藪の中

医者に問われたる博士学生の物語
昨日の、―さあ、昼頃でございましょう。森の奥で調査をしていたら、眼前にドラミちゃん似の森の精が現れ、あなたが落としたのは金のラン?それとも銀のラン?と聞くではありませんか。気がつくと確かに採取した植物を落としてしまったようでありました。どちらでもありません、落としたのはただの笹です、と上ずった声で答えましたら、正直なあなたにはこちらの菌の子実体をあげましょうと言って消えました。―いえ、せっかくなのでもらってきました。私はきのこ博士になるのです。―(喜色満面)

医者に問われたる修士学生の物語
先輩はきのこばかり写真に収めて、―僕のカメラなんですよ。もううんざりして、根掘りを放り投げちゃって。―ええ、よくわかりましたね、森の精が。私はピーチ姫似の彼女の質問にこう答えたんです、「僕が落としたのは貴女への想いです」と(キリッ)。僕は森の精の心をつかんで仙台に連れ帰りましたが、気づくと、どうです―僕が膝の上に抱いてふざけ合っていたのは丸太ではありませんか。暑さに頭を?冗談ではありません、こうして丸太の年輪を数えて御覧なさい、―どうです、23年です。あの娘は23歳だったのに違いありません…きっと仙台の毒気に…(後は泣き入りて言葉なし)

医者に問われたる学生の指導教員
泉ヶ岳と大東岳に行くと言って出て行きましたが、その日はかなりの酷暑でした。帰ってきた彼らは暑さにかなりやられているようでした。―こうして、手をかざして指の数を問うても、暑い暑いと申すばかりで言葉になりません。彼らの荷物を見ると、ちょっと残念な点もありますが調査自体は概ね成功といった具合だったようで…後は正気に戻ればいいのですが…―そうですか、それを聞いて安心しました。ええ、この時期の調査には暑さに気をつけるよういっそうの注意を喚起するつもりです。

YS

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