価値観に触れ、人との関わり方を学ぶことができました。良い意味で自分の個性を活かせたと思いますし、自分の「外在化」ができたと思います。
研究室では厳格な指導の下で論文執筆や学会発表を経験し、実力と粘り強さが養われたと思います。また、ロシア語の授業を通じて異分野の友人と交流するなど、総合大学ならではの環境が学問だけでなく人間的成長にも繋がりました。

混声合唱部で感じた仲間との信頼の大切さと、小田和正さんの魅力
学友会では、高校の頃から続けていた混声合唱部に所属しました。副代表・会計として運営に関わっていましたが、当初は練習に消極的だった姿勢が原因で仲間と衝突したことも。それがきっかけで自分の態度を省み、仲間と和解できて、互いに支え合う関係を築けたことが大きな財産となりました。また、学友会活動を通じて組織運営の難しさを学び、「ステークホルダーマネジメント」への意識も育まれました。
今でも、OBや後輩との繋がりを大切にしています。特に思い出深いのは、私たちの在籍時に小田和正さんが『緑の丘』という校友歌を作ってくださったこと。私たちの練習にもお忍びで来てくださり、「応援してるよ」という気持ちやリスペクトをちゃんと伝えてくださったのが嬉しかったです。小田さんはとても優しく純粋な人という印象でした。音楽に対するまっすぐな姿勢も感じ、「こういうところをファンは信頼し、魅了され続けているのだな」と実感しました。

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東北地域の社会貢献につながる投資スタイルを貫く
現在、私は東北地域を中心とした投資やビジネス開発事業を展開し、地域のスタートアップや地域企業の支援に取り組んでいます。投資は、単なる資金提供ではなく、確実な社会貢献に繋げるための手段。それゆえ専門的な知識とプロフェッショナルな姿勢が必要です。投資先は、東北を愛し、成長を志向しながらも地域の価値向上や雇用創出を目指している企業です。東北は、東京やシリコンバレーなどの場所と比べると投資のハードルは低くないですが、それでも地域の将来のために挑戦する人々を支援し続けることが重要です。そのため、投資家や支援者と「一緒に頑張ろう」という姿勢でファンドを運営しています。
柱となるのは、大きく二つ。一つは「急成長を目指すスタートアップ向け」のファンドで、地域発の革新的な起業家を全国や世界へ羽ばたかせる支援。もう一つは「地域に根付く中長期的に成長を見込む企業向け」のファンドで、地域の既存企業や自治体の課題解決に貢献できる企業に投資しています。特に後者は、地域金融機関とも連携し、堅実な成長を支えることを目的にしています。

地域と企業が共に成長できるエコシステムを目指して
東北の産業構造や地域の特性に合わせることも重要なテーマです。農業のデジタル化やカーボンクレジット管理※注1など、地域課題の解決につながるテクノロジーを活用する企業に注目し、投資しています。特に、福島県浜通りの福島イノベーションコースト構想やF-REI(福島国際研究教育機構)は、これからの東北を考える上でキーになる取り組みです。
東北地域のために、投資を通じて新たな挑戦を企業に促し、地域と企業が共に成長するエコシステムをつくること。そのために、資金を提供するだけでなく、地域の課題に寄り添い、スタートアップと地域企業の双方を支援することが、地方創生の重要な鍵だと思っています。
注1.カーボンクレジット 二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの削減量や排出権を企業間で売買できる仕組み
PROFILE
福留秀基さん
大阪府堺市出身。2017年3月、東北大学大学院工学研究科通信工学専攻博士課程前期2年の課程修了後、株式会社シグマクシスにてデジタル戦略コンサルタントとして活動。その後スパークルに参画、現在代表取締役。ハイテク・R&D領域を中心としたベンチャーキャピタル業務、デジタルを利活用した東北発DXの推進、戦略領域を中心としたコンサルテーションを実施している。宮城大学客員教授、宮城県スタートアップアドバイザー、一般社団法人東北絆テーブル理事。