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種子散布についての長めの注釈 

種子散布のタイプがいろいろ出てきたので、このへんで少し整理してみましょう。実例については少しずつリンクを張っていきます。

種子の散布型

 地中に根をはってしまうと移動できない植物は、いろいろな方法で種子を散布します。主なものに風散布型・水散布型・動物散布型・自動散布型・重力散布型があります。でも実際の種子の散布は、必ずしもはっきりと分けられるものではありません。たとえば、風散布型の種子は天気がよく乾燥した日には風に乗って遠くへ飛びますが、雨の日には雨粒によって親の足もとに落下します。あるいは川に落ちて流されたりします。水散布型といわれるオニグルミも樹上でニホンリスに運び去られますし、落下したあとアカネズミに運ばれて地中に蓄えられ、食べ忘れられると次の春に芽を出すこともあります。自動散布型のスミレは飛び散ったあとアリに運ばれて巣の近くに散布されます。このように同じ植物でもいろいろな散布をする場合があり、これを多型散布といいます。

風散布型種子

 冠毛・羽毛・翼・羽根・袋などの附属体をもったものや、極めて小さいものです。風によって運ばれるためには軽いことが必要です。しかし種子を小さくすると次代をになう胚の栄養が少なくなり、芽生えの定着率は低下してしまいます。また、風で運ばれても生育可能な地点に落下することはわずかです。そのため多量の種子を広く散布する必要があります。

水散布型種子

 雨によって運ばれるもの、川・池・湖などの淡水によって運ばれるもの、海流によって運ばれるものがある。

動物散布型種子

 果実が動物に食べられ種子だけが消化管を通って糞とともに排出されるもの、体の毛や皮膚に付着して運ばれるもの、食料として運ばれ貯蔵されたものなどがあります。糞として排泄されるものの多くは多肉果に包まれています。これらの種子は堅い殻に保護されていて、鳥の砂嚢の運動や消化液によっても発芽力が低下しにくくなっています。運ばれて貯められたものは、一部が食べ残され、発芽します。

自動散布型種子

 ちょっと触れただけでも熟した果実が割れて種子の飛び出すものや、落下したあとに果実や種子の一部で移動する能力があるものたちです。この散布は、細胞の急激な膨圧の変化による運動や、乾燥したり湿ったりすることで組織が伸び縮みする運動で起こります。

重力散布型種子

 果実や種子の形に特別な仕組みがなく、親の周囲に落下します。遠くへは行けませんが、親と同じ環境ですから定着率は高くなります。

 

種子の散布と植物群落の形成

 火山の噴火や山くずれで新しくできた裸地にも、何年かたつと草が生えるようになります。最初に侵入してくる植物の種子は風に乗って飛びやすい形をしています(風散布種子)。これらの植物が生えるようになると、小鳥や小型のけものたちが集まってきます。すると動物の糞の中に含まれた種子が供給されます(動物散布)。重力散布型の種子は遠くに飛べないので、親の近くに発芽・定着します。ですから重力散布型植物が新しい裸地に定着するのには、長い時間がかかります。陸地から遠くはなれたところに分布を拡大するには、風・水・動物散布型種子が有利です。

種子交換事業

 植物園では1967年から世界各国の植物園との間で野生植物の種子交換事業を行っています。日本の植物の種子を生育地で採集し、園本館の保管庫に選別保存しています。各国の植物園へ保存種子目録を送付し、リクエストがあった植物について種子を送ります。この事業は世界の研究者の材料収集に便宜をはかりながら、種・遺伝子資源の保存に役立っています。新しい園芸植物の作出やバイオテクノロジーの材料としても利用されています。

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