日本では癌によって年間37万人以上の尊い命が失われ(死因順位第1位)、医療費は年間4.5兆円を超えており、その治療技術の向上が急がれます。癌細胞は正常細胞と異なり熱感受性が高く、約45℃に加熱されると収縮します。この特徴を利用して、近年、磁性ナノ粒子を癌部位に集積させ、体外から高周波磁場を印加することで、癌部位を局所的に加熱する磁気温熱療法(磁気ハイパーサーミアとも呼ばれる)が国内外で注目されています。この療法は手術・化学・放射線療法に比べ侵襲性や副作用が少なく、化学放射線療法等と併用することで治療効果を増強する等の知見も報告されています。この数年間、多くの研究者が磁性ナノ粒子を研究開発(性能向上や微細化等)しており、磁気加熱治療法を始め、様々な医療分野への応用(薬物送達や癌マーカー等)にもアプローチしています。
磁気温熱療法の核心的な要素技術として①位置温度検知や送達等への応用のため高性能かつ高発熱効率を持つ磁性微粒子を始め、②磁性微粒子の患部への送達技術、③磁性微粒子の位置・温度検知技術、④患部の定温加熱技術(励磁制御、自己温度制御発熱体)等が挙げられます。まだ、磁気温熱治療技術は確立されたとは言えず、さらなる実用化に向けた磁気温熱治療装置の研究開発の迅速化が必要とされています。
本研究では、がん治療応用に向けて高機能性磁性微粒子を開発し、それを腫瘍に取り込ませ、その磁性微粒子の位置及び温度を検知しながら定温加熱する磁気温熱治療装置を構築することを目的としています。本研究の主な研究テーマを以下に列記します。
(1)臨床応用に向けて簡易型自動定温加熱治療システムを開発します。
(2)体内に埋め込まれた磁性微粒子の簡単かつ迅速な定位法を開発します。
(3)体内に埋め込まれた磁性微粒子のリアルタイムかつワイヤレス測温法を開発します。
(4)高い発熱効率かつ高い感温性を有する機能性磁性微粒子を開発します。
関連文献
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