国立感染症研究所への質問状(2022年2月1日)
国立感染症研究所からの返答(2022年2月8日)New!
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国立感染症研究所への質問状(2022年2月1日)----------------
2022年2月1日
国立感染症研究所
所長 脇田隆字様
「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第6報)」の空気感染(エアロゾル感染)に関わる記述への公開質問状
前略
貴研究所が発表した「SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第6報,1月25日一部修正版)」(以下,第6報)に,科学的に
1.論理展開上問題ありと思われる記述,また
2.世界的コンセンサスが得られている考え方との一致しない記述
が見受けられますので,貴研究所の公式見解について質問させていただきたく存じます.
貴研究所の報告は政府や自治体の新型コロナウイルス感染対策の基礎資料となります.報告書に不正確な点があれば,これに基づいて日本国中でなされている飲食店や旅館業,会社,学校,運送業,家庭等での対策の有効性が大きく損なわれることになります.問題の重要性,緊急性に鑑み,速やか回答をくださるようお願いいたします.尚,本件は高い公益性があり,知見は社会全体にただちに共有されるべきものですので,公開を前提にご回答くださるようお願い申し上げます.
本質問状で取り上げる「第6報」の記述箇所は,「ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見」・「感染・伝播性」の第2段落であり,以下の部分です(以下引用).
『実地疫学調査から得られた暫定的な結果からは,従来株やデルタ株によるこれまでの事例と比較し,感染・伝播性はやや高い可能性はあるが,現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず,従来通り感染経路は主に飛沫感染と,接触感染と考えられた.また,多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば,換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていた.基本的な感染対策(マスク着用,手指衛生,換気の徹底等)は有効であることが観察されており,感染対策が守られている場では大規模な感染者発生はみていない.』
質問事項
1. 不可解な論理展開について
第6報では,多くの感染事例が換気の不十分な屋内等で生じているとの観測事実が記され,「感染経路は主に飛沫感染と,接触感染」であるとの主張がなされています.しかるに,私たちが考えるに,感染経路が主に飛沫感染と接触感染であるならば,その発生頻度は換気とは関係しないはずです.
そこで質問です.
Q1. 飛沫(droplet)は,感染者の口腔から放出された後,速やかに落下するものを指すという理解でよろしいでしょうか.
Q2. そうであれば,屋内での換気の良し悪しとは関係ないはずです.いかがでしょうか.
換気の悪い屋内で感染が多発しているのであれば,それは,感染者の口腔から放出されたウイルスを含む粒子が速やかに地面に落下することなく,屋内空間の空気中に「滞留」した状態,すなわちエアロゾルによって感染が多発していることを意味すると考えます.
Q3. その点はお認めいただけるでしょうか.
そのような感染様式は,エアロゾル感染です.一方でエアロゾルの構成要素である空気に注目した感染様式,あるいは感染伝播様式のクライテリアでいえば,英語では“airborne infection”あるいは“airborne transmission”と呼ばれます.
Q4. それはお認めになられるでしょうか.
airborne は英和辞典では「空気で運ばれる」あるいは「空中を浮遊する」と訳されるものですから,airborne infectionの日本語訳は空気感染,あるいは空気媒介感染です.
貴研究所が得ている観測事実は,その記述から分かるように今回のオミクロン株やデルタ株以前の従来株から一貫してairborne transmission(空気媒介の感染伝播)が多発していること意味しています.しかるに,第6報では,「従来通り感染経路は主に飛沫感染と,接触感染」であると主張なされています.
Q5. 貴研究所のこのような主張は,私たちにはロジカルに全く理解ができません.どのように解釈すれば理解できるのでしょうか.明確にお答えいただきたく存じます.
なお,基礎科学を踏まえたエアロゾルの理解に立ち返れば,粒子の粒径などを元に,特定の粒径以下をエアロゾルや飛沫核と呼び,特定の粒径以上を飛沫と呼ぶこと,さらには定義もあいまいな「マイクロ飛沫」なる造語を持ち出してくることについては,科学的意味や妥当性がないことも明らかです.
エアロゾルの粒子は,粒径によって静止空間における物理的沈降速度が違い,粒径の増大とともに床面に落下するまでの時間が連続的に短くなります.しかし,特定の粒径を境に,その沈降速度に意味を持った境界が生ずることもありません.マイクロ飛沫なる概念も,今述べた意味において不必要な概念だと考えます.このようなエアロゾルに関する科学的理解は,最新のものとしては2021年夏に公開されたScience誌のレビュー論文 (Wang et al. Airborne transmission of respiratory viruses) からも明らかでしょう.
2. 世界的にコンセンサスを得られている科学的知見との不一致について
新型コロナウイルスの主たる感染の運び手はエアロゾルであって,Fomite infection(接触感染)は稀であることが,世界の科学界のコンセンサスとなっていると考えます.
このことは,WHOやCDCも認めており,だからこそCDCは最近医療従事者だけでなく国民へのN95マスク着用の推奨までしているわけです.Nature, Science,BMJ などの学術誌・医学誌でも既にレビュー論文を載せたりeditorialで認めたりしており,日本の科学者も標準的知見として日常的に触れている知見です.しかるに,貴研究所では未だにこれに反する形で,「感染経路は主に飛沫感染と,接触感染」と主張しています.
Q6. この齟齬について,どのように理解すれば良いのか,ご説明願います.
以上の質問に対し,できるだけ早くご回答いただければ幸甚です.ご回答は以下の事務局までメールでお送り頂けますと幸いです.
草々
質問者: 本堂 毅 東北大学大学院理学研究科
西村 秀一 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部
清水 宜明 愛知県立大学看護学部
米村 滋人 東京大学法学部(医師,医事法)
御手洗 聡 結核予防会結核研究所抗酸菌部
向野 賢治 福岡記念病院・感染制御部
森内 浩幸 長崎大学大学病院小児科
平 久美子 東京女子医科大学附属足立医療センター麻酔科
角田 和彦 かくたこども&アレルギークリニック (*)
平田 光司 高エネルギー加速器研究機構 (*)
(*) 質問状送付後に参加のお返事が事務局に届いた方
事務局
〒980-8578
宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6−3
本堂 毅
------------- 国立感染症研究所からの返答・全文(2022年2月8日到着) ------------------
2022年2月7日
東北大学大学院理学研究科
本堂毅様
国立感染症研究所
所長
脇田 隆字
この度はお問い合わせをいただき有難うございます。ご質問の内容につきましては、研究者の間で議論の途上にあるところと認識しており、学術界において科学的な知見を基に合意形成がなされていくべきものと考えております。
国立感染症研究所といたしましては、今回お問い合わせのあったご意見も参考にしながら、今後とも最新の科学的な知見に基づき感染症対策に資する情報発信を適切に行っていく所存です。
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関連リンク
国立感染症研究所の感染経路分類についての公開質問状(2022年7月14日)
https://web.tohoku.ac.jp/hondou/letter2/
最新の知見に基づいたコロナ感染症対策を求める科学者の緊急声明 (2021年8月)
https://web.tohoku.ac.jp/hondou/stat/
http://web.tohoku.ac.jp/hondou/stat3/